No.133 人畜共通伝染病3 (Zoonosis)

ズーノ-シスの最後は、真菌(かび)、寄生虫、原虫によるものを解説します。

原因が真菌によるもの

皮膚糸状菌症(真菌症):白癬などともいい、皮膚病(糸状菌症)にかかっているイヌやネコ、ウサギ、ハムスターなどと接触することで感染し、ヒトでも動物でも、円形の発疹、かゆみ、化膿などを起こします。ヒトは通常は抗真菌薬を塗ればよくなりますが、動物の治療も並行して行い感染源をなくすことが重要です。動物では通常内服薬での治療になります。真菌は非常にしつこいので、きちんとした治療が必要です。

原因が寄生虫によるもの

トキソカラ症(回虫症):犬には犬回虫、猫には猫回虫が感染することがあり、これらの回虫はトキソカラ属に分類されています。犬や猫の便の中に出てきた回虫の虫卵をヒトが飲み込むと腸の中で孵化し幼虫が生まれます。幼虫はヒトの体内では成虫になれず(稀に猫回虫では成虫になる場合があります)、眼、肝臓、心臓、肺、脳などを移動します。このような内臓幼虫移行症をトキソカラ症といいます。犬回虫の幼虫が眼の中に移動したものを「眼トキソカラ症」、犬回虫、猫回虫の幼虫が眼以外の体内に移するものを「内臓トキソカラ症」といいます。眼トキソカラ症の場合には、視力の低下、飛蚊症、視野が狭くなったり、視野内で見えない部分があるなどの視覚異常などが起こります。内臓トキソカラ症の場合には、気づかないときもありますが、全身の倦怠感や体重減少、吐き気や軽い腹痛などを起こすことがあります。また、肝臓に肉芽腫ができることもあります。
犬や猫では感染していても症状が現れない「不顕性感染」がほとんどです。しかし、幼犬に多数の成虫が寄生した場合は、お腹の異常なふくれ、吐く息が甘い、異嗜(いし:食べ物ではないものを食べること)、元気がない、発育不良、やせる(削痩)、貧血、皮膚のたるみ(皮膚弛緩)、毛づやの悪化、食欲不振、便秘、下痢、腹痛、嘔吐を起こします。体内に幼虫が寄生している雌犬が妊娠すると、胎盤や乳汁などを通して子犬にも感染します(母子感染)。

エキノコックス症:エキノコックス症は、キタキツネや犬が多包条虫とよばれる寄生虫に感染し、糞便と一緒に排泄された虫卵が、何らかの拍子に人の体内に侵入し、重い肝機能障害を起こす病気です。潜伏期間は5~15年で、発症すると病巣を外科的に切除する以外に有効な治療法はありません。日本では北海道だけに存在すると考えられてきましたが、2005年には埼玉県で捕獲された犬の糞便から、また、2014年4月には愛知県知多半島で捕獲された犬からエキノコックスの虫卵が確認されました。
犬はほとんどの場合、感染していても症状が現れない「不顕性感染」です。感染した野ネズミを食べたり、口にくわえたりすることで虫卵が体内に侵入し、感染します。感染した犬は、糞便中にたくさんの虫卵を排泄します。
エキノコックス症の予防方法としては、虫卵が口に入らないよう、一般的な衛生対策を行うことです。

原因が原虫によるもの

トキソプラズマ症:トキソプラズマ症は、トキソプラズマ原虫の感染によっておこる動物由来の感染症です。 人を含めた多くの哺乳類や鳥類に感染することが知られています。ペットではとくに猫からの感染が問題となります。
ヒトを含む多くの動物が不顕性感染ですが、幼令や免疫機能が低下している場合は、重篤な症状が出ることがあります。注意が必要なのは、ヒトの先天性トキソプラズマ症です。これは、母体が妊娠の6ヶ月前~妊娠中に初めてトキソプラズマに感染した場合、まれに胎盤を経由して胎児が感染し発症するものです。症状は、脈絡網膜炎(失明に至る眼の炎症)、肝臓や脾臓の腫大、黄疸、痙攣、水頭症、頭蓋内石灰化、精神遅滞、死流産等です。 胎児の発症率は、母体の感染が妊娠後期になるにつれて高くなります。妊娠初期では、胎児へ伝染するリスクは低くなりますが、万一感染した場合の症状は重くなります。
外に出る猫は、ネズミや鳥を捕食することでや土壌等を舐めてしまうことにより、感染することがあります。ヒトは感染した動物の糞便から感染しますが、感染力を持つようになるには4~5日かかるので、トイレはすぐに片づけるようにしましょう。そして、妊娠中はとくに注意しましょう。トキソプラズマ症の予防という観点からは、妊娠しても現在飼っているネコを手放したり、隔離したりする必要はありません。ご心配な方は医師、獣医師とよく相談してください。


No.132 人畜共通伝染病2 (Zoonosis)

前回はウィルスが原因のズーノーシスのお話でした。今回は細菌が原因の代表的なズーノーシスのお話です。

原因が細菌によるもの

レプトスピラ症:ワイル病、秋やみなどとも呼ばれるレプトスピラ症は、病原性レプトスピラ細菌(スピロヘータ)の感染症です。病原性レプトスピラは保菌動物(げっ歯類など)の腎臓に保菌され、尿中に排出されます。ヒトや犬は、保菌動物の尿で汚染された水や土壌から経皮的あるいは経口的に感染します。症状は急性の発熱や黄疸、腎機能低下などが見られ、とくに犬の場合は発症してから2~4日で死亡することもあります。治療は抗生剤と補液などで行いますが、犬の混合ワクチンの中にはレプトスピラ症に有効なものがありますのでワクチンでの予防が重要です。

猫ひっかき病(バルトネラ病):猫ひっかき病は、猫や犬にひっかかれた、もしくは咬まれた部位の炎症、リンパ節の痛み・腫れ、発熱などの症状を来す疾患です。夏から秋にかけて発生頻度が高くなります。原因は、バルトネラ属の菌が感染することによります。この菌は猫や犬などの動物の爪や口腔内、寄生するネコノミなどに存在します。 日本では猫の1割が感染し保菌しており、ヒトへの感染のほとんどは猫によるものと考えられています。とくにネコノミに刺された子ネコからの感染の危険性が指摘されています。バルトネラ菌の感染があっても猫や犬は無症状です。ヒトでも通常は6~12週くらいで改善しますが、稀に重症化するので、引っかかれたり咬まれたあとに、上記のような症状があれば病院を受診してください。

カプノサイトファーガ感染症:カプノサイトファーガ・カニモルサスという細菌を原因とする感染症です。犬猫の口腔内の常在菌で、犬猫は無症状ですが、高齢者や免疫力の落ちているヒトが、咬まれたり、ひっかかれたりして感染すると、発熱、倦怠感、腹痛、重症化すると、敗血症、髄膜炎、DICなどを生じ亡くなることもあります。口移し等の過剰な接触を行わない、動物からの受傷に気をつけることなどにより感染を防止できます。

パスツレラ症:パスツレラ属の菌によって引き起こされる日和見感染症です。日和見感染症とは免疫力が低下したときにだけ症状を示す感染症のことをいいます。パスツレラ菌は犬や猫の口腔内に効率で存在しています。犬や猫はほとんど無症状ですが、ヒトは犬や猫に咬まれたり、ひっかかれたりした場合に激痛を伴う患部の激しい炎症を起こします。また、重症化すると、呼吸器系の疾患、骨髄炎、外耳炎等の局所感染、敗血症、髄膜炎等の全身重症感染症、さらには死亡例も報告されています。やはり、高齢者、糖尿病患者、免疫不全患者等の基礎疾患を持つ人が特に感染しやすいです。パスツレラ症も、口移し等の過剰な接触を行わないこと、動物からの受傷に気をつけることにより、感染を防止できます。

サルモネラ症:サルモネラ症は、サルモネラ属の菌の感染により急性胃腸炎などを起こす病気です。肉や卵の食中毒の原因菌として知られていますが、それ以外にも、爬虫類(ミドリガメ、イグアナ等)が原因となって、小児や高齢者が重篤な感染症にかかる例が報告されています。保菌動物は無症状です。ヒトでは、およそ半日から2日間の潜伏期間を経て、おへそ周辺の激しい腹痛や、嘔吐、発熱、下痢などの食中毒症状を引き起こします。熱は38度から40度近くまで上がり、下痢は水のような便で、血や膿が混ざることもあります。予防は動物に触ったらよく手を洗うことです。

Q熱:コクシエラ・バーネッティという細菌の感染によって起こる感染症です。以前は日本国内にQ熱は存在しないと言われていましたが、近年の調査によって、日本でもヒトや動物が感染していたことがわかりました。主に家畜やペット、野生動物の排泄物やダニなどから感染、発症します。動物が感染しても症状があらわれないことは珍しくありませんが、妊娠中の羊や牛が感染すると流産や死産におちいることがあります(この菌は胎盤で増殖します)。
ヒトでは2~4週間の潜伏期間を経て、頭痛や高熱、筋肉痛、全身の倦怠感、咽頭痛といったインフルエンザに似た症状があらわれます。急性のQ熱の場合、不明熱や肝炎など、様々な症状があらわれますが、ほとんどは肺炎や気管支炎、上気道炎など呼吸器系の症状です。経過は比較的良好ですが、髄膜炎や脳炎などの合併症のリスクは存在します。急性Q熱を発症したうちの一定割合の人は、心内膜炎など治療がむずかしい慢性Q熱に移行します。急性Q熱の場合、死亡率は数パーセントほどで、回復すれば一生涯つづく免疫性をえることができます。慢性Q熱では6ヶ月以上にわたって感染が継続するため、急性Q熱と比較すると症状が重篤化しやすいとされています。病気の経過もよいとは言えず、治療は簡単ではありません。慢性Q熱に移行しやすいのは、免疫力が低下している場合です。ある研究によると慢性期に移行すると、慢性疲労症候群様の症状が見られることがわかっています。これは睡眠障害やアルコール不耐症、寝汗、筋肉痛、関節痛、頭痛、微熱、慢性疲労に加えて、集中力や精神力の欠如、理性のない怒りなどの精神的症状が見られる病気です。

オウム病:オウム病は、クラミジア・シッタシという細菌を保菌している鳥類からヒトに感染を来す人獣共通感染症です。主に鳥類の糞の中に病原体がいて、乾燥するた糞が粉々になって空中に浮遊したものを、ヒトが吸引すると感染すると考えられています。ヒトの症状は、1~2週間の潜伏期間のあと、軽症のインフルエンザ様症状(悪寒を伴う高熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感など)から多臓器障害を伴う劇症型まで様々です。初発症状として、38℃以上の発熱、咳はほぼ必発で、頭痛も約半数に認められます。時に血痰(けったん)や胸痛を伴うこともあります。 重症例では、チアノーゼや意識障害を来し、さらに血液を介して多臓器へも炎症が及び、髄膜炎や心外膜炎、心筋炎、関節炎、膵炎などの合併症を引き起こすこともあります。ヒトでは30歳未満での発症は少ないと報告されています。発症日を月別にみると、鳥類の繁殖期である4~6月に多いほか、1~3月もやや多いとされています。 肺炎に占めるオウム病の頻度は、世界的にもあまり高いものではなく、日本でも1~2%程度です。
一方、鳥は発症すると、運動量の低下、食欲低下、痩せる、下痢、呼吸困難などの症状を呈し、糞に大量のクラミジアが混じることになります。治療をしないと、1~2週間で死亡します。鳥の体調に異常が見られる場合は、早めに動物病院に相談して下さい。抗生物質による治療ができます。
オウム病の多くは散発例で、これまで集団発生は極めてまれであるとされていましが、日本でも2001年以降、相次いで動物園などで集団発生が確認されています。しかし、鳥類はクラミジアを保有している状態が自然でもあり(20%の鳥が保菌しているといわれています)、菌を排出していても必ずしも感染源とはならないことを理解する必要があります。むやみに感染鳥を危険視すべきではなく、鳥との接触や飼育方法に注意を払うことが重要です。


No.131 人畜共通伝染病1 (Zoonosis)

「動物から人間に感染する、または感染すると思われる疾患」を人畜共通伝染病、ズーノーシスと呼びます。最近は鳥インフルエンザなども話題になっていますね。代表的なズーノーシスをご紹介します。

原因がウィルスによるもの

狂犬病:ほぼ全ての哺乳類に感染するウィルス性疾患です。感染した動物の唾液の中にウィルスが含まれ、咬まれることによって感染します。症状は1~3週間の潜伏期間のあと、発熱や食欲不振が出てきます。進行すると、痙攣や麻痺、水を呑み込めない(恐水症)などの神経症状を起こします。治療も困難で死亡率も高いです。日本では、狂犬病予防法の元、ワクチンによる予防が普及したことと、島国である利点もあり、約50年間発生がありませんが、海外との行き来が多い昨今、いつまた入って来てもおかしくない病気です。こちらもご覧ください。
No7 狂犬病予防注射
No47狂犬病予防注射について

鳥インフルエンザ:鳥インフルエンザとは鳥類に対して感染性を示すA型インフルエンザウイルスからの感染症です。ヒトでは、感染した家禽(鶏、あひる、うずら、きじ、だちょう、ほろほろ鳥、七面鳥)個体やその排泄物、死体、臓器などと濃厚な接触がない限り感染はしません。鶏肉や鶏卵を食べることによってヒトに感染はしません。お家の中で飼われている小鳥も同様で、簡単に伝染するものではありません。
ヒトでの最初の症状は、発熱や咳で通じようのインフルエンザと変わりませんが、重症化すると、全身倦怠感、筋肉痛などの全身症状を伴います。感染したヒトの致死率は、これまでのところ全体で約60%と高い数値です。ちなみに、通常の季節性のインフルエンザの致死率は0.1%です。
家禽での症状は、震え、起立不能、斜頚などの神経症状が見られたり、沈鬱、食欲低下、急激な産卵低下(停止)がみられることもあります。また、しばしば臨床症状を示さず死亡することもあります。予防・治療は法律によって 殺処分および移動・搬出制限によりまん延防止、早期撲滅を図ります。
セキセイインコや文鳥などの小鳥の症状は、きちんとした臨床報告がなく、わかっていません。ただし、家禽のウィルスから感染が成立するということは実験で証明されていますので、野鳥にはなるべく触らないようにしましょう。

ヘルペス:ヒトの口唇ヘルペスはヒト単純ヘルペスI型(HSV-1)によって引き起こされます。ほとんどは無症状ですが、免疫が低下したときに、熱の華、風邪の華、帯状疱疹、Cold soresと呼ばれる症状が現れます。経験のある方はご存知だと思いますが、めちゃめちゃ痛いです。HSV-1の感染はOral-Oral(キスという意味です)で幼少期に感染して、三叉神経に潜伏し終生感染し、定期的に再発します。WHO(世界保健機構)の試算では、全世界の50歳以下の約3人に2人が感染しているとされています。ヒトの症状は、通常2週間ほどで収まりますが、ウサギやチンチラ、新世界ザル(アメリカ大陸のサル、リスザル、マーモセット、タマリンなど)は死亡することがあります。
ウサギやチンチラは近年ペットとして人気の動物ですが、実験においてHSV-1への感染が証明されています(自然感染は稀です)。症状はヒトと違い、活動の低下/増加、運動失調、旋回運動、流延、失明などの神経症状が出ます。とくに鼻腔内からの感染では最短2日で症状を呈し、急速に死に至ることがあると報告されています。
また、旧世界ザル(ユーラシア大陸、アフリカ大陸のサル、マントヒヒ、オナガザル、ニホンザルなど)はヒトと同じような症状を呈しますが、新世界ザルはHSVに対して感受性が高く重度の全身性疾患を起こして、死亡することがあります。
いずれにしても、口唇ヘルペスが発症しているときに、これらの動物の世話をするときは、なるべく触れ合わない、マスクをする、手をよく洗うなどの注意が必要です。


No.130 犬や猫が吐くとき2(Reverse)

今回は「吐く」という症状の中、最も一般的な嘔吐において、こんな場合は要注意というお話です。前回書いたように、嘔吐と言っても原因はなかなか複雑です。以下のようなときは、早目の来院をおすすめします。

何回も繰り返す
月1~2回ぐらいの嘔吐で、その後ケロッとして元気であれば様子をみてもよいですが、週に2~3回以上吐くようならきちんとした検査が必要です。
腹痛がある
苦しそうに背中を丸めていたり、腹部の緊張が強い場合は腹痛の可能性があります。腹痛を伴う嘔吐は危険な兆候です。胃腸炎の他、各種の結石・尿閉などの泌尿器疾患も考えられます。
呼吸が悪い
嘔吐と共に短く浅い呼吸をしている時は、急性腹症(急激な腹痛によって緊急手術の適応か否かの判断が要求される症候。消化管穿孔、胃捻転、腸捻転、胆嚢破裂、腹膜炎、急性膵炎など)の可能性があります。すぐに病院へ。
吐いたものに異物がある
おもちゃの破片や植物など、食事以外の異物が混入している場合。
赤や黒っぽいものを吐く
少量の血が混じっていたり、重い潰瘍や腫瘍では、出血で嘔吐物がコーヒー色になっていることがあります。潰瘍や腫瘍、感染症などを疑います。
黄色っぽいものを吐く
よく誤解されていますが、黄色ものは胃液ではありません。肝臓から十二指腸へ分泌されている消化液の胆汁です。胃よりも深いところの問題を示唆します。肝胆道系疾患、膵疾患を疑います。
異臭がする
血の臭い(潰瘍・腫瘍)や便の臭い(腸閉塞)、酸っぱい臭い(膵炎)など、異臭にも注意が必要です。
他の症状がある
上記の腹痛や呼吸が悪いこと以外にも、下痢や発熱、食欲不振など、嘔吐以外にも症状を伴う場合は緊急性が高い場合があります。

また、フェレットでは犬や猫と同じように考えてもおおむね間違いはありませんが、ウサギやチンチラは食道の筋肉の構造上、吐くことが難しいので、吐いているときはかなり悪い状態です。すぐに適切な対処が必要です。

以下もご覧下さい

No.26 嘔吐と吐出
No.27 猫の毛玉症と猫草


No.129 犬や猫が吐くとき 1 (Reverse)

「吐く」は飼主さんにもすぐわかる症状です。犬猫は胃が横向きになっており、胃液も濃いので吐きやすい動物です。犬猫が吐いている場合には、まず「吐き出し(吐出)」なのか「嘔吐」なのかを考えます。また、似た症状で「嚥下困難」があります。この違いからだけでも、食べ物を吐き出した原因がどこにあるのか、ある程度、鑑別をつけることができます。以前にも、嘔吐・吐出のことは書きましたが、今回はもう少し詳しく解説します。

・吐き出し(吐出)
胃に達する前の食道に詰まったものを吐き出すことで、吐いたものは胃まで達していないため未消化の状態です。あまり大きな前触れがなく起こる場合が多く、唾を飲み込めないような様子が見られることがあります。
原因は主に食道にあり、頻繁な場合には、食道炎、食道狭窄、巨大食道症、血管輪異常(右大動脈弓遺残症)、食道の腫瘍などを考えます。

・嘔吐
胃に達した物が腹壁の収縮を伴い吐き戻されることで、吐いたものの消化が始まっている状態であることをいいます。犬猫が嘔吐をする際には吐き気やよだれが見られることがあり、不安そうな様子を見せることもあります。また吐いた物には、通常、白っぽい場合(唾液)、透明な場合(胃液)、黄色っぽい場合(胆汁)がありますが、血液が混ざると赤や黒いもの、コーヒー色のものが混ざります(吐血)。
嘔吐は、空腹時、早食いや、食後の急な運動などでも起こりますが、異物の誤食(猫の毛玉症もこちらに相当します)、胃腸炎、肝胆道系疾患、腎疾患、膵炎、潰瘍、腫瘍、脳神経系の病気なども考慮しなければなりません。

・嚥下困難
上手く食べ物が飲み込めないために食べ物を吐き戻してしまうことで、口の中、咽頭、食道の上部に問題がある場合に起こります。ゴクンと飲み込むことができず吐いてしまう状態です。
主な原因は歯周病、咽頭部の炎症・腫瘍・神経の問題、破傷風、日本では約50年発生はありませんが狂犬病などでもみられます。

以下もご覧下さい
No.26 嘔吐と吐出
No.27 猫の毛玉症と猫草


No.128 冬に気をつけたいこと

11月になり寒い日が多くなってきました。冬は寒さと乾燥に注意が必要です。ヒトよりも地面に近いところにいる場合が多い動物は寒さに敏感です。体が冷えると各臓器の力が弱まり、免疫力が下がったり血圧が上がったりして良い事はありません。また、乾燥は粘膜を乾かし細菌やウィルスへの抵抗力を低下させます。ヒトでも湿度50%以上の環境にいれば、インフルエンザウィルスの感染をかなり防げるといわれています。

犬、猫、フェレット、ウサギ、モルモットで実際に推奨される温度・湿度は、品種や年齢、健康状態にもよりますが、室温18~25℃前後、湿度は40~60%くらいです。とくに幼齢・高齢の場合は室温を20℃以上で24時間一定にしておくべきでしょう。ペットヒーターなど、狭い区域を温めるものを使用しても良いのですが、あくまでもエアコンの補助と考えてください(低温火傷にも注意してください)。また、乾燥を防ぐため、多くの場合は冬場は加湿器も必要です。

ハムスターの場合は、湿度は40~60%くらいでよいですが、前述の動物たちより寒さに弱いので室温は20~26℃にして下さい。とくに、室温が5℃以下になっていたり、昼間の温度と夜の温度差が5℃以上あったりすると、寒さに対抗するために消耗をできる限り少なくしようとした結果、疑似冬眠といって冬眠しているような状態になってしまうことがあります。もともとハムスターは冬眠をする動物ではありません。疑似冬眠は非常に危険な状態です。もし、なってしまったらすぐに病院で適切な処置を受けてください。とくに体力が落ちてくる1歳半以上のハムスターでは22℃以上の環境が良いでしょう。

小鳥も寒さや温度変化に弱い動物です。暖かめの環境、温度20~32℃、湿度50~60%が必要です。やはり、幼鳥・老鳥・病鳥などでは、少し温度を高め28~32℃くらいにしてあげてください(ヒトにとっては暑すぎますが)。とくに、小鳥が膨らんでいたり、羽を立たせていたりする場合は、すぐに温度を上げましょう。これは体温を失いたくないために、羽を膨らませて体温が逃げるのを防いでいる状態です。このような症状を見せ始めたら、相当悪くなっている場合があります。なるべく早く受診してください。

また、チンチラはもともと標高の高い高地の岩場の涼しい環境に住んでいたウサギの仲間です。暑いのは禁物。温度15~20℃、湿度40%ぐらいが快適です。

よくある事故は、エアコンを使用せず、ペットヒーターや毛布などのみで、寒さ対策をしている場合に起こります。必ずエアコンを使用しましょう。

動物種、その動物の状態によって快適な環境は違いますが、上記のことも参考にして寒い冬に対処してください。

以下もご覧下さい
No42:冷えについて


No.127 小鳥の腹囲膨大

セキセイインコや文鳥などの小鳥でお腹が膨らむ腹囲膨大はよくある症状です。原因にもよりますが、外見上、腹囲膨大が認められるときには重症になっている場合も多いので注意が必要です。

診断の手順としては、まずは腹部の触診と強い光を当てるライティングという検査をします。その次にレントゲン検査、場合によってはバリウムを使った消化管造影を行います。必要であれば超音波の検査も行います。血液検査が必要な場合もあります。

腹囲膨大は生殖器疾患と生殖器以外の疾患に分けられます。生殖器疾患には、卵塞(卵詰まり)、腹壁ヘルニア、卵管蓄財症、卵黄性腹膜炎、卵巣・卵管の腫瘍、精巣腫瘍などがあり、非生殖器疾患は肝・胆嚢疾患、腹水、腎臓腫瘍、その他の腹腔内腫瘍などがあります。その中から、よくみられる卵塞と腹壁ヘルニアの原因と治療について簡単にご説明します。

・卵塞(卵詰まり)
原因:寒冷などの環境、ストレス、Ca不足、ホルモン異常、高齢など様々です。小鳥は排卵後24時間以内に産卵するのが正常です。また、長時間の卵の停滞は腎臓を傷めることがあります。
治療:卵が卵殻腺から膣部にある場合は卵圧迫排出処置が可能です。指で卵を押して強制的に塞卵を排出させる方法です。しかし、圧迫により卵が総排泄腔に向かわない場合は、卵管上部あるいは卵管外にある可能性があり卵圧迫排出は困難です。この場合は全身麻酔下の手術による卵の摘出を行 います。ご自宅で無理に卵圧迫排出処置をすることは非常に危険です。絶対に行わないでください。

・腹壁ヘルニア
原因:腹筋が切れたり緩んだりすることで、皮下へ臓器が出てきた状態です。過度の産卵や慢性発情によるエストロジェンの過剰が原因といわれていますが、明確にはわかっていません。通常、皮膚は黄色くなり肥厚します(キサントーマ)。
治療:全身麻酔下の手術でヘルニアを整復しますが、重症なもの経過が長い場合には再発も多いです。

腹囲膨大は小鳥によくある症状ですが原因は様々です。気がついたら早めの受診をおすすめします。

セキセイインコの卵塞(卵詰まり)


No.126 犬のしつけのコツ (Training)

しつけのことを簡単に説明するのは困難ですが、すぐに実践できるコツを書いてみます。
まずは、飼主さんが主導権を握りリーダーになることが重要です。このときのコツは、暴力・怒り・緊張などのネガティブな感情をださないことです。リーダーには威厳が必要です。泣いたり、喚いたりなどのマイナスの感情をあらわにすることは、犬からリーダー失格の烙印を押されてしまいます。
次に根気強く行うことが大事です。しつけには時間と忍耐が必要です。ヒトの子供のしつけだって大変なのですから言葉を話せない犬ではなおさらです。すぐに結果が出ないのは当たり前です。焦りは禁物。新しい事にチャレンジするときは、毎日10分~15分間の短時間、集中して反復練習を続けてみてください。
また、ご褒美(おやつ・褒める)をうまく使うとしつけははかどります。ご褒美のタイミングは良い事をした直後です。直後でないと犬はなぜご褒美を与えられたのか理解できません。小さい事でもよいから良い事をした直後はご褒美を与えてあげて下さい。叱るときも同様です。悪いことをした直後に叱って下さい。このとき叩く必要はありません。大きな声で「ダメッ!」「イケナイッ!」と言えば十分です。過度に甘やかさず、優しさと厳しさ、誉める・叱るのメリハリを意識してください。<br> それから、飼主さんが同じ態度、同じ言葉で接することも必要です。同じ事をしても、ご褒美が貰えるときとそうでないときがあったり、誉めるとき、叱るときの言葉や号令がそのたびに違うと犬は混乱します。家族みんなで言葉や号令、出来ればトーンも統一しましょう。
最後に一番大切なのは、しつけを楽しく行うことです。飼主さんが楽しんでいると犬も楽しくなります。かけがえのない愛犬との出会いと、過ごせる毎日の幸せを楽しんでください。

しつけの具体的な方法についてはメルマガバックナンバー
No14:学習その1 馴化、洪水法、脱感作
No15:学習その2 古典的条件づけ
No16:学習その3 オペラント条件づけ1
No17:学習その4 オペラント条件づけ2 まとめ
もご参照ください。


No.125 去勢手術・不妊手術 (Castration・Spay)

去勢手術・不妊手術のメリット、デメリットを解説します。

まずはメリットとして
・将来の病気の予防となる
雄の場合:前立腺肥大、各種の精巣腫瘍、肛門周囲腺腫、会陰ヘルニア
雌の場合:乳腺腫瘍、卵胞嚢腫などの各種の卵巣疾患、子宮蓄膿症などの各種の子宮疾患
やっかいな病気が多いです。
・発情に関する問題がなくなる
猫の過発情などの原因は卵巣疾患ですが、動物の性欲は1次本能です。1次本能とは、ヒトにおける食欲、睡眠欲などの生きていく上で我慢が難しいものをいいます。ヒトには理性があり性欲をコントロールしていますが、動物では性欲は食事や睡眠と同じくらい抑えるのが困難な本能です。『発情している時に交配出来ないのは、お腹が空いている時に目の前にごちそうを出されて食べてはいけないと言われている状態』と例えられます。適切な時期に去勢・不妊手術を行うことで動物も心の安定を得られます。
・問題行動の発生の可能性が減る
雄猫のスプレーや雄犬の攻撃性などの発生の可能性が減少します。
・飼い主のいない子供が生まれなくなる

デメリットとしては
・子供が得られなくなる。
・全身麻酔下の手術が必要
・太りやすくなる
・雌犬の攻撃性が増進される場合がある(稀)。

上記のようなことを鑑みて、最終的には飼主さんの判断になりますが、極端に言えば『子供を得たいかどうか』この1点に尽きると思います。子供がいらないのであれば手術をしてあげた方がヒトも動物も快適に過ごせると思います。 そして手術を受けるなら、生後5ヶ月目~7ヶ月目くらいがお勧めです。乳腺腫瘍や問題行動に関しては、この時期を逃すと病気や問題の発生率が上がります。


No.124 夏に気をつけたいこと

今年の夏も熱いですね。以前にも書きましたが、犬、猫、うさぎ、フェレット、ハムスターなどは、室温25℃以下、湿度60%以下の環境が理想です。横浜の夏は、動物が快適に過ごすために扇風機だけではなくエアコンの使用が必要です。

この時期に多くみられる熱中症の症状は、高体温、あえぎ呼吸と呼吸困難、舌や粘膜が鮮やかな紅色となり、唾液は濃く粘っこくなります。嘔吐・下痢が始まる場合もあります。
症状が進むと脱水が起こり、腎前性の高窒素血症となり、痙攣、シヨック、虚脱、DIC(播種性血管内凝固)という状態になり死亡します。とくに高齢動物、持病のある場合、短頭種などは注意が必要です。
熱中症にまではなっていなくても熱さ負けをして、貧血、白血球の上昇、痒みなどが出てきている動物も多く診ます。
お散歩も涼しい時間に行くのは当然ですが、日が落ちてすぐだとアスファルトがまだ熱を持っていて肉球を火傷することもあります。

また、熱さとは直接関係はありませんが、花火などの大きな音に対して恐怖心がある動物も対応が必要かもしれません。お心当たりの方は早めにご相談ください。

ヒトと同様に動物でも高齢化の波が押しよせています。成犬や成猫の1年はヒトの4~5年に相当します。去年は大丈夫だった環境が今年はダメということがよくあります。温度に注意して健康に熱い時期を乗り切ってください。