以前にも書きましたが、ご質問の多い認知症についた解説します。認知症は、正しくは認知機能不全症候群(Cognitive Dysfunction Syndrome:CDS)と言います。とくに犬のCDSはヒトの病態と類似します。主な症状には下記のようなものがあります。
10-18歳の犬72頭からの調査(2007年)
1. 排泄の失敗(25%)
2. よくほえるようになった(23%)
3. 家族とのコミュニケーションの変化(20%)
4. 命令に従わない(20%)
5. 家の中や庭で迷う(14%)
6. 睡眠周期の変化(8%)
7. 部屋の隅で動けなくなる(8%)
11-12歳の犬の約28%、15-18歳の犬の約68%、11-14歳の猫の30%、15歳以上の猫の50%が上記の中の1つ以上の兆候があると言われています。また、日本犬とヨークシャー・テリアに多いとされてきましたが、他の犬種でもみられます。単なる老いとCDVは違います。進行がゆっくりなため見過ごされている場合も多いです。
診断には次の4つの兆候を検討します。DISHAの徴候と呼ばれています。
・見当識障害 (Disorientation)
・相互反応変化 (Interaction Changes)
・睡眠あるいは行動の変化 (Sleep or Activity Changes)
・トイレトレーニングを忘れる (Housetraining is Forgotten)
・活動性の変化 (Activity changes)
CDSは完治させられるものではないので、治療は、進行を緩め、QOLの改善を目指します。症状が重く、夜泣きなどがどうしようもない状態になってからでは できることに限りがあります。早期の治療の開始が推奨されます。治療は主に以下の4つを組み合わせます。
1.環境修正:犬に優しい生活環境を作る
・行きやすいトイレ
・床を滑らないゆにする
・家具の移動をしない
・障害物や階段などでの事故が起こらないようにする
2.行動修正:ストレスの少ない環境と犬の心身の刺激
・叱らない
・適度な運動・トレーニング
・トイレに頻繁に連れていく
・知育トイ(コングなど)を与える
3.栄養的介入:
脳細胞は酸化による「攻撃」をうけている。 フリーラジカルの大部分は内因性(ミトコンドリアのエネルギー産生の際に発生)。脳はフリーラジカルの損傷を受けやすいとされている
・DHA/EPA や抗酸化物質の含有食が高齢犬のDISHAの症状の改善に好影響を与え る
4.薬物療法:早めに始めると効果が高いと言われています
・塩酸セレギリン(選択的MAO-B阻害剤)、塩酸ドネペジル(アルツハイマー型認知症治療剤)など
・抗不安薬、睡眠導入剤などによる対症療法
・代替医療:ホメオパシー、漢方、サプリメントなど
以前は犬の認知症はヒトのアルツハイマーとは違うといわれていましたが、近年の研究では、犬の認知症の病理はアルツハイマーと似ているという結果が出ています。いずれにしても、予防すること、早期発見と早期治療が一番大切です。
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