No.32 肥満(Obesity)

動物の肥満に対する認識も年々高まりつつあります。人の話を当てはめがちなのですが、違いもあります。

肥満の定義は『体脂肪が過剰に蓄積した状態』です。研究結果によりますが、日本の25~30%の犬猫が肥満だと見積もられています。肥満は加齢によって増加し、多くは5~7歳以上で肥満になる傾向があります。性別では雄より雌の方が太りやすく、去勢、不妊手術の影響もあります。犬種別では、ラブラドール・レトリーバー、ダックスフント、チワワ、プードル、コッカー・スパニエル、シェルティー、キャバリア、ビーグルなどで肥満が多く、ジャーマン・シェパード、ヨークシャー・テリア、グレーハウンド、ドーベルマン、ブル・テリアなどで少ないとされていますが、飼育環境が多大に影響するのは言うまでもありません。

原因は摂取エネルギーが消費エネルギーを上回ることで、症候性肥満と原発性肥満とに分けられます。なんらかの疾患が背景にあり、その症状の1つとして肥満になるのが症候性肥満です。よくある原因として、甲状腺機能低下症や副腎皮質機能亢進症などの内分泌・代謝性の疾患があります。胆嚢の働きが悪くなり脂質の排泄がうまく出来なくなると、肥満しやすい体質になります。また、ステロイド剤などの薬剤によって肥満になる場合もあります。原発性肥満はこれら以外のもの全てで、遺伝因子と環境因子の複雑な相互作用によって生じます。

エネルギー制限食が犬の寿命に及ぼす効果について、10年以上の年月をかけた実験があります。48頭のラブラドール・レトリーバーを2群に分け、一方は自由採食、一方はエネルギー制限群(25%減)として、ともに終生飼育したとき、平均寿命が自由採食群では11.2年(最長12.9年)、エネルギー制限群では13年(最長14年)だったそうです。この差をどう考えるかは人それぞれだとは思いますが、大型犬の約2年の寿命の差は、人に置き換えると10年くらいになります。いずれにしても、いつも、お腹いっぱい食べるというのは、よろしくない様ですね。

次回は肥満が原因で生じる主な疾患についてです。


No.31 膝蓋骨脱臼

犬に非常に多い膝蓋骨脱臼についてです(猫でも稀に見られます)。膝のお皿のことを膝蓋骨(しつがいこつ)といいます。大腿骨の端にある膝蓋骨を受ける部分を滑車溝(かっしゃこう)といいます。

膝蓋骨脱臼とは、滑車溝から膝蓋骨が変位した状態を言います。平たく言えば、膝のお皿が外れることです。原因によって、外傷性と先天性に分類されます。内方に変位した場合を『膝蓋骨内方脱臼(MPL)』と言い小型犬に多く見られます。外側に変位した場合は『膝蓋骨外側脱臼(LPL)』と言い大型犬に多いです。重症になると、内にも外にも脱臼するようになることもあります。

外傷性膝蓋骨脱臼の原因は、交通事故や咬傷などの強い外的圧力によって、膝周辺の組織が損傷を受けることです。先天性膝蓋骨脱臼の原因は、滑車溝の形成不全、大腿四頭筋の変位、頸骨粗面(膝のお皿の靭帯が脛の骨にくっつてる部分)の変位などの構造的異常が考えられていますが、決定的な原因は解明されていません。膝蓋骨脱臼の原因は、ほとんどはこちらの先天性のものです。

症状は破行(正常な歩行が出来ない状態)です。ケンケンをする、膝を痛がる、膝を使わないで歩くなどですが、軽症の場合は無症状のこともあります。重症度の判定にはSingletonの分類が代表的な分類法です。

Singletonの分類

グレード1:膝蓋骨は手で押すと脱臼するが、手を離せば正常位にもどる。

グレード2:膝蓋骨は膝を屈曲するか手で押せば脱臼し、膝を伸展するか手で押せば整復される。

グレード3:膝蓋骨は常時脱臼したまま、手で押せば整復、手を離せば再脱臼する。

ゲレード4:膝蓋骨は常時脱臼し、手で押しても整復されない。

内科的な治療は、痛みがあれば非ステロイド系の鎮痛剤(NSAIDs)やレーザー、ホメオパシーなども有効な場合があります。内科的な治療は、グレード1~グレード2の比較的症状が軽い場合に行われます。

グレード2で症状が進んで来てしまった場合、グレード3~グレード4については、外科的な治療が推奨されます。手術は症例に応じて色々な術式を合わせて行いますが、中心になるのは、滑車溝形成術(膝の溝を掘る)、頸骨粗面転移術(お皿の靭帯が頸にくっついている部分をずらす)、内側広筋解放術(内方脱臼の時、大腿部の内側の筋肉を切る)、外側大腿膝蓋靭帯筋膜の縫縮術(内方脱臼の時、大腿骨の外側の筋膜を締める)も考慮します。

また、幼年期にO脚が激しい犬は、屈伸運動(ヒンズースクワット、I-Z運動などとも呼びます)により、膝蓋骨脱臼を予防出来る場合があります。


No.30 心臓疾患時の徴候2

失神(意識喪失)

血液の循環不全により、一時的に脳血流量が減ると失神します。よく、てんかんと間違われます。てんかんはいきなりバタッと倒れます。心臓からの場合はフラフラッと倒れます。慢性の僧帽弁閉鎖不全症の小型犬に多いですが、各種の先天性の心奇形、様々な不整脈でも起こります。

失神のきっかけは、咳や興奮です。咳こむことや過度の興奮により交感神経が興奮し、それを抑えようと副交感神経が強く作用します。すると、心拍数が落ちて脳の血流量が減り失神します(神経調節製の失神)。

その他

麻痺:猫の心筋症(心筋の肥大・変性などによって引き起こされます。肥大型、拡張型、梗塞型などがあります)において、血栓により後肢が麻痺することがあります。この場合は24時間以内の治療が必要です。

体重減少:慢性の僧帽弁閉鎖不全症や拡張型の心筋症の場合によく見られます。とくに側頭筋(こめかみの筋肉)や腰背部の筋肉が顕著に減少します。

腹囲膨満:心臓の右側(右心系)、右心房、右心室といった場所のトラブルにより、肝臓の中の門脈の血圧が上昇し、腹水が溜まります。体重増加と間違えられている場合があります。

抹消の浮腫:各細胞の間にある液体(間質液)と血液中の細胞以外の液体成分(血漿)を細胞外液と呼びます。心不全が進むと、細胞外液にも還流障害が起こり、細胞外液はうっ滞し、抹消の浮腫をおこします。

粘膜の色:舌、歯肉、口腔、結膜、爪、パット、包皮、膣の粘膜や皮膚の薄い部分で毛細血管の豊富な部位が、動脈内の酸素が足りなくなると青黒く見えます。これをチアノーゼと言います。チアノーゼは大きくわけて、中心性のもの(肺でのGas交換が上手く行ってない、動静脈に短絡がある)、末梢性のもの(ショック、うっ血性心不全、血栓、寒さ)があります。

視力異常

高血圧が長期間持続すると眼底出血や網膜剥離が起こり、視力障害が起こります。猫で非常に多いです。

心疾患は様々なトラブルを起こします。上記の様な症状が認められたら、すぐに検査を受けて下さい。また、健康そうに見えていても、小型犬や猫では10歳を超えたら、中型犬、大型犬では8歳を超えたら、半年~1年に1度のチェックをお勧めします。


No.29 心臓疾患時の徴候1

犬も猫も、心臓のトラブルは思いのほか多いものです。心疾患時に見られる症状についてご説明します。

倦怠感、運動不耐

簡単に言えば『元気がない』ことです。もちろん、心疾患でなくても、多くの病気で元気がなくなります。心疾患で起こる場合は、心臓からの血液の拍出量低下に伴い、各臓器や組織の代謝に必要な酸素が供給出来なることが原因です。

もちろん、咳も、心疾患時のみに見られるわけではありませんが、主に心臓の左側(左心系)、左心房、左心室といった場所に問題がある場合に咳が出ます。高齢の犬に多い僧帽弁閉鎖不全症では左心房が拡大します。拡大した左心房が左気管支を圧迫刺激することにより咳が出ます(このタイプは、治療しても咳が止まり辛いです)。また、左心系のトラブルにより肺の血圧が上がり(肺うっ血)、これがひどくなると肺に水が溜まります(肺水腫)。これらの場合も咳が出ます。

一般的には、夜間に咳が始まる場合が多いです。これは、心臓が昼間は交感神経優位で動いていて、夜は副交感神経(迷走神経)優位で動くからだと言われています。交感神経と副交感神経を自律神経と言います。自律神経は自分の意思で動かしていない神経のことです。心臓の他には、肺、気管支、胃腸や肝臓、胆嚢、生殖器などにも分布しています。心臓では、交感神経が主に促進系を、副交感神経が主に抑制系を司っています。つまり、夜の方が心拍数が、ゆっくりになります。心臓はゆっくりの方が同じリズムを続けるのが不得手だと言われています(不整脈なども夜の方が出現しやすいです)また、前述のように、気管支にも自律神経があり、やはり、夜は副交感神経が優位です。気管支は副交感神経が優位だと収縮しやすくなります。気管支が収縮すると咳は出やすくなります。このようなメカニズムで、副交感神経優位の時間帯である夜の方が咳は出やすくなります。

また、心臓の話ではありませんが、猫の咳はアレルギー性の喘息で起こっていることが非常に多くあります。

呼吸困難

心疾患により、肺水腫が生じたり、血液の循環が悪くなって、胸に水が溜まったり(胸水)、お腹に水が溜まったり(腹水、後述します)すると、だんだん呼吸困難の状態になって行きます。パンティングとも言います。重度になると、寝ているよりも座っている方が呼吸が楽なので(横になると、片側の肺が圧迫されるため)、お座りの状態を続け(犬座姿勢)、眠れません。

高齢猫の場合、甲状腺機能亢進症でもパンティングが見られることがあります。

次回に続きます。


No.28 ウサギの不正咬合

ウサギの飼主さんに『メルマガにウサギがほとんど出てこない』と言われました。今回はウサギに一番多いトラブル、不正咬合についてです。

ウサギの全ての歯は一生伸び続ける常生歯です(無根歯とも呼びます)。ちなみに、成獣の歯の数は全部で28本で、生後約40日で乳歯から生え変わっています。常生歯は、チンチラやモルモット。ハムスターやラット、プレイリードッグの切歯(前歯)。象やイノシシの牙(犬歯)にも見られます。

不正咬合の病態は、先天的(遺伝的)、後天的な原因(事故、いつも金網などを齧っている、牧草を食べておらず、歯の運動が出来ていないなど)により、歯が変な伸び方をして噛み合わせが悪くなり食事をとり辛くなります。また、過剰に伸びた歯が、唇や舌や頬の内側を傷つけ口腔内が痛くなり、よだれが増えたり食欲が減退します。重度になると、歯の根っこに膿みを持ったり、咀嚼が上手くいかずに下痢を起こすなど、様々な問題が生じます。歯って大事なんですね。

診断は、飼育環境や食事を詳しく聞かせていただき、口腔内を口腔鏡で観察することやレントゲン検査などで行います。軽症の場合は内科的な治療によって口腔内の痛みを取り除き、歯の運動を再開させ磨耗をうながしますが、重症例では歯を削ることが必要になります。歯を削る場合に、切歯(前歯)の場合は麻酔は必要ありませんが、臼歯(奥歯)の処置には、基本的には全身麻酔が必要となります。

予防は、飼育環境の整備をして、歯に対する事故を防ぐことと、イネ科の牧草のチモシーを食べてもらって、なるべく、歯を使ってもらうことです。とくに、小学校などで、ウサギを飼育している場合、給食の残りで育ててしまっていると不正咬合が生じやすくなります。何校かの小学校でウサギの話をさせていただきましたが、残念ながら、小学生の先生方はこの知識がない場合が多く、たくさんのウサギが不正咬合になっている状況です。小学生のお子様がいる方は、機会があれば、学校のウサギちゃんにも注意してあげてみてください。


No.27 猫の毛玉症と猫草

前回に嘔吐の話を書きましたが、猫草を使って毛玉を吐かせる。ということを聞いたことがある方は多いでしょう。猫草は一般には燕麦やエノコログサなどのイネ科の植物です。ペットショップなどでも普通に購入できます。

たしかに、猫は猫草で毛玉を吐いてスッキリ。という顔をすることもありますが、月に2、3回ぐらいならともかく、頻繁に与えすぎると、様々な問題が起きます。

まずは、吐くことを続けていると食道炎が起こります。胃酸は強い酸性液です。食道は胃酸に耐えられません。食道炎が重症になると、食道が狭くなってしまったり、拡張したりして、非常に治療が難しい状態になってしまいます。

また、年配の猫や、病気で弱っている猫の場合は、吐ききれないで肺に吐物が入ってしまい、誤嚥性肺炎を起こしてしまう場合があります。

もう一つ、最近、よく言われるようになったのは膵炎です。吐くときは胃の中と十二指腸の中の圧力が上がります。十二指腸には膵臓から膵液が膵管を通って出てきます。十二指腸の内圧が上がると、膵液が膵管内を逆流し膵臓にダメージを与えます。猫は膵管の出口と肝臓から胆汁を運んでくる胆管の出口が非常に近いので、膵炎が重症化すると、胆管にもダメージが出て胆汁が流れなくなり閉塞性の黄疸が起こります。

以上のような理由から、猫草はなるべく使わず、ブラッシングをよくして毛を体内に入れないこと、ラキサトーンのようなもので入ってしまった毛を流してあげることが、猫の毛玉症の予防となります。ブラッシングの嫌いな長毛種の猫の場合は、定期的に毛を短くカットすることもお勧めです。また、ラキサトーンはウサギにもお勧めです。ウサギの毛玉症(正しくは食滞)は、パパイヤやパイナップル製品で予防することは困難です。


No.26 嘔吐と吐出

『うちの○○ちゃんは、よく吐くんですが、大丈夫ですか?』

非常に多いご質問です。大丈夫かどうかは、当然、原因によりますが、

『犬でも猫でも、月に2、3回でその後ケロッとしていて続かないなら様子をみても大丈夫でしょう。週に2、3回になってくるようなら原因を調べたほうが良いと思います』

と、お答えしています(ちなみに、ウサギちゃんが吐いている場合は大変です。ウサギは食道の構造上、通常は吐くことが出来ません。重篤な状態です)

動物が吐いている場合、まず、考えるのは嘔吐なのか吐出なのかです。吐出は食べ物が胃まで行かずに吐き出されることで、嘔吐は胃や十二指腸(胃の次の腸、最初の小腸)の内容物が吐き出されることです。

吐出の時は食べてから短時間に食事がそのまま吐き出されます。原因の多くは、食道拡張症、巨大食道症、食道内異物、食道炎、食道腫瘍などの食道疾患です。また、先天性の心臓の病気で右大動脈弓遺残(PRAA)も有名です。いずれにしてもきちんとした検査が必要です。実際の臨床現場では、リンゴや梨、キャベツの芯、ジャーキー、骨などを丸飲みしてしまい食道で突っかかってしまっている場合が多いです。食道では消化液は出ませんので、内視鏡などにより取り出すか、胃の中まで送ってあげる処置をします。上記のようなおやつを与える場合は大きさに注意して下さい。

嘔吐は、胃液だけの場合は透明~白っぽい液体です。胆汁が混ざると黄色っぽくなります。消化の始まった食べ物に胃液や胆汁が付いて吐き出されることもあります。重篤な疾患では血液が混ざり赤~赤黒くなることもあります。

透明~白っぽい液体のときは、お腹の空き過ぎや軽い胃腸炎、何か胃腸とは別の原因で気持ちが悪いこと(肝障害、腎障害、車酔いなど)を最初に考えます。

黄色っぽいものの場合は胆汁が色を付けています。胆汁は肝臓の中の胆嚢から胆管を通して十二指腸に送られる消化液です。また、十二指腸内の胆汁の出口のすぐ隣には、膵臓からの消化液の出口もあるので、胆嚢や胆管、膵臓のトラブルなども考えます。膵炎は犬にも猫にも最近大変多くみられます。もちろん、十二指腸自体が悪い場合もあります。リンパ球形質細胞性腸炎、リンパ管拡張症、IBD、リンパ腫など、たくさんの疾患があります。

食事と一緒に吐く場合、食事をすると吐いてしまうような場合は異物も考慮に入れます。異物を食べてしまっている場合も大変多いです。おもちゃ、果物の種、紐、コイン、靴下、下着、などなど…。中毒にならないもので胃の中で転がっているような異物は緊急性はあまりありませんが(もちろん、早急に取り除くべきですが)。紐のように腸を手繰ってしまうもの、小腸でストップしてしまっているもの、尖っていて胃腸を突き破ってしまうおそれがあるものなどは緊急疾患です。内視鏡や手術で取り出します。一昔前は吐剤を使って吐かせる処置も行っていましたが、誤嚥のおそれがあるため現在では推奨されません。また、内視鏡で取り出せるものは直径3cmぐらいのものまでです。異物摂取にはくれぐれも注意して下さい。

吐物に血液が混ざっていたら、胃潰瘍や、重篤な感染症、悪性腫瘍などの疑いも出てきます。重症の場合が多いです。一刻も早い処置が必要になります。


No.25 アトピー3

シクロスポリンA(CsA)

シクロスポリンは主としてヘルパーT細胞によるサイトカイン(免疫や炎症に関与する物質)の産生を阻害することにより、強力な免疫抑制作用を示します。もともとは臓器移植の患者さんのために作られた薬です。1ヶ月の間、毎日1回飲んで、状況が改善したら減薬していきます。1ヶ月で約70%の症例で効果が出ます。副作用は、最初に下痢や嘔吐などの消化器症状や食欲減退がみられることがありますが、徐々に消失することが多いです。大きな副作用はありません。猫にはとくに効果的な印象があります。問題点はインターフェロンγほどではありませんが、こちらも導入期のコストが高いことです。大型犬になるほど大変です。

ステロイド剤

T細胞への関与やサイトカインの合成抑制などによって炎症を鎮めます。安価ですぐに効果が発現し、ほとんどの症例で症状が改善する便利な薬ですが、問題は長期投与が必要となったときの副作用です。だんだんと効果が減ってくる(薬が増えてしまう)、肝機能障害、副腎疾患、糖尿病、皮膚が薄くなるなどの問題が生じます。何度も繰り返し起こってしまうアトピーの場合は投与を注意しなければなりません。薬が増えてしまうような状況のときは、別の治療を考慮する必要があります。

アトピーの治療は、シャンプーと前述の3つの薬剤(インターフェロンγ、シクロスポリン、ステロイド剤)が基本となりますが、細菌感染があれば抗生剤、真菌(とくにマラセチア)の感染があれば抗真菌剤、炎症性物質を調整する必須脂肪酸製剤やビタミンEやサプリメント、漢方薬を併用する場合もあります。また、どうしても上手く行かない場合はホメオパシー治療も効果的です。ホメオパシーも上記の全ての薬と併用できます。問題点は時間がかかることが多いことです。

アトピーの治療をまとめると

・まずは症状にあったシャンプーによるスキンケアをしっかり行う。

・除去食試験で食物アレルギーを除外する。

・減感作療法をしたい場合は皮内反応試験を行う。

・コストの問題がクリア出来るなら、若い動物の場合はインターフェロンγを、年配の胴部にはシクロスポリンを始めてみる。

・インターフェロンγやシクロスポリンで症状が改善しない、コストの問題がある、急いで痒みを止めたい、季節性があって暑い時期だけの痒みの場合などは、ステロイド剤を副作用に気をつけて使用していく。

・インターフェロンγやシクロスポリンで症状が改善しない、なるべくならステロイド剤を使いたくない、時間がかかってもよいなどの場合には、ホメオパシーなどの他の治療法を検討する。

といったところでしょうか。

他の項でも同様ですが、獣医学は日進月歩です。どんどん、新しい学説、エビデンス、検査法、治療法、薬が出てきます(もちろん、必ずしも新しいものが良いことばかりじゃありませんが)。半年も経てばこの項の内容もかなり違ったものになると思います。痒いというのは非常に辛いことです。もっと効果的で副作用が少なく安価な治療法が発見されて欲しいですね。


No.24 アトピー2

アトピーが疑われた場合に行う最初のステップは除去食試験です。今まで摂取したことのないたんぱく質や、人工的に合成したたんぱく質のフードを2~3週間食べてもらいます(一昔前は、2~3ヶ月の期間の試験が必要といわれていましたが、現在では2~3週間で十分だといわれています)。その間の注意点は、水とそのフード以外はおやつも含め、他のものはいっさい与えないことです。内服薬も使いません。シャンプーはOKです。25%ぐらいがこの試験にひっかかります。2~3週間で改善が見られた場合は、食事に気をつけることと、シャンプーで管理をしていきます。一般的に食物アレルギーの場合は、1歳未満から発症している。最初に顔面(とくに眼と口)と背中、肛門の周りから発症した。便の回数が多い(1日3回以上)。季節性がない。などが特徴です。

除去食試験で、食事が主な原因でない、食物アレルギーでないと判断された場合は薬物を使った治療になります。主なものをご紹介します。

シャンプー

アトピーの治療で、シャンプーは非常に大事です。以下に解説する全ての薬と併用します。ベタベタと湿っている、カサカサと乾いているなどの症状に合わせてシャンプー剤や保湿剤を選択し、可能なら週に2~3回行います。詳しくはシャンプーの回をもう一度ご覧下さい。最終的にシャンプーだけでアトピーの管理が出来れば理想的です。

減感作療法

皮内反応試験を行った場合は、減感作療法を行うことが可能です。薄い抗原から徐々に濃い抗原を注射し抗原に体を慣らしていく治療です。しかし、問題となる抗原が1つでない場合も多く、時間や費用の面から最近では行われる頻度が減っています。きちんと行うことが出来れば非常に良い治療法です。

インターフェロンγ

最近流行りの治療法です。抗原が体内に侵入すると、ランゲルハンス細胞(見張り役の細胞です)が異常を感知し抗原を取り込み、ヘルパーT細胞(免疫応答の根幹の細胞です)に提示します。ヘルパーT細胞にはTh1とTh2があり、通常は主にTh1が司令塔となり免疫グロブリンG(IgG抗体)を産生します。これが正常な免疫反応です。しかし、アトピーの場合はTh2が主な司令塔となってしまい免疫グロブリンE(IgE)を産生してしまいます。これは悪い免疫反応でトラブルを起こします。IgEが肥満細胞や好酸球を活性化させ皮膚に痒みが生じます。つまり、正常な場合はTh1>Th2でアトピーのときはTh1<Th2となってしまっているということになります。

インターフェロンγはTh1<Th2の状態をTh1>Th2の状態に戻すことによりアトピーを治療します。実際には、インタードッグという注射を週に2~3回、4週間程度継続し、その後、だんだんと回数を減らしていきます。3ヶ月以内に約70%の症例で効果が認められ大きな副作用はありません。問題点は導入期のコストが高いことですが、うまく行くと1~2ヶ月に1回の注射でよくなります。とくに5歳以下の若い動物で効果が上がりやすいといわれています。


No.23 アトピー1

アトピーとは簡単に言うと、環境中の抗原(免疫反応を起こさせる物質の総称、食物、花粉、ハウスダスト、ハウスダストマイト、カビ、昆虫など)に対する、不適当な、あるいは過剰な免疫反応のことです。

全ての犬うち約10%がアトピーに羅患しているといわれています。猫にはきちんとした統計はありませんが犬よりは少ないようです。初発年齢は犬で6ヶ月~7歳ということになっていますが多くの場合は1~3歳です。猫でも若いときに発症する場合が多いようです。80%は夏に始まり、多くの場合、だんだんと季節に関係なく痒みが出て来てしまうようになります。

遺伝性疾患と考えられていて、寄生虫(ダニ、ノミ)、ウィルス、細菌(ブドウ球菌)、カビ(マラセチア)などの感染で悪化します。好発犬種は、ウエスト・ハイランドホワイトテリアを筆頭とする各種テリア、M.ダックスフント、ラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリーバー、シーズー、柴犬、T・プードル(とくにアプリコット)、ポメラニアン、シャーペイです。なんか、日本で多く飼われているほとんどの犬種ですね。猫では好発種は認められていませんが、気管支喘息を伴う場合がよくみられます。皮膚病変はなく症状は咳だけという場合もよくあります。犬では咳を伴うことはまれです。

症状は、紅班(皮膚が赤くなること)と強い痒みが、顔面、四肢端、肘、腹部、脇、股、外耳、眼の周りなどに出ます。慢性化すると、皮膚は苔癬化(硬くなってくること)し、黒く色素沈着してきます。

診断は、病歴と臨床症状が主となります。臨床検査は、まずは、皮膚を軽く引っ掻いたり毛を抜いて、細胞と毛や毛根の状態、フケなどを顕微鏡で観察し、疥癬、真菌(とくにマラセチア)、接触性皮膚炎、細菌性毛包炎、ビヘイビア(精神的要因)などの痒みが強い疾患との鑑別をします。次に、症状によってですが、甲状腺、副腎、精巣、卵巣などの各種ホルモンの異常がないかを調べます。その後、食事に対するアレルギーを除外(除去食試験)し、必要ならば皮内反応試験(抗原を皮膚(皮内)に少量ずつ注射し、皮膚の反応を診る検査)を行います。

臨床症状からの犬のアトピーの診断基準です。

1.発症年齢が3歳以下

2.室内飼い

3.ステロイド剤に反応する痒み

4.慢性・再発性のマラセチア感染症

5.前肢に皮疹あり

6.耳介に皮疹あり

7.耳介辺縁には皮疹なし

8.背中側には皮疹なし

上記のうち5~6項目が当てはまる場合、アトピーを強く疑います。

治療はシャンプー、食事、外用剤、内服剤の組み合わせとなります。次回から詳しくご説明します。