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No.286 不妊手術(Spay)

不妊手術の流れについてご説明します。手術中の写真が苦手な方は見ない様にして下さい。メリット・デメリットについてはこちらをご参照下さい→No125 去勢手術・不妊手術

1.全身麻酔下(→No117 全身麻酔)で剃毛し、お臍の下を1cmほど切開します(写真、右側が頭側です)。皮下組織を剥離し、筋膜を切り、筋肉を剥離し、腹膜を切り、腹腔内にアプローチします。
術中写真1

2.子宮吊り出し鈎により子宮を吊り出し、卵巣を展開して腹腔外に出します。
術中写真2

3.デバイス(→No275 外科手術用エネルギーデバイス)を用い血管と組織を切断します。吸収性縫合糸で結紮し切断する場合もあります。2と3を左右行います。状況により子宮も摘出することもあります。
術中写真3

4.腹膜と筋層・筋膜、皮下組織を縫合します。
術中写真4

5.皮膚を縫合します。ステープラー(外科用ホッチキス)を使用することもあります。野良猫ちゃんなど抜糸が難しい場合は、皮内縫合などの抜糸がいらない縫合をする場合もあります。
術中写真5

6.取り出した卵巣。
術中写真6

7.通常手術時間は15分くらいです。出血もほとんどありません。上記の写真はいずれも小型犬のものですが、猫やフェレットでも切開部位が若干違うくらいで手順はほぼ同じです。ウサギは大きな盲腸があるため傷が少し大きくなります。当院では1泊の入院をしていただいています。術後1~3日くらいで元通りの元気が出てきます。抜糸は術後1週間くらいで行います。


No.285 低アルブミン(Alb)血症

近年、血液検査でアルブミンの低い動物が増えています。アルブミンは肝臓で合成される蛋白質で、血液の浸透圧の調節や脂肪酸、ビリルビン、無機イオン、薬剤などの保持や運搬を行なっています。アルブミンは脱水以外の理由で病的に増加することは無いとされるため、基本的にはアルブミンの低下のみが問題となります。血清中のアルブミン濃度が、正常値(2.5~3.8 g/dl)より低下することを低アルブミン血症といいます。

低アルブミン血症では、血液の浸透圧が維持できないため、血液中の液体成分が血管の外に出てしまい、浮腫、腹水、胸水といった症状を呈します。血清アルブミン値が2.0~1.5 g/dl以下になると、これらの症状があらわれ始めます。低アルブミン血症は、肝臓でのアルブミンの合成能低下、尿などへのアルブミンの喪失、そして飢餓などの栄養失調によるアルブミン原料の不足などが原因となります。また、輸液などで血液が希釈されてもアルブミンは低値を示します。

病気としては、各種の重度の肝疾患、腎臓からの漏出(ネフローゼ症候群など)、食事からの栄養の吸収不良や消化不良、飢餓による栄養失調、出血による喪失、広範囲の皮膚炎、腸からの漏出(腸リンパ管拡張症など)、腹水や胸水、過剰輸液などが低アルブミン血症の原因となります。また、傷が治り辛かったり、薬が効き辛くなることもあります。

検査結果が正常値を外れている場合でも、必ずしも病気とは限りませんが、原因は血液検査のみならず身体検査や他の検査も行って診断していきます。状況により経過観察を行ったりさらに詳しい検査を行うこともあります。近年では肝不全や腎不全より、消化管の問題がある場合が多いです。この場合、確定診断には内視鏡による消化管のバイオプシー検査か、試験開腹による腸の全層生検が必要です。症状が無い場合は経過観察や食事管理などで様子見をすることも多いですが、血清アルブミン値2.0以下が続く場合は、原因を確認しておいた方が良いです。


No.284 猫の副鼻腔炎

猫によくある疾患の1つに副鼻腔炎があります。鼻の奥にある空洞を副鼻腔といい、猫には鼻腔(鼻の内部)の上にある前頭洞、奥にある蝶形骨洞の2つがあり、ここに炎症を起こす事を副鼻腔炎といいます。副鼻腔の一部は鼻腔と繋がっているため、鼻腔内に炎症があると副鼻腔内に炎症が波及してしまうことがあります。鼻腔と副鼻腔の炎症は併発することも多いです。炎症の結果、副鼻腔に膿が溜まった状態を蓄膿症といいます。

症状は鼻水、くしゃみ、鼻づまり、呼吸困難、結膜炎や鼻炎が併発する場合もあります。原因の多くは、細菌や真菌、ウイルス感染(とくにヘルペスウイルス)による鼻炎からの感染・炎症の波及ですが、歯周病から口腔鼻腔瘻になり鼻炎、副鼻腔炎になる場合もあります。

治療は基礎疾患の治療、鼻炎の場合は鼻炎、歯周病が原因の場合は歯周病の治療が優先されます。また対症療法として、ネフライザー(吸入薬を入れて使用する吸入器)を使用したり、難治性の場合は外科的な対処が必要な場合もあります。とくに慢性化して頭蓋骨に感染や炎症が波及している場合や、持病があったり高齢などで免疫力が弱っている場合などは治療が困難となります。副鼻腔炎になる前、鼻炎や歯周病だけのうちに治療することが重要です。


副鼻腔炎の猫の鼻水

こちらもご参照下さい
No218 口腔鼻腔瘻


No.283 ウサギと野菜

ウサギにどんな野菜を与えたらよいのかよく質問を受けます。

与えてはいけない野菜の代表はユリ科の植物、ネギ類です。長ネギ、玉ねぎ、にんにく、ニラなどを食べると血液が壊され溶血性貧血を起こします。原因は血液を壊すアリルプロピルジスルファイドが含まれているからです。犬や猫、牛も同じです。猿は容量依存性、鳥では稀です。

また、ホウレンソウはアクやえぐみの成分のシュウ酸が入っているので避けた方が良いです。ホウレンソウはCaと結合して尿路結石を作りやすいです。尿路結石を作りやすいCaが多い野菜は、コマツナ、チンゲン菜、大根の葉、春菊、水菜、パセリなどです。少量なら問題ありません。

キャベツは文献によって評価がわかれている野菜です。理由はゴイトロゲンという甲状腺腫誘発物質が含まれているからです。実験動物のウサギで甲状腺腫が作られ、体重減少、低体温、心拍数の低下、免疫量の低下が報告されています。しかし、よほど食べ過ぎなければ問題ないと思います。

アボカドもペルシンという有毒物質が含まれているので避けた方が良いです。胃腸障害、肝不全、心臓のトラブルもあります。犬や鳥でも報告があります。

ウサギはビタミンAの欠乏症で、体重減少や成長障害、眼疾患(角膜ジストロフィー、網膜変性)、神経症状、不妊症、水頭症、スナッフル、腸炎などを起こすことがあるので、ビタミンAや体内でビタミンAに変化するβカロチンを含んでいる野菜を取ると良いです。サラダ菜、コマツナ、チンゲン菜、大根の葉、春菊、カボチャ、ホウレンソウ、パセリ、ニンジンなどに多く含まれています。ただしビタミンAは接取し過ぎると、体重減少、耳介軟骨変性、脱毛などが起こることがあるので注意が必要です。また、ペレットの酸化、質の悪い牧草、飢餓、腸炎、肝疾患などでもビタミンA欠乏が起こります。

これらのことを踏まえると無難な野菜は、サラダ菜、セロリ、ニンジン、ブロッコリーです。野草は、オオバコ、タンポポ、ハコベ、レンゲ、クローバー、ナズナ、桑の葉などがオススメです。農薬散布のないものを与えてください。また観葉植物は中毒を起こしやすいので与えない方が無難です。


ニンジンはウサギに良い野菜です


No.282 ウサギと牧草

ウサギは完全草食性です、牧草を常に与えて、ペレットと緑黄野菜は朝晩に与えると良いです。牧草:ペレット:緑黄野菜の比率は6:3:1ぐらいが理想です。

牧草はマメ科のアルファルファ、クローバー、イネ科のチモシー、イタリアングラス、オーチャードグラスなどがありますが、よく用いられているのはチモシーとアルファルファです。一般的にチモシーは成体向け、アルファルファは幼体・妊娠時向けですが、チモシーを幼体・妊娠時に、アルファルファを成体に与えていけないことはありません。また、一般的に生牧草は水分とビタミンAが豊富で、乾牧草は美味しくて香りがよく、ワラはビタミンやセルロース、リグニンが多く含まれていますが美味しくないといった特徴があります。

牧草の女王と呼ばれるアルファルファは肥満になるという話がありますが、そんなことはありません。ただし比較的Ca含有量が高いので多給すると尿路結石にはなりやすいです。また、蒸れた生のアルファルファは毒性を帯びるので注意が必要です。

チモシーは刈り取る次期によって、一番刈り、二番刈り、三番刈りに分かれます。
一番刈り:初夏のもので太くてしっかりしています。繊維質は一番多く含まれます。
二番刈り:夏~秋のもので細く柔らかいです。繊維質は一番刈りよりも少ないです。
三番刈り:初冬のものです。栄養価は一番低く繊維質も低いです。

ウサギが牧草を食べなくなった時の原因は大きく2つあります。
1.おいしくない:この場合は新鮮なものに変えるとか、牧草の種類を変えてみて下さい。三番刈りのチモシーは柔らかいし、イタリアングラスは甘いです。
2.歯がおかしい:この場合は動物病院で診てもらってください。

牧草は主食にも、おやつにも、おもちゃにもなります。ウサギにはバラエティーに富んだ牧草を与え、引っ張って食べるのも好きなので与え方に工夫をしてみて下さい。


No.281 ウサギの盲腸

ウサギの盲腸は壁の薄いコイル状の器官で右の腹腔を占め、胃の約10倍の大きさがあります。働きはビタミンB群・ビタミンKの合成や、血中尿素を利用した微生物発酵(嫌気的発酵)によってアミノ酸を合成し、VFA(揮発性脂肪酸)の合成・吸収も行います。エネルギー産生、腸内細菌叢の維持、水や電解質の吸収促進などにとても重要な臓器です。

ウサギはドロッとしたゼラチン状の膜に覆われたブドウの房状の盲腸便を1日に数回出して、1日に1~2回それを食べます(硬い便も食べます)。正確に言えば飲み込んでいます。盲腸便は胃体部で6~8時間かけて発酵し、乳酸(エネルギー)が生成され、ゼラチン状の膜が取れ小腸で吸収されます。このゼラチン状の膜は盲腸便を胃酸から守り消化・発酵を助けています。

肥満や高齢、病気などで、ウサギが食糞をできなくなった場合は体重が減少します。40日間の研究では、食事のカロリーを60%に減らしたくらいになると言われています。まだまだウサギの盲腸の研究はこれからたくさんの知見が出てくるでしょう。炎症が酷いと切られてしまうこともあるヒトの盲腸とは大きく違います。


ウサギの盲腸便


No.280 リンパ球形質細胞性腸炎 (LPE)と炎症性腸疾患 (IBD)

犬や猫、フェレットなどで、お腹を壊しやすく頻繁に下痢や嘔吐を繰り返すことがあります。食欲不振、嘔吐、下痢(軟便)、血便といった消化器症状の原因は実に様々です。食事の変更、気候・環境の変化、ストレスなどの一過性のものから、ある食材に対するアレルギー反応、腸内細菌叢の変化、感染症(ウイルス、細菌、寄生虫)、腫瘍、原因不明の特発性のものもあります。とくに原因不明の慢性的な消化器症状は、リンパ球形質細胞性腸炎(Lymphocytic plasmacytotic enteritis,LPE)炎症性腸疾患 (Inflammatory bowel disease,IBD)とも呼ばれています。ヒトではIBDは潰瘍性大腸炎やクローン病を示すのに対し、動物では『消化管粘膜の炎症性病変を特徴とする特発性で慢性の胃腸症候群』と定義されています。しかし獣医界ではLPEとIBDの定義はとても曖昧です。IBDの最も代表的な疾患がLPEと書かれている教科書があったり、LPEを除外してIBDを診断すると書かれているものもあります。

LPEやIBDの動物では、消化器症状の他、血中Albの低下、貧血、体重減少がよくみられます。診断には、レントゲン検査や超音波検査などをまず行い、腸の腫れなどを判定し疑いが強い場合、麻酔が必要になりますが内視鏡による腸細胞のバイオプシー検査や、試験開腹によって消化管前層生検をして、確定診断のための病理組織学検査を行います。慢性的な胃腸障害の犬猫、フェレットの病理組織学検査で1番よくみられるのはLPEで、次がIBDです。しかし消化管の病変は、しばしば分布や程度が文節的あるいは散在的で代表的な病変が生検標本に含まれない場合があります。そもそもLPEとIBD、腸のリンパ腫の区別は病理検査でも難しく、経過を見ることが重要で繰り返しの検査が必要な時もあります。

病気は同じ診断名がついても、簡単な治療ですぐよくなる場合とそうでない場合があります。LPEやIBDでも整腸剤や食事管理で簡単に軽快する場合と、抗生剤やステロイド剤、免疫抑制剤などが必要な場合があります。病理組織診断では、軽度、中等度、重度と記載されますがこれはあまりあてになりません。軽度でも難治性の場合や長期の投薬が必要になる場合もあります。とくに柴犬のIBDは予後が悪い傾向があります。治療に反応が悪い場合は繰り返しの検査を行い、リンパ腫などのさらに重篤な病気を見逃さないようにする必要があります。


リンパ球と形質細胞の浸潤がみられるLPEの犬の十二指腸の組織検査


No.279 犬の角膜血腫

犬の角膜血腫は血腫様血管新生とも呼ばれ、しばしば高齢の犬にみられる疾患です。角膜というのは本来は透明な組織であり、通常は血管は存在しません。しかしながら、何らかの要因により角膜に血管新生が起こります。これが角膜血腫です。はっきりとした病変の割には臨床症状に乏しく、眼の周囲の毛が長い犬の場合は、飼い主さんも気が付いていないことも珍しくありません。

少し古い2011年の研究では、10歳以上の雄に発生が多くみられるという報告がありますが、現在のところまだ原因は解明されてはいません。免疫異常、涙液の異常や、角膜上皮障害などの関与が疑われています。また、チワワやT.プードル、柴犬などの小型犬で多く、中型犬、大型犬ではあまりみられません。

症状は、角膜に突然1~数ヶ所の赤い血の塊が見えて、基本的に痛みはなく、涙液量などの一般眼科検査では明らかな異常はみられません。

治療はステロイドの点眼薬が著効を示すと言われていますが、他の眼の異常がなければ、何もしなくても2~3ヶ月で治癒することが多いです。角膜潰瘍やドライアイがあることもあるので、しっかりとした診断が必要です。

原因の解明がなされていないため、治療薬の評価なども含め、さらなる研究が待たれるところです。


T.プードルの角膜血腫


No.278 免疫介在性血小板減少性(Immune thrombocytopenia, ITP)

免疫介在性血小板減少症は、血小板の破壊と巨核球(骨髄内にある血小板の大元)、血小板産生の停止の両方を特徴とする自己免疫性疾患です。血小板に対する自己抗体(自分の細胞、組織に対して産生される抗体)がくっつき、特に脾臓において貪食され、結果として血小板が減少します。近年、この病態以外にも、リンパ球の一種であるT細胞が血小板破壊の中心的役割を果たしていることがわかってきました。ヒトのITP患者では制御性T細胞の数と機能が減っていることがいくつかの研究で証明され、犬においても研究が進んでいます。自己抗体が結合することで貪食されて起こる血小板破壊だけでなく、細胞障害性T細胞による血小板破壊もITPの病態と考えられ、さらには補体(病原微生物などの抗原を排除するための免疫反応を媒介するタンパク質)もまた、血小板や巨核球を破壊すると言われています。また、ヒトではピロリ菌の関与も証明されています。

血小板は血を止める作用があるので、発症すると内出血が増えます。このことから紫斑病とも呼ばれます。鼻出血や血尿、血便、歯茎からの出血などもみられることがあります。マルチーズ、シーズー、プードルに多いと言われています。

診断は、上記の症状と、血小板の減少、血液塗抹での血小板の数や形を顕微鏡によって観察して診断します、また、他の出血傾向を生じる病気がないかどうかを除外診断しながら絞り込んでいきます。ステロイドを使った治療的診断を行う事もあります。はっきりしないものや、薬に反応が悪い場合は骨髄検査も考慮します。

治療は、前回のIHAと同様に、自己抗体による悪い免疫反応を抑える治療を行います。最初は副腎皮質ホルモン剤を用いることが多いです。反応が悪い場合は、その他の薬を併用します。再発性、難治性の場合は脾臓の摘出が効果的な場合があります。さらにTPO製剤(血小板を作る細胞を刺激する薬)効果的と言われていますが動物での報告はまだ少ないです。通常は70-80%の動物が回復します。ただ、再発も多いので注意が必要です。また、IHAと同時にITPが起こるとをエバンス症候群と呼び、予後が悪いです。


ITPによる腹部の内出血

こちらもご参照下さい
No276 溶血性貧血
No277 自己免疫性溶血性貧血


No.277 自己免疫性溶血性貧血 (Immune hemolytic anemia,IHA)

自己免疫性溶血性貧血は、自分の赤血球に対する自己抗体(自分の細胞、組織に対して産生される抗体)が産生され、血管内や脾臓、肝臓骨髄内で免疫的機序により赤血球が破壊される疾患です。犬でよくみられ、プードルやマルチーズ、シーズー、コッカースパニエル、アイリッシュセッターでの発症が多いといわれています。♀の方が発症が多く、♂の2~4倍です。また、なぜか寒い時期に多い印象です。猫では猫白血病ウイルス(FeLV)の感染に関連してみられることが多く、性差、品種差はありません。原因も不明です。

症状は元気、食欲不振などの貧血の諸症状の他、発熱、血色素尿、黄疸、脾腫、肝腫などがみられます。

診断は、症状の他、赤血球に自己凝集(赤血球同士が結合してしまう反応)が認められることや、クームス試験(赤血球表面に抗体が付着しているかを証明する検査)、球状赤血球の出現などから行います。骨髄検査が行われる場合もあります。

治療は、自己抗体による悪い免疫反応を抑える治療を行います。最初は副腎皮質ホルモン剤を用いることが多いです。反応が悪い場合は、その他の薬を考慮します。再発性、難治性の場合は脾臓の摘出が効果的な場合があります。60%くらいの症例は回復しますが、重度の自己凝集や血色素尿がみられる場合、血小板減少を伴った場合は予後が悪いです。


自己凝集している赤血球

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No276 溶血性貧血