プレーリードッグの切歯は歯根部で新しい歯を作ることで、生涯にわたって伸び続ける常生歯です。伸び続けてきた歯は正常であれば、上下の切歯が適切に磨り減り正常な咬み合わせを維持しています。しかし、切歯が曲がる、折れる、歯根に過度の刺激が加わるなどの原因により切歯が歯肉から正常に出て来れなくなることがあります。この様な切歯でも歯根部での成長は持続し、歯根部に硬い瘤を形成します。この瘤が鼻からの空気の通り道である気道を塞ぎ、鼻炎や呼吸困難などの症状がみられるようになります。これがプレーリードッグの歯牙腫(オドントーマ)です。正確にはヒト、犬猫などの歯牙腫とは病態が異なるため仮性歯牙腫とも呼ばれています。
初期症状は鼻水やくしゃみなどの鼻炎症状です。進行するにつれてヒュウヒュウと呼吸音が聞こえる、食欲不振、体重減少などがみられるようになります。プレーリードッグは呼吸のほとんどを鼻で行っています。このため歯牙腫が鼻腔を塞ぐことにより開口呼吸や呼吸困難などの呼吸器症状がみられるようになってきます。また口で呼吸をすることで空気を飲み込みお腹の中にガスが貯まってきます。
歯牙腫はレントゲン検査やCT検査で切歯の不正や折損の確認、歯根部の瘤の確認により診断します。また腹部のレントゲン検査で開口呼吸により消化管内に貯まっているガスを確認し、胸部レントゲン検査で肺炎などの呼吸器系の病気を除外することも重要です。
内科的治療法は、抗生剤や抗炎症剤の投与、ネブライジングなどを行います。しかし内科的治療は鼻炎の治療や全身状態、食欲、呼吸状態などの改善を目的にしていて、根本から治療するものではありません。
外科的治療法には問題となっている切歯を抜く方法と、鼻の上部に穴を開け別の気道を確保する方法があります。切歯を抜く方法は、歯根部まで完全に摘出できれば完治が期待できます。しかし、切歯が途中で折れていたり、歯根部の瘤が大きい場合には切歯の摘出が非常に困難になります。また、切歯を抜いている途中に折れてしまい、歯根部を完全に摘出できないこともあります。当院では、切歯の横からのアプローチの手術をおすすめしています。鼻の上部に穴を開け別の気道を確保する方法は鼻の骨にドリルで穴を開け、こぶの位置よりも奥の鼻腔に繋げ気道を確保します。しかし、鼻腔が狭まってしまっている場合には十分な気道の確保がむずかしいこともあります。また、一度あけた穴は自然に閉じてくるために術後は穴の管理も必要になります。全身麻酔の問題もあって治療が難しい病気の1つです。
歯牙腫は飼育下のプレーリードッグに多く見られる病気です。歯牙腫は切歯が折れてしまったり歯根に過度の刺激が加わることで発症すると言われています。このことから高いところからの落下に注意する、ケージの金網をかじれないように内張りするなど、飼育環境を工夫することにより発症を未然に防ぐようにすることがなにより大切です。
歯牙腫(オドントーマ)