No.529 獣医療のEBM (Evidence-baced medicine)

EBM(エビデンス・べイスド・メディスン)とは根拠に基づく医療という意味で、その重要性は獣医療においても広く知れ渡り一般的になりました。EBMは個々の患者さんをケアするための方針を決定する際に、最新かつ最良のエビデンス(根拠)を良心的に、明確な理解に基づいて、判断よく用いる医療のことと定義されています。科学的で説明可能で再現性があって妥当な治療方法によって医療を実践しようとする医療方法論です。

エビデンスとして用いられる医科学情報は、教科書や論文、文献などになっている、過去の臨床事例や科学的実験を、信頼のおけるデータとして評価した上で使用されることが理想的です。膨大な医科学情報を整理し、患者さんの疾患を正確に診断し、適切に治療することをEBMでは目指します。

しかし、獣医療におけるEBMはエビデンスがある情報がとても少ないです。現在獣医療で扱う疾患の診断・治療の多くに対して、信頼性や妥当性の高い方法が確立されているわけではありません。また、エビデンスを生成するための計画的な研究も十分に行われていない状況です。情報の整理のための回顧的研究(レトロスペクティブ)や製薬会社以外の治験などの客観性のある計画的な前向きな臨床研究(プロスペクティブ)などが圧倒的に少ないことがその原因です。そのため、ヒトの医療のように信頼性・妥当性の高い情報をエビデンスとして簡単に選択することができません。また、一般的にヒトの場合N数(サンプル数)が400を超えていないと信頼できるデータではありません。品種が様々な犬や猫でこの数を集めるのはかなり困難です。

また、エビデンスは過去の事実です。仮に正確なエビデンスを得るため適切に計画された臨床研究を積み上げたとしても、導き出されるエビデンスは、実際の患者さんに適応した場合、確実にそのようになるとは言い切れないという限界があります。エビデンスは科学的に導き出されますが、真理や真実というものではないということを意識しておく必要があります。

当院では25年以上月に5-8回、各分野の専門家を呼んでセミナーを行っていますが(リンゲルゼミ)、その先生方の意見も3-6ヶ月経つと変わります。今のところ全ての獣医師や動物看護師のエビデンスの量と質の統一化は難しいものと考えられますが、AIがこの壁を壊してくれる時代も来ると思います。

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No.48 EBM (Evidenced Based Medicine)