No.429 慢性肝炎

肝臓はタンパク合成や栄養素の貯蔵・解毒作用など、多くの重要な働きをしており、強い再生能力と予備能力をもつ臓器です。慢性肝炎は肝臓における慢性的な炎症により生じ、炎症の程度により様々な異常を引き起こします。ヒトで一般的にみられるウイルス性肝炎は動物では少なく、胆嚢疾患や膵臓疾患、門脈体循環シャント、肝臓に負担のかかるホルモン異常などの他の疾患から2次的に生じる場合と、免疫異常による肝炎が多数であると考えられていますが詳細な原因は不明です。

最初は目立った症状が出ないことがほとんどです。健康診断やフィラリア検査を目的とした血液検査で、肝酵素値が上昇がみつかり肝疾患の可能性が発見されることが多いです。数ヶ月~数年単位で徐々に食欲不振や嘔吐、下痢、体重減少、多飲などが見られるようになります。元気な時と症状が出るのを繰り返す場合も多いです。病状が進行すると肝機能の低下を引き起こし、消化管の炎症やそれに伴うタンパク質の漏出、低ALB症、黄疸やアンモニア値の上昇、神経症状(肝性脳症)を引き起こし死に至ります。

確定診断のためにはALT.AST.ALP.ALB.T-Bil.TBA.NH3などの血液検査だけでなく、他の疾患との鑑別の為、膵酵素の検査、副腎や甲状腺などのホルモンの検査、腫瘍やシャント血管の有無などの確認の為のCT検査が必要なこともあります。最終的な確定診断には肝臓の組織検査が必要です

慢性肝炎は徐々に病態が進行しているので、治療は進行している炎症と肝機能の低下を抑えることが主になります。炎症に対する治療は肝細胞膜の保護薬や利胆剤、状態によってステロイド剤あるいは免疫抑制剤の使用になります。胆汁鬱滞の改善薬や抗菌薬が使用される場合もあります。しかし、強い再生能力と予備能力を持つ肝臓に著効する薬はありません。早期発見が重要です。

可能であれば食事の改善も勧められます。肝臓の機能が落ちている時は、良質な低タンパク食(加工されていない肉や魚、卵、大豆など)や低塩分の食事が推奨されます。ただし、これらにこだわるあまり、すべて手作りの食事にしようとすると、かえって栄養のバランスが悪くなることもあるので注意が必要です。血液検査上では肝臓の数値が上がり始めているけれど症状が乏しいような状態であれば、低タンパク・低塩分であるシニア用のバランスが取れたフード、もう少し進行して症状が出始めている場合は、肝臓用の療法食を中心に考えるのも良いでしょう。エビデンスは少ないですが、サプリメントや代替医療などが効果的な場合もあります。この他、腹水が溜まったり、神経症状(肝性脳症)に移行して症状が進んだ場合はそれらに合わせた治療が行われます。改善傾向がみられても、症状が繰り返すことが多いので、根気よく対処することが必要です。

こちらもご参照ください
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No.365 門脈体循環シャント (Portosystemic Shunt:PSS)
No.344 犬の胆嚢粘液嚢腫
No.189 膵炎(Pancreatitis)
No.72 肝臓の検査2
No.71 肝臓の検査1
No.70 胆嚢疾患(Gallbladder disease)

クリックすると手術時の写真が出ます。苦手な方は見ないで下さい。
犬の慢性肝炎の肝臓