No.487 ハムスターの前庭疾患

前庭疾患とは、様々な原因で平衡感覚を失ってしまう病気全般を指します。動物の身体には、平衡感覚を司る三半規管が両側の内耳に存在します。三半規管が感知した頭の動きや位置が神経を通じて脳幹へ伝えられ平衡感覚が生まれます。三半規管やその信号を受け取る脳幹が機能しないと、世界がグルグルと回ってしまうような感覚に陥り眩暈やふらつきが起こります。

前庭は、末梢前庭と中枢前庭に分けられます。
・末梢前庭:内耳の三半規管と前庭と前庭神経(内耳神経のひとつ)
・中枢前庭:橋、延髄の一部、小脳の一部(片葉:へんよう)
発症する前庭疾患の多くは末梢性のものです。中枢性前庭疾患は比較的稀ですが経過が悪いです。

症状としては、末梢性でも中枢性でも、頭が傾く(斜傾)、まっすぐに歩くことが出来ない、すぐに転がってしまう、眼振、食欲不振などです。

確定診断するために、本来はより詳細な検査、CTやMRIなどが推奨されますが、ハムスターの様な小さい動物になるとなかなか困難なのが現状です。また、ホルモンの異常によっても起こる事がありますが、こちらもハムスターでは診断方法が確立されていません。100%ではありませんが、水平方向に眼球が動く「水平眼振」の場合は内耳の病気が疑われ、垂直方向に動く「垂直眼振」の場合は脳の病気が疑われます。実際は症状から推測して治療的診断を行っていきます。

治療は、抗生剤、消炎剤、食欲がない場合は皮下点滴や強制給餌を行います。代替医療が著効する場合もあります。発生の多い末梢性のものは、斜頸の後遺症が残る場合もありますが回復してくれる場合が多いです。しかし、中枢性の前庭疾患はあまり予後がよくなく、残念ながらそのまま亡くなってしまうこともあります。


前庭疾患で斜傾が起こったジャンガリアンハムスター

こちらもご参照下さい
No.440 犬の前庭疾患