No.290 皮弁 (Flap)

皮弁とは血流のある皮膚を別部位に移植し、皮膚を再形成する手術方法です。皮弁では、付着した栄養血管を通じて豊富な血流があるため、移植先の状態が多少不良でも創傷治癒が早く、強度と柔軟性を兼ね備え、移植部への適合性も良好です。また、折り畳んだり、巻いたりすることもできることから、色々な形態を形成できます。皮弁が必要になる症例は、大きすぎる腫瘍の切除や、事故・怪我で広範囲の皮膚の欠損が起きた場合です。特に、天然孔(目、耳、鼻、口、肛門、外陰部)の側や四肢、尾などの皮膚の余裕がない部位で必要になる場合が多いです。欠損部位をただ縫い合わせるには皮膚に余裕が無かったり、正常な四肢の動きを確保できなくなる場合に、別の場所から皮膚・皮下組織を移動させます。

皮弁の種類
・皮膚弁:皮膚・皮下組織のみを構成成分とした皮弁
・筋膜皮弁:皮膚・皮下組織の血流を確保するために深筋膜を含めた皮弁
・筋皮弁:皮膚・皮下組織の血流を確保するために筋肉を含めた皮弁

移動法による皮弁の分類
・有茎皮弁:切り離さない皮弁。移植組織の血流を保つために皮膚に皮下組織の茎をつけて移動します
・遊離皮弁:切り離した皮弁。マイクロサージャリー(→No274マイクロサージャリー)を応用して皮弁の栄養血管を移植部の動静脈(移植床血管)に吻合して移植する方法

栄養補給路として血管を温存させることで、皮膚は新しい場所で定着・治癒することができます。逆に、確実な血行が維持できなかった場合、壊死から術創破綻を起こすため注意が必要です。また、術前には正常だった部分の皮膚にメスをいれることになるため、飼い主様の想像以上の大きな傷口となる場合もあります。部位にもよりますが、傷口が大きいため一定期間の安静も必要です。下記の写真の様に結構大変な手術になります。天然孔の側や四肢、尾の腫瘤は小さいうちに、早目に対処した方が良いです。


皮弁を行った犬の前肢