No.518 免疫介在性溶血性貧血(IMHA: Immune-Mediated Hemolytic Anemia)

犬や猫の免疫介在性溶血性貧血(IMHA: Immune-Mediated Hemolytic Anemia) は、動物自身の免疫システムが誤って赤血球を攻撃・破壊することで引き起こされる病気です。これは自己免疫疾患の一種であり、特に犬では比較的よく見られる疾患です。猫でも発生しますが、犬に比べると少ないです。

IMHAには、以下のように一次性(原因不明)と二次性(他の要因に続発)があります。
1. 一次性(特発性)IMHA
原因が明確ではなく、免疫システムが自分の赤血球を異常に認識して攻撃します。犬ではこのタイプが多く、特に雌の中年期の犬で発生しやすいです。
2. 二次性IMHA
他の要因によって免疫が活性化し、赤血球が標的となる場合です。
・感染症(例:バベシア症、ヘモバルトネラ症、エールリヒア症)
・腫瘍(リンパ腫や血液の癌)
・薬物(例:抗生物質や免疫抑制剤)
・ワクチン接種後(稀)
・他の自己免疫疾患

症状は、貧血とその合併症によるものです。
・元気消失、食欲不振
・黄疸(粘膜や皮膚が黄色っぽくなる)
・青白い歯茎(貧血による)
・速い心拍や呼吸
・倦怠感、運動不耐性
・血尿や黒っぽい便
・発熱(炎症や感染が原因)
・血栓症(赤血球破壊の影響で血栓ができやすくなる)

診断は、症状、血液検査の貧血所見、赤血球の凝集、再生性貧血、スフェロサイト(球状赤血球)の出現、クームス試験、PCR検査(感染症の確認)、超音波検査、レントゲン検査(腫瘍や他の異常の確認)、骨髄検査などで総合的に行います。

IMHAは進行が速く、早期治療が重要です。最初はステロイド剤を使用し、効果が得られなければ、他の免疫抑制も使用します。輸血を行う場合もあります。二次性の場合は原因の治療が重要です。

IMHAは致死率が60%と高い病気ですが、早期診断と適切な治療が行われれば回復の可能性があります。血栓症や多臓器不全が主な死亡原因で、初期2~3週間が最も危険です。治療後も再発する場合があるため、長期的な経過観察が必要です。


球状赤血球

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