犬の消化管間質腫瘍はGIST(ジスト)ともいわれ、近年、犬でよく診断されるようになった胃や腸の悪性腫瘍の一種です。新たにGISTとして分類されるようになったものの中には、従来は平滑筋の腫瘍などに分類されていたものもあります。GISTは筋層に発生する腫瘍です。筋層の中の消化管運動のペースメーカーの役割をするカハール介在細胞という細胞が腫瘍化したものがGISTです。
GIST発生の詳しい仕組みは分かっていません。カハール介在細胞の表面には、KIT(キット)と呼ばれるたんぱく質があり、特定の物質の刺激で細胞に増殖するよう伝達をする、細胞増殖のスイッチのような働きを持っています。GISTの症例の一部では、KITを作るための遺伝子(c-kit遺伝子)に変異があることが分かっており、このことがGIST発生に関わっているのではと考えられています。
GISTの症状は、嘔吐、食欲不振、元気がない、体重減少などですが、腫瘍が大きくなるまで症状が現れにくく気付かれにくいといわれています。特に症状がなく、健康診断などでたまたま見つかる例も多いです。
診断には、症状、触診、血液検査、レントゲン検査、超音波検査、FNA検査、場合によってCT検査を行い、手術で摘出したものを組織検査をして確定診断をします。症状の緩和や全身の状態を改善するための治療も同時に行います。GISTは、肝臓、脾臓、腸間膜リンパ節などへの転移も報告されています。放置すると、腫瘍細胞により腸管がもろくなり穴が開いてしまって腹膜炎になることもあります。
治療の基本は外科的な摘出です。化学療法としては、腫瘍細胞の表面にある異常なKITの細胞増殖シグナルを抑える分子標的薬(チロシンキナーゼ阻害剤)を、補助的または手術が困難な症例で使用することがあります。化学療法を行う場合は投与前にc-kit遺伝子変異解析を行うことが推奨されます。再発や転移の可能性があるので、手術後も経過に注意する必要があります。
犬の胃のGIST
(手術時の写真が出ます。苦手な方はクリックしないで下さい)