No.445 誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎とは食べ物や吐物、液体などが気道に混入することで生じる肺炎のことで、犬では比較的遭遇することの多い疾患です。稀ですが猫にも起こります。

主な症状としては、異常な肺音の聴取、急性の呼吸困難、咳、発熱、食欲不振などが生じます。重症度は誤嚥したものや量によって異なり、pHの低い胃酸の炎症が強く引き起こされます。また、誤嚥した量、誤嚥したものに含まれる微粒子(食べ物などの小粒子)にも重症度は依存するとされています。食べ物が含まれる場合には菌の温床となり二次感染が生じやすくなります。誤嚥性肺炎の問題点は感染ばかりではありません。胃酸を誤嚥した場合には以下の3つの病期で肺の障害が進行します。
第一相-気道反応:誤嚥したことにより気管や気管支の浮腫・収縮が強く生じる
第二相-炎症反応:炎症細胞である好中球の動員、肺血管の透過性亢進が生じます。実験的には誤嚥後の4~6時間後に始まるとされています
第三相-二次感染:菌の二次感染により細菌性肺炎が生じます
単純な酸の誤嚥では72時間後に炎症は消退し始めるとされており、第二相までで改善する症例も多く二次感染が必ずしも生じるわけではありません。誤嚥後36時間以上経過して発熱、体温上昇、血液検査での強い炎症反応(白血球の左方移動やCRP上昇)などが認められた際には二次感染が疑われます。

原因・リスク因子としては、以下の様なものがあります。
喉頭疾患:喉頭麻痺、喉頭炎、輪状咽頭アカラシアなど。喉頭麻痺に対する片側披裂軟骨側方化術(Tie-back)の術後は1年で18.6%、3年以内に31.8%で誤嚥を生じると報告されています
食道疾患:巨大食道症、食道運動機能低下
胃腸疾患:嘔吐、IBDなどの慢性消化器疾患
歯周病:誤嚥性肺炎からは歯周病の原因にもなる歯周病原性細菌が多く検出されます
全身麻酔:全身麻酔をかけた犬の0.17%で発生するという報告があります
神経疾患:痙攣発作時、椎間板疾患、下位運動ニューロン障害、重症筋無力症など寝たきりになってしまうと誤嚥することが多くなります
鼻腔疾患:慢性鼻炎(慢性特発性鼻炎、リンパ形質細胞性鼻炎、歯科疾患関連性鼻炎など)
犬種:フレンチ・ブルドッグやパグなどの短頭犬種(短頭種気道症候群)、ダックスフンド、アイリッシュ・ウルフハウンドやラブラドール(喉頭麻痺を生じやすいため)
幼若動物・高齢動物:嚥下の力が弱いため

診断は誤嚥したという状況証拠や基礎疾患の有無とレントゲン検査、血液検査から暫定的に行います。誤嚥性肺炎ではレントゲン検査にて異常を認める肺の位置に特徴があります。犬の場合、気管支の位置や分岐角度などの解剖的な要因から、右中葉、右前葉、左前葉後部に好発します。

治療は主に支持療法を実施します。具体的には、以下のようなことを状態によって行います。
酸素療法:肺炎時には低酸素となることが多く酸素投与が重要です。誤嚥性肺炎の79%で低酸素血症(PaO2<80mmHg)が認められます
気管支拡張剤:第一相の気道収縮期には気管支が強く収縮するため気管支拡張剤の投与を行います
点滴:循環管理のための適度な静脈点滴
抗生剤:二次感染が疑われる場合は抗生剤の投与を行います
利尿剤の投与は禁忌です。肺水腫ではないため、脱水を招き全身状態を悪化させる可能性があります。また、ステロイド剤の投与の有効性は証明されておらず、現時点では推奨されていません。いくつかの報告ではネブライザー療法は推奨がされています。しかし、肺血管透過性が亢進している最中の実施は病態を悪化させる可能性があるため、当院では行っていません。

基礎疾患のない場合は、通常1週間ほどで回復します。誤嚥したものの種類や年齢によっては重症化してしまうこともあります。ある報告では死亡率は18.4%とされており、決して油断はできません。予防で重要なことは誤嚥性肺炎の生じうる基礎疾患をいか管理するかということです。何度も誤嚥性肺炎を繰り返す場合には必ず何らかの基礎疾患があります。慢性鼻炎や歯周病はとくに注意です。


右前胸部の誤嚥性肺炎

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