No.92 腫瘍1 (Tumor)

そもそも腫瘍とはなんでしょうか?腫瘍の定義は『生体を構成している生理的な組織細胞が、種々の原因によって本来の生物学的特徴あるいは性格を変えて、非可逆的にして自律的な過剰な増殖を示すようになった状態』です。難しいですね、簡単に言えば『細胞が正常な機能を失い、異常に増殖して塊になった状態』が腫瘍です。そして腫瘍には、良性腫瘍と悪性腫瘍があります。

それでは、良性腫瘍と悪性腫瘍の違いは何でしょうか?例外はありますが、こちらも簡単に言えば『その場所のみで大きくなるのが良性腫瘍、大きくなるだけでなく違う場所に遠隔転移するのが悪性腫瘍』です。また、一般的に悪性腫瘍の方が組織の破壊性も強いです。

「転移」のほかにも「浸潤」という言葉を聞かれたことがあるかもしれません。これも簡単にいえば、原発巣から連続的に広がっていくのが浸潤、原発巣から非連続的に遠隔臓器に広がっていくのが転移です。転移でも、最初に血管やリンパ管へたどり着くまでの段階では浸潤の過程が必要です。

転移の主なメカニズムは以下の3つです。
血行性転移:血管の中にがん細胞が入り、遠隔臓器に転移を起こします。

リンパ節転移:原発腫瘍の近くのリンパ管にがん細胞が入り、その近くのリンパ節にがん細胞が入って増殖した状態がリンパ節転移で、その後、リンパ管から全身へ転移が広がります。

播種性転移:「播種」という言葉の通り、種が播かれるようにがんが転移することです。例としては、腸にできたがんはいずれ腸の壁を突き破って、腹膜に顔を出し、そこから腹腔内にばらまかれます。浸潤と似た状態です。

よく「良性腫瘍が悪性腫瘍に変わってしまうことはありますか?」という質問を受けます。答えは残念ながらYESです。例を挙げると、ヒトの直腸良性ポリープはのちに直腸癌に変化することが証明されています。このような変化を多段階発がんと呼びます。動物でも同様のことを経験していますので、必ずしも良性腫瘍だから放置してよいということはありません。

次回に続きます。


No.91 小鳥の基本

犬や猫同様に小鳥もヒトによくなついてくれます。日本で主に飼われている小鳥の特徴と飼い方の基本をご紹介します。

・セキセイインコ:体重30~50g、体長約20cm、寿命8~12年

・オカメインコ:体重80~110g、体長約30cm、寿命13~18年

・コザクラインコ:体重45~55g、体長約15cm、寿命10~13年

・ブンチョウ:体重23~28g、体長約15cm、寿命8~10年

・サザナミインコ:体重45~55g、体長約16cm、寿命10~13年

・ヨウム:体重440~560g、体長約33cm、寿命約50年

保定:小鳥を保定するときは人差し指と中指を頸の側面に沿わせ、残りの3本の指も軽く身体に沿わせ手のひら全体で包み込むようにします。呼吸ができなくなってしまうので胸部を抑えてはいけません。

環境:当然ながらケージはなるべく広いものがよいです。止まり木は自然木の方がよく、握った時にちょうど爪と爪が少し触れるぐらいの太さがお勧めです。そして小鳥の飼育で一番大切なのは温度です。小鳥の飼育には温かい環境が絶対に必要です。健康な小鳥でも最低気温が20℃を下回らないようにしてあげてください。とくにこれからの冬期の夜間はペットヒーターや毛布をケージにかけるだけでは不十分です。必ずエアコンを使用してください。病鳥の場合は28~32℃が必要な場合もあります。

食事:小鳥の主食はシード食(皮付き餌)で、あわ、きび、ひえ、カナリアシードなどの穀物を混合したものです。しかし、これだけでは小鳥に必須なビタミンやミネラル、タンパク質、カルシウム、ヨードなどが不足します。副食として小松菜やチンゲン菜などの野菜、複合ビタミン剤、ボレー粉、イカの甲などのカルシウムとなるものを与えます。また、徐々、犬でいうドッグフードと同じ役割の小鳥の総合栄養食ペレットが発売されています。今後はペレットが主流になっていくでしょう。

本当に簡単にですが、小鳥の基本を解説しました。とにかく今の寒い時期は、小鳥に限らずどんな動物も環境温度に注意してあげてください。


No.90 犬の寿命

イギリス・王立獣医大学のD.Church教授がイギリス全土の獣医師に呼びかけて、10万頭以上のデータを集めて犬の平均存命期間を調査しました。

その結果、イギリスの犬の平均存命期間は12歳でした。その中で注目すべき結果として、純血種が11.9歳に対して雑種犬が13.1歳でした。また、小型犬の方が大型犬より長生きの傾向があったそうです。雑種犬、小型犬のほうが長生きという結果は予想通りですね。

長命犬種のトップ5は、ミニュチュア・プードル14.2歳、ビアデッド・コリー13.7歳、ボーダー・コリー、ミニュチュア・ダックスフント、ウェスト・ハイランド・ホワイト・テリアの3犬種が13.5歳だったそうです。また、残念なことに、短命犬種は、ボルドー・マスティフ5.5歳、グレート・デーン6歳、マスティフ7.1歳、ロットワイラー8歳、ブルドッグ8.4歳でした。

この結果には、安楽死も含まれていますし(欧米は日本より安楽死の選択が多いです)、流行っている犬種、大型犬の割合や住居環境も日本とイギリスでは違うので、そのままわが国の実情とは考えるのは早計だと思いますが、個人的な感想は、日本の犬の方がもう少し長生きしていると思います。日本でもこのような大がかりな調査が行われるとおもしろいですね。


No.89 癲癇、てんかん(Epilepsy)

癲癇は大脳の病気です。発作的に繰り返し、自律的に大脳が異常に興奮する状態です。

癲癇は脳内に疾患があることがわかっている器質性癲癇(脳炎、脳腫瘍、脳梗塞、外傷など)と、原因がわからない原因不明癲癇(特発性癲癇)に分類されます。今回は主に特発性の癲癇の話です(以下、癲癇と記述します)。

癲癇の特徴は、

・大脳の機能的異常

・発作時以外は正常

・発症は6ヶ月~5歳くらいまで

・MRI、脳脊髄液は正常

です。

治療は投薬治療になりますが、抗癲癇薬として多くの薬剤が作られています。しかし、前回の痙攣の項でも書いたように理想薬は存在しません。多くの場合、まずはフェノバルビタールという薬を投与します。使いやすい薬ではありますが、以下の副作用に注意しなければなりません。

・鎮静、不全麻痺

・多飲、多尿、多食

・肝毒性

・遅延型アレルギー(骨髄抑制)

・甲状腺機能低下

骨髄抑制の確認のため投与開始後数週間での血液検査、肝毒性の確認のための数ヶ月に1度の肝機能検査は、この薬では必須です。また、フェノバルビタールに限らず、抗癲癇薬は1度始めたら一生涯飲み続けなければならないことが多いです。

1種類の薬剤で癲癇が予防できるのが望ましいのはいうまでもありませんんが、複数の薬剤を使用してもコントロールが困難な癲癇を難治性の癲癇といいます。残念ながら、約30%の癲癇が難治性です。

また、5分異常の痙攣、意識が回復しないままの連続した痙攣を癲癇重積といいます。癲癇重積を放っておくと、全身への悪影響が出現します。まずは、交感神経系の興奮が顕著となり、高血圧、高血糖、不整脈、頻脈などが起こります。次に、交感神経系の亢進が30分程度で終わると、低血圧、各自動調節能の破たん、大脳の虚血・浮腫などが起こり、大脳へ不可逆的なダメージを与えます。最終的に呼吸不全や高体温、アシドーシス、腎不全などが起こり、死亡します。癲癇重積には緊急治療が必要です。


No.88 痙攣(Seizure)

痙攣のことをもう少し深く考えてみましょう。痙攣の定義は『大脳皮質内における神経細胞の異常かつ集合的な活動』とされています。神経伝達の興奮が抑制を上回った状態です。全ての大脳疾患で痙攣が起こる可能性があります。脳波に異常をきたすことが多いですが、動物での脳波の測定は困難です。また、MRIも多くの情報を与えてくれる検査法ですが、全身麻酔と費用の問題があります。やはり、大事なのは臨床症状です。

原因としては、

・反応性(頭蓋腔外に原因):毒物、代謝性疾患

・器質性(頭蓋腔内の疾患):脳腫瘍、脳炎、外傷、脳梗塞など

・原因不明:特発性(遺伝など)

があります。

症状は全身性のものと局所性のものに大別されます。全身性痙攣は大脳皮質全体におよび、間代性強直性発作が起こります。

間代性強直性痙攣:

前兆;不安感などから異常行動がみられることがあります。

痙攣発作;意識消失、四肢頭頸部の硬直、自律神経症状(頻脈、血圧上昇、瞳孔散大、失禁、失便、流涎など)、通常2分以内。

発作後異常;意識レベルの異常(数時間~数日)、盲目、ふらつき、落ち着きがない、過剰な食欲、攻撃的になる。

局所性発作:顔面、前肢などの片側から始まり、全身性に移行する。猫で多い。

診断は大脳以外の原因を除外することから始めます。症状、ヒストリー(痙攣時の動画があるとベストです)、身体検査、血液検査、各種画像診断、神経学的検査などで、同じ様な症状を示す、低血糖(インスリノーマなど)、低Ca血症、毒物接種などを否定します。

治療は原因により様々ですが、約2000年も前からある症状に対して、いまだに理想薬は存在しません。当然ながら、その動物にカスタマイズした治療が必要です。


No.87 失神と痙攣

失神と痙攣は、似たような症状を示すこともあってよく混同されがちですが、全く違うものです。両者の特徴を考えてみましょう。

まず、失神ですが、簡単にいえば、短い時間(数十秒の間)、血圧が低下して心臓から脳に送る血液量が少なくなり、脳全体が酸素不足になって意識を失う発作です(ちなみに発作とは病気の症状が突発的に起こることをいいます)。

・瞬間的な意識消失

・姿勢維持筋緊張喪失(失禁・失便はまれ)

・発作後の意識はほぼ正常

・前兆がある

これらを特徴として、通常は数秒で終わります。主な原因は心臓性のもの(各種心疾患)のと神経性(興奮・ストレス)のものに大別されますが薬剤によって起こることもあります。

痙攣は、大脳皮質の1次的な神経細胞の異常と定義されます。

・強直性(不随意で急激な筋肉の収縮)→間代性(筋肉の収縮と弛緩が交互に反復する)

・自律神経症状:頻脈、血圧上昇、瞳孔散大、失禁、失便、流涎など

・意識消失(失神と同じ)

・前兆がないことが多い(発作との違い)

・発作後の異常あり(失神との違い):意識レベルの異常(数時間~数日)、盲目、ふらつき、落ち着きがない、過剰な食欲、攻撃的になる。

上記が特徴です。上から3つが痙攣の3大兆候です。犬の場合は症状が顔と前肢に顕著で、とくに流涎は大事な特徴です。また、夜間などの休息時に多く起こり、通常は2分以内に終わります。痙攣の原因は大脳です。

治療は原因を見定めて行うことになりますが、上述したように、まずは失神は心血管系、痙攣は大脳を精査することになります。

失神でも痙攣でも、通常はそんなに長く続くものではありません。起こってしまった場合は、頭をうたないようにするなど、動物の安全を確保して、基本的には触らないことです(その時に動画が撮影できれば、診断の大きな補助になります)。原因が特定されていない場合、症状が頻回な場合は早めにご連絡ください。


No.86 デング熱 (Dengue fever)

70年ぶりに国内でデング熱が発生し(海外への渡航者を除く)、ちょっとした騒ぎになっています。デング熱はデングウイルスが感染しておこる急性の熱性感染症で、ヒトでは発熱、頭痛、筋肉痛や皮膚の発疹などが主な症状です。

最近「動物にも感染しますか?」という質問をよく受けます。デング熱は人畜共通伝染病なので犬や猫などの動物にも感染します。日本ではヒトスジシマカが媒介能力のある蚊として全国に生息しています。ウイルスに感染した患者さんや動物を蚊が吸血すると、蚊の体内でウイルスが増殖し、その蚊が別のヒトや動物を吸血することでウイルスが感染します(蚊媒介性)。フィラリアと一緒ですね。ヒトからヒト、ヒトから動物、動物から動物などで直接感染するような病気ではありません。潜伏期間は3~14日といわれています。また、感染しても発症しないことも多くみられます(不顕性感染)。

動物の症状は報告があまりないのでよくわかりませんが、おそらくヒトと同じような熱性感染症の症状が出るものと思われます。

ウイルスが原因の疾患ですので、治療は対症療法となります。きちんとした治療が早期になされれば死んでしまうような病気ではないといわれています。また、今のところ有効なワクチンはありませんので、予防は蚊に刺されないこと、発生した場所に近づかないことです。

過度な心配はいらないと思いますが、蚊には注意したいですね。


No.85 涼しくしてあげてください

今年も暑い季節が始まりました。6月になってから来院されたほとんどの飼主さんに「涼しくしてあげて下さい」と言っています。当院での今年最初の熱中症の診断は5月31日でした。

ヒトよりも毛皮を着ていて汗腺も少ない動物のほうが厚さに弱いのは当然なのですが、中にはせっかく涼しい場所を飼主さんが用意しているのに、わざわざ暑いところにずっといて熱中症になってしまう犬や猫もいます。彼らにとっては、自分の好きな場所の方が暑いことよりも重要なようです。昔は「猫のいる場所が一番快適な場所」などと言われていましたが、そうばかりとは言えないようです。とくに高齢の動物は注意が必要です。犬も猫も去年よりもヒトの換算で言えば4~5歳年齢が増えています。去年は大丈夫だった環境に適応できない場合もあります。

また、湿度も重要なファクターになります。風通しがよいお家でも、湿度が上がっていれば熱中症になりやすくなります。皆様、もう一度、動物たちの環境を見直してみてください。以下の項も参照してください。

エンリッチメント熱中症、熱射病動物が快適な気温・湿度夏のトラブル


No.84 犬のおやつ

おやつを与えたときの犬の喜び様はヒトをとても幸せな気分にします。おやつを与える目的には、その他にも、しつけをやりやすくする。問題行動のトレーニングを助けるなどがあります。

現在では昔ながらのジャーキーから手作りケーキまで多くの種類のおやつがあり、ペット専用のパティストリーなんかもあります。値段もピンからキリで、数円の安いものから無添加・手作りをうたった誕生日ケーキのように何千円するようなものまで売っています。

このように魅力的なおやつですが、当然ながら食べ過ぎると肥満の原因となったり持病のある動物ではその病気を進行させたりする場合があります。では、理想的なおやつとはいったいどんなものなのでしょうか?

犬の年齢や持病や食物にアレルギーがあるかないか、嗜好、経済性、手作りをする時間をかけられるかどうか、おやつを与える目的などによっても理想のおやつは違いますが、市販のジャーキーなどよりは、脂のすくないお肉を湯がいて味をつけずに与えるのがお勧めです。カッテージチーズやお豆腐、おからなども良いおやつだと思います。これらも、素材の味だけで犬は大喜びします。

また、私が印象に残っているおやつがアメリカで見たピーナツバターです。もう10年以上も前の話になりますので今は事情が違っているかもしれませんが、ピーナツバターはアメリカの犬たちの人気No1のおやつでした。アメリカの子供たちもピーナツバターは大好きでパンに塗って食べるため、どの家庭の冷蔵庫にも必ずありました。大きな容器に入っていて値段も安く、多くの動物病院にもおいてありました(与えすぎると膵炎や肥満の問題がありますので量についての指導はきちんとされていました)。犬たちは大喜びでたいていの犬はピーナツバターの虜でした。他にはホットドッグに入れるソーセージ、チーズなども人気でした。

ピーナツバターのようなジャンクなおやつは日本の飼主さんにはびっくりだと思いますが(私もびっくりしました)、ポイントは量です。大型犬でも1回のご褒美は小指の爪の半分ほどの量でした。しかも、ここぞというときにしか与えないので健康を害する心配はありません。日本ではおやつの量も回数も多すぎる印象です。また、お散歩中の他の犬に与えるのも止めた方が良い習慣だと思います(断り辛いですが)。おやつはたくさんもらっても少しでも犬の嬉しさは変わりません。どうか、うまくおやつを使って犬とのコミュニケーションをとってください。


No.83 椎間板ヘルニア2 (Herniated disc)

椎間板ヘルニアの主な治療は、内科的治療と外科的治療(手術)ですが、統計上の回復率は、

グレード1:内科的治療95%、外科的治療95%

グレード2:内科的治療84%、外科的治療95%

グレード3:内科的治療70%、外科的治療95%

グレード4:内科的治療50%、外科的治療90%

グレード5:内科的治療7%、外科的治療50%(48時間以内に手術をした場合)

といわれています(論文によって異なります)。あくまで数字です。

内科的治療ではNSAID(非ステロイド性抗炎症薬)、エラスポール(好中球エラスターゼ阻害薬)などが使用されます(以前はステロイド剤が多用されてきましたが当院では使用しておりません)。その他、半導体レーザーやホメオパシー、鍼、音響療法なども副作用がなく効果的な場合があります。しかし、1番大切なのはケージレスト、安静です。安静が最も重要です。

グレード3以上は外科的治療の適応となります。簡単に言えば、歩けていないなら早急に手術をした方が良いです。胸腰椎の場合は片側椎弓切除術(Hemilaminectomy)を行います。頚部の場合は頚部腹側減圧術(Ventral slot)という手術です。また、予防として造窓術(Fenestration)を行うこともあります。手術後、すぐに歩ける場合もありますが、リハビリが必要な場合も多いです。根気よくリハビリを続けると、前述の回復率よりも確率が上がります。

また、今後、期待される治療には幹細胞移植などの再生医療があります。今のところ症例数が少ないことと高額なことがネックです。早く、簡単で安価な治療法が確立されると良いですね。

予防については、日々の生活の中で出来ることがいくつかあります。まずは、滑らせないこと。爪やパットの間の毛をこまめにお手入れして下さい。そして、お家の床がフローリングなら絨毯を敷いたり、滑り止めのワックスを使用してください。ソファージャンプも大きな原因の1つです。マットなどを上手く使って高さを減らしてみてください。ドッグランやボール投げ、フリスビーなどでは、体を十分に温めてから激しい運動に移ってください。肥満だから椎間板ヘルニアになりやすいというちゃんとしたデータはありませんが、やはり、リハビリなどでも肥満の犬は苦労します(手術も少し大変です)。太らせないことも大事です。