子宮蓄膿症は子宮内に膿が蓄積されて起こる疾病です。発情期を過ぎたあたりに膣から子宮の中に、大腸菌、ブドウ球菌などの細菌が入り込んで生じる子宮内膜炎が引き金となります。細菌感染が体の免疫機能を上回って、炎症で生じた膿が子宮内に大量に蓄積されてしまった状態です。さらに、菌そのものや、細菌がつくる毒素が体の中を廻り、最終的にはDIC(→No144種性血管内凝固症候群)、敗血症や腎、肝不全をはじめとする多臓器不全などの合併症から危険な状態に陥ります。また、その過程で拡張した子宮が破裂し、膿が腹腔内に漏れて腹膜炎を生じてさらに緊急化することもあります。
子宮蓄膿症は、6歳以上の不妊手術を受けていない雌犬に4頭に1頭程度の確率で生じます。特に中高齢犬で、今まで出産したことがない犬、または長く繁殖を停止している犬に多いと言われています。犬以外にも、猫、ウサギ、フェレット、ハムスター、ハリネズミなど、多くの哺乳類でみられます。
原因は、発情後1~2ヶ月間の黄体期に出る黄体ホルモン(プロジェステロン)にあるといわれています。プロジェステロンには細菌感染の温床になる子宮内膜の増殖、子宮の出入り口となる子宮頚管を閉ざす役割、さらに体の免疫力を下げてしまう働きがあり、これらの要因が組み合わさって子宮蓄膿症が生じます。排卵後には犬の体は妊娠、出産の準備のためプロジェステロンが分泌され始め、これが子宮壁の嚢胞性過形成(子宮内膜が厚くなり、水膨れしたような状態になること)を引き起こします。この状態の子宮粘膜は細菌感染しやすい環境になっています。子宮内に入り込んだ細菌は健康なら免疫機能によって自然に排除されますが、黄体期には精子を受け入れられるよう緩んでいた子宮頚管が閉ざされるため、細菌感染による炎症産物が子宮内から排出しにくくなり子宮蓄膿症となります。
診断は、発情の1-2ヶ月後の膿の様な帯下、多飲多尿、お腹が膨らんできたなどの症状と、レントゲン検査、超音波検査で行います。また、全身状態を把握するための血液検査も重要です。子宮蓄膿症に類似の病気として、子宮水腫、子宮粘液症という子宮内に膿ではない体液や粘液状のものが貯まってしまうものや、子宮の腫瘍などとの鑑別が必要です。乳腺腫瘍(→No68乳腺腫瘍1、No69乳腺腫瘍2)を併発している場合も多いです。
子宮蓄膿症の治療の基本は外科手術です。卵巣子宮摘出術を行って、外科的に膿が溜まった子宮と原因となる卵巣を取り除くことがベストです。しかし、合併症を生じていることも多く、通常の卵巣子宮摘出術(→No286不妊手術.No125去勢手術・不妊手術)と比べてリスクの高いものとなりがちです。DICやPre-DICの状態では、輸血(No173犬の血液型と輸血、No174猫の血液型と輸血)の用意が必要な場合もあります。内科的治療に関しては、プロジェステロンの働きをブロックすることを目的とするアグレプリストン(Alizin)が欧米で承認を受けて使用されるようになってきていますが、日本ではまだ承認されていません。
予防は若い時期の不妊手術です。繁殖の予定がない場合は不妊手術を受けましょう。
子宮蓄膿症の子宮(手術時の写真が出ます。苦手な方はクリックしないで下さい)