冬になると「ノロウイルスはヒトから動物にもうつりますか?」という質問をよく受けます(動物からヒト、ではないところが素晴らしいと思います)。ノロウイルス感染症は、ヒトノロウイルスがヒトの小腸で増殖して引き起こされる急性胃腸炎で症状は下痢や嘔吐ですが非常につらいです。特に冬の時期に猛威をふるいます。
一昔前までは食中毒といえば食品の傷みやすい夏のものでした。しかし、ヒトノロウイルスの場合は傷んでいない食品を食べて下痢や嘔吐を起こすという昔の常識と違う形の食中毒です。
ヒトノロウイルスは患者さんの便の中にいてトイレから下水処理場へ行きます。日本の下水処理場の施設・能力は世界的に見てもとても優秀ですが、今はまだヒトノロウイルスを取り除くことができません。取り除かれないヒトノロウイルスは淡水・海水でも生きられるので下水処理場から川・海へ流され二枚貝の体内に侵入します。二枚貝に対してヒトノロウイルスは悪さをしないので感染した二枚貝は見た目は健康で新鮮なまま我々の食卓に並びます。つまり、ヒトノロウイルスを防ぐには冬に二枚貝を食べないか火を通したものだけを食べるしかありません。
ヒトノロウイルスは現在のところ培養細胞での増殖や実験動物への感染が成功しておらず、ヒトが唯一の感受性動物と考えられています。つまり、ヒトの流行があっても犬や猫に伝播して流行を引き起こすことはありません。また、同時にヒトから犬や猫、ウサギ、ハムスター、フェレット、小鳥にもうつらないと言えます。なお、これまでにウシのノロウイルス、ブタのノロウイルスが報告されています。しかし、これらの動物ノロウイルスがヒトに感染するという報告はなく、今のところヒトに感染し、流行を起こすのはヒトノロウイルスだけと考えられています。冬に牡蠣、はまぐり、ホタテ、あさり、シジミなどの二枚貝を食べるときは煮たり焼いたりしたものにしましょう。