震えは振戦(しんせん)ともいい、リズミカルにみられる反復的な筋肉の収縮をさします。震えは、実際には普段から目に見えない形で存在しています。この見えない震えが何らかの原因によって増強されると飼主さんが見てもわかる震えとして認識されます。これを生理的な震えといいます。生理的な震えは、主に寒さ・興奮・恐怖・不安・興奮・虚弱などによって生じることが多いです。また、震えるという場合、振戦も痙攣も同じようにとらえがちですが違いがあります。
振戦:リズミカルにみられる反復的な筋収縮。生理的なものは比較的心配のいらない場合が多いです。
痙攣:脳の異常な活動によって、体の全体もしくは一部が強直したり振動したりするような状態です。一般的には意識がなくなり呼びかけに反応しませんが、稀に意識があるように見える痙攣も存在します。
振戦とけいれんの区別がつきにくい場合も多いです。判断に迷ったら、震えの様子を動画で撮っていただくと診断の役に立ちます。
生理的な震えの原因を挙げていきます。
生理的な震え
・寒さ
犬が寒さを感じた場合、体の熱を保とうとして、全身の筋肉が小刻みに震えます。これは筋肉が細かく動くことによって熱を発生させ体温を維持しようとする生理的な現象です。体温調節が苦手な子犬や高齢犬、チワワやトイプードルなどの小型犬などではは寒い時期によく起こります。お散歩時や室温には気を付けましょう。急に寒い戸外に出るのではなく、散歩前に軽くマッサージやストレッチなどを行ったり、暖かい洋服を着せるなどして軽く体を温めてから出かけるのが良いです。室内は暖房器具などでうまく温度管理を行い、快適な室内を保ちましょう。寒さによる震えは生理的な反応ですが、実はその影に、体温調節がうまくできなくなるような病気(甲状腺機能低下症など)が隠れている場合もあるので注意が必要です。
・不安、緊張、ストレス
犬は恐怖や不安、緊張、ストレスなどを感じると、自律神経系のバランスが崩れて震えが生じることがあります。どの年齢やどの犬種でも起こりえますが、遺伝的に不安傾向の強い犬種も存在します。まずは震えが起こった際、特定の環境や状況によって誘発されるようなものなのかを確認しましょう。この場合の震えは、行動学的な対策やトレーニングを行うと改善がみられる場合があります。例えば注射などの嫌なことをしない日に動物病院へ行き、好きなおやつをもらうことを繰り返します。これにより病院のイメージを変更するという行動修正を行います。雷や花火、工事の音などの環境の問題で震えが出る場合は環境の改善を行います。ケージの位置を変えたり、音の聞こえにくい場所に寝床を置くなど、不安を感じにくいような環境設定が重要です。また普段から不安や恐怖を引き起こさないように、体罰や叱責を含め不安感が増すような行為は止めましょう。不安な状態になったときに安心できる場所へ誘導できるよう、クレートトレーニングなどを行っておくこともおすすめです。震えの症状だけでなく食欲低下、下痢・嘔吐など体調面に影響が出る場合には、心を落ち着かせるような薬を使うことがあります。
・楽しい、嬉しい
恐怖や不安などのネガティブな感情だけでなく、犬は楽しい、嬉しいなどのポジティブ感情が高まった場合でも、自律神経が乱れ震えが起きる場合があります。興奮時は飼主さんの声が届きにくくなり、事故に遭いやすくなったり、過度の興奮により攻撃行動が出ることもあるので気をつけましょう。興奮した犬を落ち着かせるのは難しいので、まずは興奮させないことが大切です。日頃からどんなタイミングで興奮するのかを把握し、対策を行いましょう。
・老犬の脚の筋力低下
高齢になると筋肉量はだんだんと低下していきます。最初に後肢の踏ん張りが効かなくなり、立ち上がったりしゃがもうとする際に足腰がプルプル震えることがあります。これは筋肉量の低下・筋の虚弱による震えです。高齢になるとある程度の筋肉量の低下は仕方がないことです。なるべく若いうちからしっかりと運動し、あらかじめ筋力をつけておくことは重要です。また高齢犬の場合、過度な運動は足腰や関節に負担がかかるので、無理しない範囲で散歩するなどし筋肉量を維持できるようにしましょう。屋内では滑り止めなどを利用して、脚が踏ん張りやすく歩きやすいような環境作りが必要です。肉球は滑り止めの役割をしているので、足裏の毛が伸びているならカットし肉球の保湿も行います。
次回は病的な震え、痙攣です。
こちらもご参照ください
No197 クレートトレーニング
No15 学習その2古典的条件づけ