心電図検査は、血液検査やレントゲン検査とならび、診察や健康診断の際に行われる頻度が高い一般的な検査です。心電図は心臓の異常を発見するためにとても有用な検査でありますが、心電図検査だけでは見つけることが難しい心臓病もあります。心電図は1903年にオランダの医学者アイントーベンによって考案されました。アイントーベンはその功績により1924年ノーベル医学生理学賞を授与されています。心電図検査は、当時のノーベル賞の受賞理由になりうる画期的な発見だったのです。そして100年近く経った現在でも使用されている素晴らしい検査です。
心臓は拍動すると同時に電気が流れているのですが、その電気興奮を波形として記録したものが心電図になります。現在、病院で行われる心電図検査は12誘導心電図といい、1枚の心電図記録には12種類の波形が記録されます。12種類もの波形を記録する理由は、心臓を流れる電気興奮を12の方向から観察し、全体像をしっかりと把握するためになります。
獣医学は日進月歩で様々な技術が開発されていますが、心電図検査が現在でも重宝されている理由は、動物に大きな負担をかけることなく実施することが可能で、すぐに波形記録を確認でき、得られる情報量が多いからということになると思います。しかし聴診器のみの診察では限界があるように、心電図検査のみでは心臓の状態や病気のことが全てわかるわけではありません。
血液検査ではその結果は数字となって表現されますが、心電図検査では波形が記録されます。心電図には、正常波形とされている波形記録があり、それに当てはまらなければ異常と判定されることになるわけです。しかし、正常波形ならば心臓に病気がなく、異常波形は心臓に病気を抱えている、と必ずしもなるわけではありません。
心臓は規則正しく動いていますが、それは心臓で規則的に電気が発生して流れているからです。心臓の規則正しさが乱れる不整脈(→No137不整脈)の診断は、心電図検査の最も得意とする領域になります。ヒトで多い「心筋梗塞」や「狭心症発作」のときには、心臓の電気的活動に異常が生じるので異常波形が出現します。また、猫でよくみられる「心筋症(→No222猫の肥大型心筋症)」という心筋に障害が起きている疾患でも異常波形が記録されることが多くなります。
しかし、犬でよくみられる、弁という心臓内の構造物の働きが悪くなっている弁膜症(→No194僧房弁閉鎖不全症)では、だいぶ進行してからでないと心電図波形は変化してこないことが一般的です。また、狭心症や不整脈などでは発作が起こったときでないと心電図波形に変化がみられないこともありますので、測定時の心電図が正常だからといって心臓病がないとは言い切れません。
逆に、健診結果で異常と判定された波形であっても、最終的に「問題なし」や「経過観察」と判断されるケース(病気とは言えず、治療の必要性なし)も結構あります。例えば、心臓の基本的な働き(全身に血液を送るポンプ機能)は正常で、突然死を起こす可能性は高くないと判断しうるのであれば、正常とはやや異なる電気興奮をしていたとしても、そのケースでは「問題なし」「経過観察」という結論になることがあります。
発作時の心電図記録が有用だと考えられるケースでは、運動負荷心電図や24時間心電図(ホルター心電図)といった特殊な心電図検査を行います。心臓の形態やポンプ機能を確認するためには、心電図よりも心臓超音波検査(→No154超音波検査)が有用になります。