我々獣医師の印象として、慢性腎不全(CKD)を持つ猫は健康な猫よりも便秘しやすいと考えてきましたが、今年の5月のアメリカからの報告で、慢性腎不全(CKD)と便秘の関連を調査した興味深い論文がありました。19ヶ国に渡る124匹の健康な猫と43匹のCKDの猫が調査対象でした。
結果は、健康な猫は1日1回は排便があり、CKDの猫で毎日排便があるのは58%でした(CKDの猫のうち18%はすでに下剤を使用していました)。CKDグループの多くの猫が排便時に、大きな声で鳴く・体の緊張・嘔吐を伴っていました。また、CKD猫の排尿頻度も、健康な猫よりも高かったことが報告されています。これはCKDの猫は、水をたくさん飲む多飲多尿症(PUPD)があるためだと考えられます。
この調査結果から、CKDを持つ猫は健康な猫よりも便秘しやすいことが示唆されます。また、毎日の排便がない場合はすでに健康でない可能性があるということも示しています。便秘はCKDを有する猫の重大な問題の1つです。原因には、脱水、電解質異常、胃腸機能の変化、処方された薬の影響などが考えられます。注意深く便秘の原因を特定し、CKD猫の便秘の発生を防ぐ必要があります。また、排便時に大きな声で鳴く・体の緊張・嘔吐の兆候は、潜在的な便秘の問題の可能性があります。
以前にも書きましたが、猫の便秘を軽く考えてしまうと、慢性的な便秘から発症する『巨大結腸症』になってしまうことがあります。また、腸閉塞や腸管穿孔(腸に穴があくこと)、肝疾患や敗血症で命に関わることもあります。「たかが便秘」と侮ってはいけません。とくにCKDに罹患している猫ちゃんは注意が必要です。
こちらもご参照下さい
No300慢性腎不全(CKD)のステージ分類
No301 慢性腎不全(CKD)の推奨される治療
No271 猫の便秘
No272 猫の巨大結腸症
No55 慢性腎臓病(CKD)1
No56 慢性腎臓病(CKD)2
No3 飲水量とPUPD