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No.7 狂犬病予防注射

東日本全体がこんな状況の中ですが、今年も狂犬病予防注射のシーズンが始まりました。

狂犬病。犬を飼っている方ならば誰でも一度は聞いたことがある病名だと思います。しかし、実際に狂犬病に罹患した犬や人を見たことがある方はいらっしゃらないでしょう。それもそのはず、日本では過去50年以上、国内での感染例はありません(外国で犬に噛まれて帰国後に発症して亡くなった方はいらっしゃいます)。私も学生時代に授業中にビデオで見ただけです。

では、なぜ、忙しい区役所の方々まで動員して、税金を使ってまで大掛かりに予防注射を行うのでしょうか?大きな理由が2つあります。

1つは、狂犬病は発症すると治療法がなく致死率がほぼ100%なためです。人も例外ではありません。狂犬病と呼ばれていますが、げっ歯類以外のほとんどすべての定温動物に感受性があります(海外ではコウモリがよく問題になります)。原因は狂犬病ウィルスで、感染した動物の唾液中にウィルスがいるため噛まれることによって感染します。発症すると、風邪の様な症状と神経症状が出て音や光に敏感になる知覚過敏と神経麻痺や強い痛みが出ます(水を飲むことさえ困難になり恐水病とも呼ばれます)。最終的には全身が麻痺し昏睡状態になり死亡します。

2つ目は、日本では前述のように50年以上発生がありませんが、海外で危険性がないと考えられているのはニュージーランドのみであり、これだけ地球が狭くなった現在、コウモリなども感染することを考えると、船や飛行機から、いつでも日本に入って来るリスクがあるということです。インド、パキスタン、中国では、現在でも毎年数千人の死亡者が出ています。

統計学上、ウィルスが国内に侵入した場合でも、70%以上の犬が抗体を持っていると大流行にはならないそうです。健康状態に問題のないワンちゃんは狂犬病ワクチン接種をお願いします。

現在、日本で使用されているワクチンは、かなり安全なものですが、以下にあたるワンちゃんは接種時に特に注意が必要です。

・発熱、下痢、咳、重度の皮膚炎がある場合

・妊娠している可能性がある場合

・高齢犬

・病気の治療中の場合

・発作を起こしたことがある場合

・以前、ワクチン(狂犬病予防注射以外のものも含む)で副反応を呈したことがある

横浜市では4月中、集合注射を各会場で行っております。私も西区の会場には全て出場しますが、青空の下では万が一副反応が起こったときに十分な対応が取れない可能性があります。なるべく病院で接種することをお勧めいたします。


No.6 募金のお願いと被災地の状況

募金のお願いと被災地の状況

『動物のために使ってもらえる募金はないですか?』というご質問を、10人以上の方からいただきました。病院からも日本赤十字への募金をしましたが(仕方のないことですが)動物たちの元まではなかなか届かないそうです。そこで、横浜市獣医師会が窓口になって、なるべく、被災地の動物たちのために使っていただく募金をはじめます。人間が大変なのに動物にお金を使うなんて等。いろいろなご意見があると思いますが、とりあえず5月25日まで病院の受付に募金箱を設置します。よろしくお願いします。

ニューヨークタイムズ紙の論評で、日本は、地震、津波、放射線漏れ、の3重苦だとありました。実際は、その3つに加えて、火事、寒さ、飢餓、風評被害、なども加えなければならないでしょう。

宮城県遠田郡(仙台のそばです)で開業していて、しばらく連絡の取れなかった同級生からの昨日のメールの一部を下に転載します。本当に現地は大変ですね。

ライフラインも復帰し、ガソリンも満タンに入れたので、ほぼ、元の生活に戻りつつあります。

食料は相変わらず制限されていますが、患者さんから米、野菜、みそなどたくさんいただいたので、私の所は大丈夫です。

近隣の市町村はまだまだで、本当に悲惨な生活を強いられています。

石巻に住む叔母、叔父が家ごと流され、未だ行方不明です。

間違いなく死んでいると思います。

私の所は津波は受けませんでしたが、やはり地震の規模が大きかったため、町内でも古い家はだいぶ壊れています。

当初は首都近辺の知人から電話をいただき、私の所はたいした事ないなんて言ってましたが、復旧に従って色々とはっきりしてくるもので、祖母の家と、実家が半壊状態で、ともに道路に面しているため、早々に取り壊さなければならない状態です。

地震保険はある程度でますが、残りの分は私がまかなう事になるので、そう言った意味ではダメージが大きいです。

隣町の石巻市では動物病院の3分の2は被害を受けましたので、その分の患者がこちらまで来て、なかなか大変です。津波で全てなくしたという人たちも何人も来ますが、自分自身も生活していかなければなりませんから、通常の診療体系でやらなければならない部分は心が痛みます。

被害のひどかった、南三陸、女川、石巻、東松島、この辺りからもそれなりに患者が来ていたので、皆無事でいる事を祈っています。

被災地では非難の際に生き残った飼い犬、猫たちがうろうろしているらしく、そう言った動物を病院単位で保護することは可能かと保健所から連絡が来ましたが、自分の所を復旧させるのに手一杯なため、申し訳ないけど断っているのが現状です。

食べ物を持って、被災地を回ってみたい気持ちもありますが、動物よりも人という状態なため、地域によってはかなり殺気立っていて、ある意味危険な状態だと言います。

石巻市は治安も悪く、犬猫だけでなく、人もさまよっています。

ガソリンは抜かれ、死体のポケットから財布を抜き取るようなこともかなりあるようです。

世紀末と言うような感じですね。


No.5 放射線量

mSv(ミリシーベルト)、μSv(マイクロシーベルト),nGy(ナノグレイ)等の単位、原発事故のせいで最近よく耳にします。各専門機関のホームページなどに詳細が書かれていますが、なるべく簡単にご説明してみたいと思います。

まずは、Sv(シーベルト)という単位は、放射線によって人体に与えられたエネルギー量です。つまり『Svは人への影響の大きさを表す単位』です。

1Sv=1000mSv 1mSv=1000μSv です。

続いて、Gy(グレイ)です。放射線を浴びた空気が受け取ったエネルギー量です。

1Gy=1000mGy 1mGy=1000μGy 1μGy=1000nGy です。

それぞれ、/hが付くと、1時間あたりでという意味です。

原子力特別災害措置法では1Gy=1Svで計算しているようですね。

通常の生活でも、年間2400μSvぐらいの放射線は、自然界から浴びていると言われております。人の胸部レントゲン検査で60μSv、犬猫で40μSv、CT撮影は8mSv(8000μSv),飛行機で成田からニューヨーク間を飛ぶと100μSvぐらいだそうです。

一般的には、1回の被曝が100mSv(100000μSv)以下なら人体への影響はないと考えられています。

以上は1回の被曝に対しての話でした。しかし、気になるのは、事故を起こした原発の処理が長引いて放射線を連続して浴びた場合ですよね。

国際放射線防護委員会が勧告している被曝の上限値を線量限度といい、一般人に対しては1年間に1000μSv、職業人は5年間の平均が20000μSv/年を超えないこととされています。

では、自治体の計測している放射線量から単純に計算してみるとどうなるでしょうか?
神奈川県安全防災局の出している数字は(去年の同時期の倍ぐらいの値です…)3月18日の値で50~70nGy/h(0.05~0.07μSv/h)です。多目に見積もり0.1μSv/hとして、365日24時間、ずっと屋外にいて、放射線を浴び続けたとして計算してみます(ありえない状況ですが)

0.1μSv×365×24=876μSv

となり、1000μSv以下です。線量限度を超えません。

つまり、学説が正しく、各測定値が正しく、これ以上被害が大きくならなければ、神奈川県ではとりあえず安心だと言えます。

横浜市民の方ならば慌てて遠方へ避難する状況ではないと思います。被災地の方々に物資が届くように、不必要な分までの食料やガソリンの購入は止めましょう。

参考にして下さい

原子力・エネルギー教育支援情報提供サイト『あとみん』から引用

注:一部の携帯電話では画像を見ることが出来なかったり、文字が小さくて読めない場合がございます。詳しい図表をご覧になる場合には、パソコンから「あとみん」(http://www.atomin.go.jp/)の図表→日常生活と放射線をご覧ください。


No.4 大地震

大地震

 このたびの東北地方太平洋沖地震に被災された方々と動物たちのご無事と、被災地の一刻も早い復興をお祈りします。

まだまだ、災害の全体像が見えない状況です。想像をはるかに超える被害であります。発表される各数字が大きすぎて現実感がありません。本当に大変なことになりました。便利な生活はリスクの上になりたっていたと痛感させられます。

余震もまだ感じられますし、原発の損傷による被爆に関しては、被害が広範囲に及ぶ可能性があります。しかし、まずは、被災地の人々と動物たちが、1人でも1匹でも多く救助されることを祈っております。私の友人にも、いまだに連絡の取れないものがおります。無事を祈っております。

大地震から5日経った3月16日現在、横浜市はライフラインの破綻もなく西区においては今のところ計画停電のグループにも入っていません。とてもありがたいことですが少し複雑な気持ちです。節電しながら診療を行っております。薬品や処方食に若干の欠品がありますが贅沢は言っていられません。

市内でも、コンビニやスーパーでの食料の欠品やガソリンスタンドでの行列が見られました。余震や被爆の問題を含め横浜でも緊張した状況は続くと思われますが、物流が破綻しているわけではないので、落ち着いて本当に必要な分だけを購入することも節電と同じくらい大事なことだと思います。不安な気持ちはみんな一緒です。私も本当に不安です。

今のところ、募金や節電をして心配するぐらいしか出来ないのがもどかしいところですが、被災地の方々や動物たちに心で熱く思いを寄せ、これからの状況に対して、頭で冷静に判断し理性的な行動をとることが必要だと考えます。


No.3 飲水量とPUPD

1日あたりの正常な飲水量は体重1kgあたり,犬や猫で40cc~60cc、ウサギ50cc~150cc,フェレット70cc~100ccといわれております。

一般的に飲水量が増えて尿が多くなる状態を、多飲多尿:PUPD(Polyuria Polydipsia 英語だと多尿多飲ですが)と呼びます。

犬や猫の場合、100ccを超えたあたりでPUPDと判断します(60~100ccはグレーゾーンです)。PUPDの主な原因としては、腎障害、肝障害、糖尿病、子宮蓄膿症、甲状腺疾患、副腎疾患、薬剤(ステロイド等)などが挙げられます。

ウサギは、口腔内やお腹の痛みがあると飲水量が増えるようです。

フェレットは、喉が渇くと食欲が落ちる傾向があります。

いずれにしても、大きな病気のサインであることがよくあるので、日頃のチェックは大切です。飲水量や尿量が増えたなと感じたら、早めに病院へご相談下さい。

また、よく『ミネラルウォーターを飲ませてはいけないんですか?』という質問を受けます。たしかに、ミネラルウォーターは結石を作るので与えないこと。と書いてある本がたくさんあります。個人的な意見ですが、硬度の低い軟水や中軟水なら構わないと思います。どうしても心配な方は湯冷ましをあげるとかも良いと思います。ちなみに一般的に売られている、六甲のおいしい水、南アルプスの天然水、ボルビック、クリスタルカイザーは軟水、エビアンは中硬水、コントレックスは硬水です。当院の入口においてあるアクアクララも軟水です。安心してワンちゃん、ねこちゃんに飲ませてあげて下さい。


No.2 診断を付けるということ

診断を付けるということ

飼い主さんのお話、全身チェック、必要な各種検査、経過観察などを通じて診断を付け病気を快方に持って行くのは獣医師の仕事の1つです。

獣医学が進歩し、一昔前はわからなかった病気が診断できるようになり、そのうちの何割かは治癒することができるようになりました。前とは違う診断名が付けられた病気もあります。

しかし、様々な検査が可能になったことは喜ばしいことですが、技術習得が大変な検査、麻酔が必要な検査、費用が高額な検査などが多くなり、獣医師、動物、飼い主さんの負担は増加しております。

もちろん、病気が1つではない場合(とはいえ、リンクしている場合は多いですが)は検査の解釈も複雑になります。

経過観察を行ったり、薬を投与して反応を診て診断が付く場合もあります。開腹手術をしてやっと診断が付く場合もあります。

実際の診療の場面では、確定診断が付かないままという場合の方が多くあります。症状にあわせた対症療法で良くなり(薬はあくまでも手助けで、自己治癒能力によって良くなっているのですが)診断名は獣医師にもはっきりわからないことはたくさんあります。ちなみに、胃腸炎とか皮膚炎とか風邪などは本当の意味での診断名とは言えません。

診断名というのは人間が決めたものです。獣医科大学は人間が決めた病気の名前を付けられるようになるという勉強を6年間します。医学部でもそうだと思います。2011年現在、人類は生命や病気を何パーセントぐらい理解しているのでしょうか?

正しい診断を付ける。基本的なことですが難しいことです。


No1.ウェスト動物病院メールマガジンをご利用いただきありがとうございます。

ウェスト動物病院メールマガジンをご利用いただきありがとうございます。
第10回目の飼い主様向けセミナーへのご参加ありがとうございました。

亘先生の『高齢動物の病気』参考になりましたでしょうか?

私も小さい時から、甲斐犬10歳、柴犬18歳、日本猫19歳、シャム猫の雑種18歳の最後を看て来ました。私が生まれるより早くからうちにいた甲斐犬はフィラリア症で亡くなりました。まだ予防薬がない時代でした。小学校から病院を開院する前年まで生きていた柴犬の晩年は痴呆症でした。大学生の頃から一緒にいた猫は2頭とも慢性腎不全でした。

僧帽弁逸脱症、痴呆症、腫瘍、慢性腎不全、甲状腺機能亢進症、どれも、進行してしまうと対応が大変な病気です。ワクチンやフィラリアの予防薬、良質の食事、飼育環境の向上、ブリーディングの見直しなどにより、動物が長生き出来る時代だからこそ多くなってきた疾患です。何かいつもと違うな、という飼い主さんの感覚は疾患の早期発見に非常に有効です。高齢疾患に限らず予防と早期発見を。

当院には犬や猫の患者さんだけではなく、ウサギやフェレット、小鳥や亀、猿なども来院されるし、若い犬動物も高齢の動物もいらっしゃるし、もちろん病気も様々…
当然、興味があるところがみなさん違うんですよね。予防、行動、マッサージ、内科、外科、腫瘍、心臓、眼、皮膚、高齢疾患、毎年演題を決定するのに迷います。

演題が決まると、その道のスペシャリストの先生にお願いするのですが、皆、本当に快く引き受けて下さいます。ただ、この3~4年『ウェストの患者さんは勉強しているレベルが高い』という話がスペシャリストの先生方の中で囁かれ、亘先生も『獣医さんの前で話をするより緊張するよ』と言っておられました。

来年、第11回も開催出来ますように。
皆様、よろしくお願いします。

うちの高齢犬ルパン君(15歳)