視覚信号の特徴
近距離・中距離でのコミュニケーションにおいて視覚信号は効果的です。また、相手の反応を見ながら瞬時に信号を切り替えることができる点も有利です。また一般に、犬と犬といった同種のコミュニケーションはもとより、犬とヒトといった異種間コミュニケーションにおいても重要な伝達様式です。オオカミの群れでは、仲間同士のコミュニケーションの大部分は、姿勢や表情の変化による視覚信号によって行われているといわれています。
集団内における威嚇・服従行動
オオカミの群れでは安定した社会的順列(Social hierarchy)、順位(Rank)が形成され、食事、休息場所、繁殖相手なの限られた資源への優先権や支配する権利が優位な個体に与えられます。順列は優位な個体が示す威嚇行動(Threatening behavior)によって確立維持されますが、これらの行動には信号の送り手の攻撃性に対する意思やその強さが含まれています。
優位行動と服従行動
犬やオオカミでみられる優位行動(Dominant behavior)には、相手の鼻先(マズル)をしっかりとくわえこむ、頭と首を押さえつける、マウントする、首や肩あるいは背中に顎を乗せるなどがありますが、こうした行動は儀式化(Ritualization)されていて、通常は相手に怪我を負わせるようなことはありません。
また、自分が相手より劣位であることを伝えたり、目の前で示された攻撃性を軽減するために、劣位の犬は歯を隠したり、首や腹部などの急所をさらす姿勢をとるなどの一連の服従行動(Submissive behavior)をして相手をなだめようとします。劣位の個体は臀部を低くし、背中を弓なりにして低い姿勢で相手に近づくか相手の接近を待ちます。尾は低い位置で振られ、鼻先を上げながら頭と首を低く保ち、耳は後ろに倒し視線は合わせません。
また、劣位の個体は、舌を突き出して相手を舐めようとすることがあります。これは、食物の吐き戻しをねだって母犬に近づく仔犬の動作から派生した、儀式化された服従行動だと考えられています。
その他の視覚を介する特徴
犬の片脚挙上排尿(Raised-leg urination)は、一般的には雄でみられ、性別や序列を示す視覚信号としての意味があります。オオカミの観察では、優位な雄が劣位に比べて頻繁に脚を上げます。また、遊びを誘うおじぎ(Play bow)は、唸り声や正面からの接近が攻撃ではないことを相手に伝える意味があります。遊びたい犬は、臀部を高く上げ姿勢を低くし、前肢を伸ばしたり上下させたりして、尾を大きく振ります。相手の前後を素早く大げさに動き、静止した状態から急に動いたりします。
猫の視覚を介するコミュニケーション行動
猫においても、恐怖や不安や攻撃性の程度が様々に混ざり合って、その時の気分をあらわすように、耳や尾の位置、姿勢、表情などからコミュニケーション信号が作られます。ただし、本来が単独生活者の祖先を持つ猫にとって、社会集団のなかで調和を保つのがとくに重要ではないため、犬のような社交的な動物とは多少異なります。
他の猫に対して能動的に接近するときには尾は垂直に立てられます。親しい相手や仔猫が母猫に近づくときは尾の立て方は一層顕著になります。この尾を立てる姿勢は、もともと母猫が仔猫の肛門陰部を舐めるときの反応に由来しているのではないかと考えられています。また、猫が遊びたいときは横たわって腹部を見せます。
攻撃的な威嚇は、直接的なアイコンタクト、前に向いたヒゲ、まっすぐ相手に向かう姿勢など、攻撃をしかけようという意思があらわれていて、後肢と背中をまっすぐに伸ばして身体を斜めにして、立毛は胸から始まり尾へと広がり、尾は付け根から後方に少し伸ばして急に下向きに曲がります。尾の先端をぎこちなく前後に動かしているときは、興奮、動揺の証拠です。
一方、防御的な威嚇の場合は、相手にまっすぐには向かわず、自分の体をより大きく見せるために、毛を逆立てながら背を丸めて横を向きます。耳は後ろに倒して頭に貼り付け、口角を後ろに引いて歯をむき出し、ヒゲは頭の横に引きつけて鼻にしわを寄せます。
次回は聴覚信号の話です。