No.352 肺腫瘍

犬や猫の肺腫瘍の多くは、乳腺の悪性腫瘍など、他の部位の腫瘍からの転移(メタ)で、原発性のものは犬では稀で、猫ではさらに稀です。

原因として、遺伝的素因、都会的生活や受動喫煙が発生率と関連があると言われてはいるものの確実な疫学的根拠はありません。犬猫ともに平均10歳で発生し、性別や犬種・猫種で特異性はありません。

犬猫の原発性肺腫瘍のほとんどは悪性であり、最も一般的なのは肺腺癌です。その他、扁平上皮癌や組織球性肉腫などがあります。犬の原発性肺腺癌の多くは孤立性であり転移は比較的稀です。転移部位として、典型的には気管-気管支リンパ節や別の肺葉に起こります。

症状は末期になると咳や呼吸促拍、疲れやすくなるなどが出ますが、初期にはほとんどわかりません。早期発見には日頃の健康診断がオススメです。他の疾患にもいえることですが、目安は10歳以下で年に1-2回、10歳以上で年に3-4回程度、麻酔の必要のない検査で十分ですので、全身のチェックをすることが推奨されます。また、非常に稀ですが、腫瘍随伴症候群として肺性肥大性骨症を起こし四肢に痛みを示す場合があります。

診断はレントゲン検査で怪しい影を見つけたらCT検査を行って、手術可能かどうかを見極めます。孤立性の場合は大きくても外科適応です、多発性の場合は外科不適応です。FNA(針生検)などで細胞の検査ができると診断の助けになります。また、転移性のものは多くの肺葉に病変(メタメタ)を作るので外科的な治療ができません。

治療は、原発性のものは可能なら外科手術です。放射線治療もありますが外科手術に付随して行うことがほとんどです。残念ながら効果的な抗癌剤は今のところまだありません。

原発性肺腫瘍のレントゲン


No.351 小鳥のそ嚢炎

小鳥の来院理由の多いものの1つにそ嚢炎があります。そ嚢は食道の一部が袋状に膨らんだ器官で、飲み込んだ食べ物の一時保管場所としての働きがあります。ワシやタカなどの猛禽類では、丸飲みした獲物をここに貯留し、帰巣後ゆっくりと飲み直しますし、インコや文鳥など草食性の鳥類では、ついばんだ穀類などをそ嚢に貯めておき、餌が水分を吸って軟らかくなってから胃に送り込みます。また、そ嚢から吐き戻した食べ物を求愛相手に与えたり、雛 に食べさせたりします。

場所は首の付け根です。まだ羽毛が生えそろわない幼鳥ですと分かりやすいです。首の背面に食べた餌が透けて見える場所がありますが、成鳥の場合、羽毛を掻き分けるように探します。

そ嚢の中は食事によって栄養豊富です。しかも胃液などの消化液を分泌しないので、細菌やカビなどの微生物が住み着きやすく、その微生物が異常増殖するとそ嚢炎が生じます。多くの場合、胃や腸にも影響を及ぼし、嘔吐、下痢、食欲不振の消化器症状が起こります。その他、そ嚢がブヨブヨと膨らみ赤黒い色調になったり、口、鼻、眼の周囲や羽毛の汚れ、開口呼吸、特有の嫌な臭いがするなどの症状も見られることがあります。また、幼鳥や老鳥など体力の衰えた鳥はそ嚢炎になりやすい傾向があります。粟玉、パンなど炭水化物の豊富な餌を与えることも誘因になります。オスのインコでは、求愛行動としての餌の吐き戻しがあり紛らわしいです。

・求愛行動:首を縦に振りながらドロドロと吐く

・そ嚢炎:ピッピッと首を横に振ってまき散らす様に吐く

などで見分けます。

診断は、そ嚢を視診・触診することによって、腫脹、うっ血・充血の有無を調べます。これらの所見に加え、そ嚢にカテーテルを挿入し、そ嚢分泌液を採取し顕微鏡で調べます。各種細菌、真菌(カビ)、原虫が原因微生物となります。原虫(トリコモナスなど)については、1個体でも検出したら病原体とわかりますが、細菌や真菌は、元々小鳥のそ嚢の常在菌であることが多いので、病原体と決め付けるのは難しいのです。菌種・菌数を勘案して判定します。

治療は、原因となる微生物を取り除く薬を投与します。トリコモナスには抗トリコモナス薬を、真菌に対しては抗真菌剤を、細菌性のそ嚢炎には抗生物質を投与します。混合感染している場合は、複数の薬剤が必要な場合もあります。衰弱が進んでいなければ、治療に良く反応する病気です。しかし、小鳥はちょっとしたきっかけで、一気に病勢が深刻化するケースがあります。

そ嚢の場所


No.350 誤食の予防

犬種にもよりますが、とくに子犬のうちは誤食は多いものです。誤食の予防のしつけには以下のようなゲームがオススメです。

ちょうだいゲーム:「ちょうだい!」のコマンドで、口にくわえたものを放せるように教えるゲームです。犬がおもちゃをくわえていたら「ちょうだい」と言いながら取り上げます。同時にスペシャルなおやつ(極少量で良いです)を与え、おもちゃを返します。物に執着するタイプの犬の場合は噛まれないように注意してください。

オフゲーム:「オフ」のコマンドで、口にしたものを離して待つことが出来るようにするゲームです。おやつを手に持って、犬の鼻先に持っていき「オフ!」と言います。犬はおやつが欲しくて、舐めたり匂いを嗅いだりしますが、手に持ったおやつは動かさずにじっとしていましょう。犬が離れたら「グッド!」とほめておやつを与えます。最初はおやつから目をそらすだけでもOKです。何度も根気よく練習をしていき、最終的には床に置いたおやつでも「オフ」ができるようにします。おやつは必ず飼主さんの手から与えるようにしましょう。

名前呼びゲーム:犬が何かに気を取られていても、名前を呼べば飼主さんの方を見るゲームです。とくに散歩のときにやるのがおすすめです。名前を呼んでこちらを向いたら、ごほうびのおやつを与えて下さい。拾い食いをしそうになっても、名前を呼ぶことで防止することができます。

また、散歩中にロングリードを使わないことや、食べ残しが落ちている可能性がある、小さなお子さんたちが遊んでいる公園、コンビニのそばを通る時は抱っこする。石などを呑み込んでしまう場合は、飲み込むのにちょうど良い石が落ちている場所には近づかないなどの対処も必要です。どうしてもだめなら、コントロールが付くまで、お水の飲めるタイプの口輪などを使うのも1つの方法です。また、食べてしまいそうになった場合も、絶対に騒がず、冷静に「ちょうだい」や「オフ」のコマンドを出してください。飼主さんが騒いだり、口をこじ開けようしたりとすると、取られまいとしてとっさに飲み込んでしまうことがあります。誤食が起こってしまったら、早目に動物病院に相談して下さい。


水を飲めるタイプの口輪もオススメです

こちらもご参照下さい
No347 犬の食糞


No.349 猫の鼻タッチゲーム

親しい猫同士が顔を合わせた時、お互いの鼻先を近付けるのは、相手の鼻の匂いを嗅ぐことで挨拶をしているといわれています。この挨拶により、相手がどんなところへ出かけていたかなどの情報もわかるようです。また、鼻の匂いを嗅ぐという行動を示すことで、相手に対して敵対心がないということを表現しています。この行動に性別は関係なく、お互いが親しい間柄と認めている猫同士では頻繁に行われているようです。ヒトでいうところの会釈に近いと考えられており、軽めの挨拶といえるでしょう。家で猫を多頭飼いしている場合、猫同士がこの行動をとるかどうかで、その猫たちの親密度を確認することができます。

猫はヒトに対しても鼻を近づけてくることがあります。外から帰宅した時に行うようであれば猫同士の挨拶に近い意味があるでしょう。それ以外でも、お腹が空いた時、遊んでほしい時、撫でてほしい時など、飼主さんに対して何か要求をしたい時に行うこともあります。また、飼主さんが鼻ではなく指先を近づけた場合も、猫はクンクンと鼻を近づけてきます。猫には、鼻のような突起物の匂いを嗅ぐという習性があるため、指などにも同じように反応します。猫とヒトとの関係がそれほど親しくない場合は、大抵の猫は警戒心を募らせ簡単には近づこうとしません。警戒心がさほど強くない猫であれば、指先をクンクンしてくれるかもしれませんが、これは挨拶や要求ではなく、相手が何者なのか匂いを嗅いで知ろうとしての行動です。もし、どこかで嗅いだことのある匂いなら、安心して近付いてきますし、不審を感じた場合はそのまま逃げてしまうかもしれません。

猫のこの習性を利用したゲームがあります。
1猫の目の前に指を出す。
2鼻をくっつけてくれたらおやつ(おやつは極小さめで良いです)を与える。
というシンプルな遊びです。慣れてきたら鼻を手に変えてハンドタッチゲームにします。ハンドタッチに慣れると、飼主さんが動いて猫にも動いてもらって遊ぶことができます。良い運動になり運動不足の解消にもなります。また、様々な問題行動の予防・治療にも使えます。

猫はもともと、コントラフリーローディング効果(下記)の例外の動物として有名なので、すぐに乗って来ない場合もあります。おやつを与えることから始めて徐々に慣らしましょう。

コントラフリーローディング効果:「動物は食事を労せず得るよりも、なんらかの対価を払って得ることを好む」という1960年代の研究。レバーを押すと食事がでてくる仕組みを学習させたネズミに、自由に食事が取れるボウルと、レバーを押すと食事が出てくる装置の2つの選択肢を与えると、多くのネズミはボウルからではなく、わざわざレバーを押して食事を獲得することを選んだ。この研究は、動物は本能的に苦労や努力などの対価を払って報酬を得ることを好むということを示しています。ネズミだけでなく、犬や鳩、チンパンジーなどの動物でも同様の結果が得られましたが、猫だけはレバーを押さずにボウルの中にある食事を食べました。この論文のタイトルは「猫の怠惰」(Feline indolence)と付けられています。


猫の鼻タッチゲームを是非やってみて下さい


No.348 犬の尿漏れ

犬の尿漏れ(失禁)の原因は尿道括約筋の異常です。膀胱から尿が漏れないようにする尿道括約筋が、自律神経でコントロールされている内尿道括約筋と、体性神経(運動神経と感覚神経)でコントロールされている外尿道括約筋の2種類あるため、原因は大きく2つに分かれます。

自律神経は意思ではコントロールできません。腰の背骨(脊椎)やその中を走る神経(脊髄)に異常があると、内尿道括約筋を閉める力が弱くなり、ひっきりなしに尿が漏れます。そのような場合は自律神経を強める薬を使います。

体性神経は意思の力でコントロールできます。避妊手術や去勢手術をしたワンちゃんでは、女性ホルモンや男性ホルモンが少なくなるために、意思でコントロールできる外尿道括約筋が薄く弱くなります。意思が及ばない睡眠中に尿が漏れます。これを「ホルモン反応性尿失禁」と呼びます。このような場合はホルモン剤を使い、尿道を閉める筋肉を回復させます。

いろいろな薬がありますが、犬に女性ホルモンを与えると回復の難しい貧血になる場合があるため、不妊手術後のメスに対しても男性ホルモンを与える場合があります。効果は女性ホルモンとほとんど変わりません。ほとんどの場合は3週間ほどで効果が出ます。大型犬では超音波検査で尿道括約筋の厚みを測り、回復の度合いを調べることができますが、小型~中型犬では、薬の量を減らして症状をみることが多いです。投薬を止められる場合と生涯に渡って必要な場合があります。


No.347 犬の食糞

アメリカで行われた犬の食糞に関する調査で、飼主さんに犬の食糞を見たことがあるか聞いたところ、見た回数1~5回が7%、6回以上が16%でした。つまり4頭に1頭は食糞をしていることになります。その中でも食糞が多かった犬種は、シェットランドシープドッグとテリア種、ハウンド種でした。食への関心や好奇心が強い犬ほど、食糞が多くなるようです。

食糞は問題行動ととらえられがちですが、問題なのは人間側にとってであって、犬にとって特別な行動ではありません。例えば母犬が赤ちゃんのうんちを食べることがありますが、これは巣穴の衛生環境を保つためと考えられています。犬の祖先であるオオカミは草食動物のうんちを食べることがありますが、自分では消化できない食べ物の栄養を他の動物のうんちから摂取するためと考えられています。子犬の場合の食糞は飼主さんに何かを伝えたいときのシグナルであることが多いです。

食糞は病気が原因で起きている場合もあります。
・腸内寄生虫による栄養不足
・病気による消化不良(消化管、肝臓、膵臓の疾患)
・認知症
特に成犬で急にうんちを食べるようになった場合は注意が必要です。

また、食事量が足りていない時もあります。子犬の急速な成長に栄養が不足している場合などです。ペットショップやブリーダーなどで教わった量や増やし方をそのまま続けている場合もよく見られます。少なくとも1週間に1回は体重測定をして最適な量を与えましょう。フードの質が悪い場合もあります。

これらのことを除外すると、子犬の食糞の原因は、
・母犬と離れるのが早過ぎた
・飼主さんの気を引いている
・暇で退屈
・怒られたくない
などが挙げられます。

このような場合の具体的な対処法は、
1.うんちをしたら無言ですぐに片付ける
2.その時に誉めながらおやつをあげる
です。うんちをしているときに声をかける必要はありません。おやつをあげるときに大切なのは、スペシャルなおやつを用意することです。チーズやジャーキー、レバーなど、匂いが強くて柔らかめのものがオススメです。極少量で良いです。飼主さんの意向通りにできたときのみ食べられるものであることが重要なので普段は与えません。うんちよりも美味しいものがもらえると認識させることが大切です。片付けが終わったらご褒美がもらえるというルールを少しずつ覚えてもらいましょう。少しオーバーに褒めてあげることもご褒美になります。ルールを覚えることで、うんちが出た瞬間に食べるという行為は減っていきます。

次の段階では、うんちが出たら教えに来るということを覚えてもらいます。
1.うんちをしたら飼主さんの近くでお座りをさせる
2.うんちを片付けてからおやつを与え同時に褒める
少しずつ教えていくことで、食糞が減るとともに、うんちが出たら知らせに来てくれるようになります。


子犬の時期の食糞は珍しいことではありません


No.346 ハムスター、チンチラの直腸脱

直腸が肛門から反転して飛び出してしまった状態を直腸脱とよびます。犬や猫、フェレットでも起こることがありますが、とくに、ハムスターやチンチラは直腸脱を起こしやすい動物として知られていて、犬や猫、フェレットの場合と違い、命にかかわることが多い疾患で、迅速な対応が必要です。

直腸脱は、下痢や便秘、加齢などが素因となって、過度の腹圧がかかった時に起こります。下痢にはウェットテイルと呼ばれる腸疾患や寄生虫が関わっていたり、便秘には腎不全や水分摂取不足などが関与していることがあります。また、異常な蠕動によって腸の中に腸が入ってしまう腸重積を起こしている場合も多いです。一番多くみられるのは、ハムスターの幼体が下痢をしている時です。

飛び出してしまった腸は、鬱血や感染を起こしてしまいます。処置をせずに時間が経過してしまうと、飛び出した腸が壊死してしまったり、全身に感染がまわって、命にかかわることがあります。とくに腸重積を起こしている時は予後が悪い場合が多いです。

治療は、まずは脱出した腸をなるべく早くに肛門内に戻すことです。すぐに病院へ行きましょう。再脱出することも非常に多いので縫合糸で肛門を巾着縫合します。すでに腸が壊死している場合や、再脱出をする場合は、全身麻酔下での開腹手術が必要になります。また、原因となるような疾患の治療も同時進行で行います。治療はとにかく時間との勝負です。とくに開腹手術は状態が悪くなる前に行うことが必要です。様子をみることは良くない結果になることが多いです。

ハムスターの直腸脱は幼体で下痢をしている場合に多いので、お家に迎えたら、まずは寄生虫がいないかどうか、飼育法が間違っていないかどうかなどを、動物病院で確認してもらってください。また、チンチラでは高齢で多い印象です。定期的な健康診断を受けて下さい。

腸重積で壊死した大腸を取り除き、健康な部分で繋いだところ(手術時の写真が出ます。苦手な方はクリックしないで下さい)

こちらもご参照下さい
No241 エキゾチックペットへの全身麻酔
No123 下痢


No.345 リクガメの呼吸器疾患

リクガメの呼吸器疾患時の症状は、鼻からの分泌物(鼻水)、呼吸の異常、食欲や活動性の低下が見られます。ただし、鼻からの分泌物は鼻汁と嘔吐の鑑別が必要です。嘔吐は消化管の問題で起こります。緑から茶色の唾液が鼻から出てくるので、鼻汁と間違いやすいです。また、爬虫類はもともと呼吸数が少ないので、呼吸の異常は分かりにくいです。

呼吸器の異常の原因は非感染性と感染性に分けられます。それぞれ単独の原因というより、複合して発生することが多いです。非感染性の場合では、脱皮不全、異物、ビタミン A 欠乏症、アンモニア臭などが発生要因となります。鼻の穴の周辺の脱皮した鱗や皮膚が鼻腔を塞いだり、床材や粉塵などの異物が鼻に入りこむこともあります。ビタミンAの欠乏が起こると、鼻腔や肺の粘膜が変性して感染を起こしやすくなります。掃除が足りないと排泄物のアンモニアが呼吸器に刺激を与えます。また、横隔膜で胸とお腹を明確に分けられていない爬虫類では、お腹の炎症や腹水が、胸にある肺に影響を与えて、呼吸の異常が起こる場合があります。食滞や便秘によって拡張した消化管が肺の動きを抑えたり、メスだと卵黄が破裂して腹膜炎を起こし(卵黄性腹膜炎)、炎症が肺にまで及ぶ例があります。

感染性の場合は、細菌、真菌、ウイルスなどが原因で、稀に寄生虫があります。感染は主に免疫低下が引き金で発症します。原因は細菌とマイコプラズマが多いです。特にリクガメではマイコプラズマ感染症が問題で、Mycoplasma agassizii が主な原因と言われています。真菌は環境中に存在しているものが多く、免疫が低下した際に皮膚や甲羅に感染しますが、全身性の感染ならびに鼻炎・肺炎まで引き起こす場合もあります。また、カメは長くて折れたたみこまれた気管のために、肺が閉鎖的になりやすく、真菌性肺炎になりやすい解剖学的な特徴があります。ウイルス性肺炎は、ヘルペスウイルスとラナウイルス(イリドウイルス)が原因となることが多く、結膜炎や鼻炎などの上部気道炎に加えて、気管や口の中に黄色く見える化膿巣ができて肺炎を併発します。他にも神経症状、肝炎や腸炎も引き起こします。ヘルペスウイルスは地中海沿岸に生息するギリシャリクガメやヘルマンリクガメ、ヨツユビリクガメなどで無症状のキャリアになりやすいことが問題とされ、これらのカメでは口内炎の症状くらいしか出ませんが、ヘルペスウイルスは他の種類のカメへも感染することが知られ、ウイルスの種類の多様化も進んでいます。分類上ではそのウイルス名が混乱しており、Chelonivirus(カメウイルス)という新たな分類名も提案されています。ラナウイルスはカエルに大量死をもたらすウイルスとして有名ですが、カメにも肺炎と口内炎などを起こし、全身に蔓延して死亡することもあります。カメのウイルス性肺炎では、マイコプラズマとの重複感染によって、症状がひどくなることもあります。リクガメでは寄生虫であるコクシジウムが全身に蔓延し、その結果肺炎も引き起こして死亡することがありますが稀です。

カメの呼吸器症状は、苦しいために、空気を吸おうとして首と前足の小刻みに出し入れする動作が頻繁に見られます。リクガメでは鼻水が見られ、鼻ちょうちんができることもあります。リクガメの鼻水は、透明だと非感染性が疑え、感染がひどくなると黄色や緑色の膿性に変化し、湿った鼻の呼吸音が「ピーピー」と大きく聞こえてきます。いずれのカメも症状が進行すると深い呼吸をして、口を開けたままになり、目を閉じて活動も低下します。この段階だと食欲もほぼなくなっているはずです。鼻と目、耳は細い管でつながっているので、結膜炎や鼻孔と目の間が腫れたり、鼓膜が赤くなったり、そして中耳炎が併発することもあります。

肺炎はレントゲン検査で診断しますが、軽症例ではレントゲンで明確な肺炎を診断できない場合があります。可能ならCT検査がベストです。

治療は、鼻汁から細菌や真菌が認められれば抗生物質や抗真菌剤を投与します。ウイルスの検査は難しく、例え診断されても特効薬はありません。飼育環境の見直しや点滴、強制給餌、状況によっては食道瘻チューブの設置などが必要です。


鼻水が出ているリクガメ


No.344 犬の胆嚢粘液嚢腫

皆様、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。

胆嚢はイチジク状の袋で、肝臓の右側にくっついています。肝管という管で肝臓とつながっていて、肝臓で作られた胆汁は一旦胆嚢に蓄えられます。胆汁は水分が豊富で、胆汁酸、胆汁色素(ビリルビン)、コレステロールなどが多く含まれています。胆嚢では胆汁の水分を吸収して濃縮しつつ、粘液(ムチン)を分泌して胆嚢自身が傷つかないように守っています。食事をすると胆嚢は収縮して、たまった胆汁は総胆管という管をとおり、十二指腸に放出されます。腸に放出された胆汁は、食物と混ざり脂肪分を乳化させ、腸からの脂肪吸収や排便の助けをしています。余った胆汁は小腸で再吸収されます。

胆嚢粘液嚢腫とは、胆嚢内にムチンが過剰に貯留して胆嚢が硬く拡大した状態になり、胆汁の分泌障害や、硬く大きくなった胆嚢が胆管を圧迫して閉塞性黄疸を起こす病気です。重度になると破裂を起こします。この病気は、胆嚢自身を胆汁から保護するために分泌されるムチンが何らかの原因で過剰になったことで発生すると考えられていますが、正確なメカニズムは解明されていません。疑われている原因として、胆嚢の収縮機能低下、胆泥症(微小胆石)、脂質の代謝異常、ホルモンバランスの異常(甲状腺機能低下症、クッシング症候群など)、腸炎などが胆嚢内の粘液過剰の要因になるのではないかと考えられています。初期段階ではほとんどの場合無症状です。長期間かけて胆嚢内で粘液の貯留が限界を超えたり、細菌感染を起こしてはじめて症状が確認されます。定期的に超音波検査を行うと簡単に早期発見が可能です。

胆嚢内のムチンが限界量になった場合、胆汁の分泌障害や胆嚢炎、膵炎、肝炎などによって、嘔吐、下痢、食欲不振、発熱、黄疸、腹痛などが確認されます。とくに黄色いものを吐くという症状がある犬は注意が必要です。胆嚢が破裂した場合は、胆汁による腹膜炎によって命に関わる状態になります。中高齢犬に多く発生します。好発犬種として、プードル、チワワ、柴犬、シェットランドシープドッグ、コッカー・スパニエル、ビーグル、シーズー、ミニチュアシュナウザーなどが挙げられまが、どの犬種でも起こります。

治療は、内科療法と外科療法があります。内科療法は、利胆剤によって胆汁分泌を促進することで胆汁の流れを改善します。ただし、粘液の貯留が重度な場合は、胆嚢破裂に十分注意して使用します。細菌感染が疑われる場合は、抗生剤を投与して感染をおさえますが、あまり効果的な薬はありません。基礎疾患がある場合は、そちらの治療も同時に行われます。特に甲状腺機能低下症がある犬は、そちらの治療によってこの病気の改善が見られる場合があります。重症な場合は、速やかに外科療法を行います。外科療法は胆嚢全摘出を行います。総胆管に閉塞がある場合、カテーテルによる洗浄や、総胆管を切開して閉塞を取り除いたり、胆嚢や総胆管を十二指腸につないで迂回路を作成する手術が検討されます。

原因がよくわかっていないため、予防は難しいのですが、胆嚢の機能をしっかり保つことと血液中のコレステロールや中性脂肪が過剰にならないように管理することです。運動をし、太らせないこと。高カロリーな食事や脂肪分の過剰な摂取は避けましょう。食事の間隔を適度にあけて間食を控えると、胆嚢の収縮する機能は発揮されやすいです。よく効く薬もないので、早期で発見して可能なら外科手術がオススメの疾患です。


胆嚢粘液嚢腫の硬くなって拡大した胆嚢

こちらもご参照下さい
No336 朝食前にに黄色いものを吐く犬猫
No172 急性胆管炎・痰応援
No70 胆嚢疾患


No.343 大腸の悪性腫瘍

便秘が良くならないときは大きな原因があることが多く、その中で最も厄介なものが大腸の腫瘍です。とくに悪性のものには早い対応が必要です。大腸は盲腸、結腸、直腸からなり、ヒトは大腸癌や胃癌が非常に多いといわれていますが、犬や猫はそこまで多くはありません。おそらくは動物が比較的均一な食生活をしていたり、刺激物をほとんど食べないからだと考えられています。寿命の違いもあると思われます。しかし、まったく発症が無いわけではありません。通常の処置で便秘が改善しなかったり、嘔吐や痛みや便に血が混じる場合、症状、便検査、直腸検査、血液検査、レントゲン検査、超音波検査などで大腸の腫瘍を疑った場合は、確定診断には大腸内視鏡検査が推奨されます。大腸の腫瘍には、リンパ腫、腺癌、平滑筋肉腫、肥満細胞腫、GIST(消化管間質腫瘍)などがあり、どれもが浸潤性に大きくなって便の通過を妨げるようになります。

大腸内視鏡検査で悪性の腫瘍が見つかった時の第一選択は外科的切除です。多くの場合が高齢の動物であることから飼主様が麻酔を心配される場合が多いのですが、腫瘍が小さいうちなら手術も比較的簡単で、手術だけで根治が見込める場合もあります。腫瘍が広範囲に広がっている場合や、他部位に転移がみられる場合は予後が悪いことが多いです。通常、盲腸、結腸の手術は開腹して行います。直腸の手術はプルスルー(引き抜き術)といって、肛門部から直腸を出して行います。また、腫瘍が小さくても、直腸(最後の大腸)の腫瘍で肛門括約筋を温存できない場合は、手術後も随意的な排便ができなくなり術後の管理が大変です。肛門の開口部だけでも残せると術後の管理は楽になります。

皆様、今年も1年間ありがとうございました。良いお年をお迎えください。


プルスルー後の肛門部