No.341 外耳道の手術

80%以上の犬が何らかの耳のトラブルを抱えているといわれています。軽症の場合は定期的な管理で十分ですが、外耳炎が慢性化して内科治療で耳道環境が改善しない場合は外耳道の手術が必要です。とくに、耳垢腺の過形成や耳道周囲の軟骨まで病変が拡がると内科管理は難しくなります。また、外耳炎が進み中耳炎になると治療はより大変になります。外耳道の手術には病変の拡大度合いにおいて以下の様なものがあります。病変の拡大度合いを術前に把握するにはCTが必要ですが必須ではありません。

1.垂直耳道切開術
垂直耳道壁を部分切除
適応
外耳道開口部の変性が軽度の場合
細菌が増殖しづらい耳道環境を作る
初期外耳炎の進行抑制
中耳炎の予防
ケアしやすい耳道を作る

2.垂直耳道切除術
変性・閉塞した垂直耳道を切除
適応
垂直耳道の軟骨変性が顕著
垂直耳道全体の非可逆性の変性
耳道環境を改善、外耳炎の進行抑制
垂直道の耳道の腫瘍
中耳炎の予防

3.外耳道亜全摘術
垂直耳道を全摘
水平耳道を5mm程度残して切除
適応
制御不能の進行性外耳炎
水平耳道まで病変がある場合
水平道の耳道の腫瘍
中耳炎の予防

4.全耳道切除術
すべての耳道を除去
適応
制御不能の進行性外耳炎
鼓膜の側まで病変がある場合
鼓膜の側の腫瘍
通常は中耳炎対応で5とセットで行う

5.外側鼓室胞切開
外側鼓室胞の尾腹側を切除
鼓室胞内を清浄化する
適応
制御不能の進行性外耳炎で鼓室まで病変が拡大している場合
中耳炎
耳道の腫瘍などで鼓膜の内側や鼓室胞まで病変がある場合
4と組み合わせて行う

2~5は耳道の再建術も必要です。以前は4や5の手術は耳道を再建せずに耳を閉じてしまう手術が主流でしたが、そのような手術では術後に瘻管を作ることがあり、とても痛く、再手術が必要になる場合が多くありました。手術は頻雑になりますが、耳道をきちんと再建することによりこのような状況を防ぐことができます。また、2~5は、術後月に一度程度の耳の穴周囲の毛刈りや耳道内の洗浄も必要です。
4~5の段階になると、手術後に顔面神経麻痺などの合併症が発生する場合があります。とくに短頭種では注意が必要です。
一度悪くなった耳道は完全には元に戻りません。外耳炎は内科治療で上手く行っていても、悪くならない様に生涯のケアが必要な場合が多いです。手術も次期を逸せずに1か2の段階で行うことが望ましいです。

こちらもご参照下さい
No320フレンチブルドッグの中耳炎
No319中耳炎
No188外耳炎3
No58外耳炎2
No57外耳炎1