EBM(エビデンス・べイスド・メディスン)、根拠に基づく医療の重要性の認識は、獣医療においても広く知れ渡り一般的になりました。EBMは個々の患者さんをケアするための方針を決定する際に、最新かつ最良のエビデンス(根拠)を良心的に、明確な理解に基づいて、判断よく用いる医療のことと定義されています。科学的で説明可能で再現性があって妥当な治療方法によって医療を実践しようとする医療方法論です。
エビデンスとして用いられる情報は、教科書や論文、文献などになっている医科学情報です。過去の膨大な臨床事例や科学的実験を数量的に妥当な信頼のおけるデータとして評価した上でエビデンスとして使用されることが理想的です。膨大な情報を整理し、患者さんの疾患を正確に診断し適切に治療することをEBMでは目指します。
しかし、獣医療におけるEBMはエビデンスがある獣医療情報がとても少ないです。現在獣医療で扱う疾患の診断・治療の多くに対して、信頼性や妥当性の高い方法が確立されていません。また、エビデンスを生成するための計画的な研究も十分に行われていないと言ってよい状況です。情報の整理のための回顧的研究(レトロスペクティブ)や製薬会社以外の治験などの客観性のある計画的な前向きな臨床研究(プロスペクティブ)などが圧倒的に少ないことがその原因です。そのため、ヒトの医療のように信頼性・妥当性の高い獣医科学情報をエビデンスとして簡単に選択することができません。また、一般的にヒトの場合N数(サンプル数)が400を超えていないと信頼できるデータではありませんが、品種が様々な犬や猫でこの数を集めるのはかなり困難です。
エビデンスは過去の事実です。仮に正確なエビデンスを得るため適切に計画された臨床研究を積み上げたとしても、導き出されたものは、実際の患者さんに適応した場合、確実にそのようになるとは言い切れません。また、必ずしも、新しい情報が正しいというわけではありません。エビデンスは科学的に導き出されますが、真理や真実というものではないということを意識しておく必要があります。
当院では25年以上、月に5-8回、各分野の専門家を呼んでセミナーを行っていますが(リンゲルゼミ)、その先生方も3-6ヶ月経つと意見が変わります。今のところ全ての獣医師や動物看護師のエビデンスの量と質の統一化は難しいものと考えられますが、AIがこの壁を壊してくれる時代も来ると思います。
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No.48 EBM (Evidenced Based Medicine)