肝臓にできる悪性の腫瘍の事を肝臓癌と言います。肝臓は沈黙の臓器と呼ばれていて肝臓癌が発生していても初期の段階では症状として現れないため発見も遅れがちです。疲れやすい、元気がない、食欲がない、肝臓の数値が悪くなった、腹水が溜まってきた、黄疸が出ているなどがみられた場合は注意が必要です。
原発性肝臓癌の発生原因は遺伝的なものが多いと推測されますが、よくわかっていません。ヒトの場合多くはB型肝炎やC型肝炎など肝炎ウイルスが原因となりますが、猫では化学物質などが原因で肝細胞が炎症を来し発癌することが知られています。肝臓は体内の毒素を解毒する化学工場の役割を行っています。農薬や薬剤(抗癌剤、抗生物質、免疫抑制剤などの長期使用)、防腐剤や着色料、保存料、塗料や化学薬品、排ガス、洗剤など体内に様々な有害物質が入り込んでくると、肝臓はこれらを無毒化しようとし一生懸命に働きます。しかし、慢性的に体内に入り込んでくると肝臓は炎症を起こしてしまいます。慢性的な刺激・炎症は肝癌発症リスクを高めます。タバコの煙が猫の癌の発生率を高めているとの報告もあります。
猫の原発性肝臓癌は主に以下の4種類があります。最も多いのが肝細胞癌で原発性肝臓癌の約半数は肝細胞癌です。
原発性肝臓癌の種類
・肝細胞癌:肝細胞が癌化して発生
・肝内胆管癌:胆汁の通り道である胆管に発生
・肉腫:肝臓の血管など間葉に発生(血管肉腫、平滑筋肉腫など)
・神経内分泌系腫瘍:神経内分泌細胞(ホルモンやその類似物質を分泌する役割を持ち、全身に分布します)に由来
肝臓の腫瘍が疑われる時、診断には、血液検査、尿検査、超音波検査、腹部レントゲン検査、肝生検、CT検査、MRI検査などを組み合わせて行います。良性なのか悪性なのかは取り出して調べないとわからないことが多いです。摘出して組織診断をしないと確定的なことは言えないということです。上記の検査、疫学的な文献、獣医師の勘などで予測はできますが確実ではありません。
肝臓癌が根治する可能性があるのは外科手術で癌を取り除くことができた時です。癌が塊を作っていて浸潤していない、なおかつ1つの肝葉に限局しているような場合は手術後の予後も良いため積極的に手術を受ける価値があると思います。一方で複数の肝葉に癌が浸潤していたり多発しているようなケースでは、たとえ癌を綺麗に切除したように見えても、たいていの場合は細胞レベルの取り残しがありますのですぐに再発してしまいます。肝内胆管癌は浸潤しやすい癌のため外科手術後の再発・転移が短期間に高率で起こるため手術後の予後は宜しくありません。広範囲に癌が拡がっている場合は手術適応がありません。神経内分泌系腫瘍も浸潤しやすいタイプの癌で早い段階からリンパ節や腹膜、肺などに転移しやすく一般に手術適応ではありません。抗癌剤や放射線治療も行われる場合がありますが根治は困難です。やはり、定期的な健康診断で早期に見つけるのが鍵となります。
クリックすると手術時の写真が出ます。苦手な方は見ないで下さい。
猫の肝細胞癌
こちらもご参照ください
No257 犬の原発性肝臓腫瘍
No72 肝臓の検査2
No71 肝臓の検査1