No.508 鼠径ヘルニア

ヘルニアは、臓器や組織など体の中の一部が、本来あるべき場所から出てきてしまった状態のことをいいます。鼠径とは太腿の付け根にある溝の内側部分のことです。解剖学的には、恥骨の左右の外側、股関節の前方部分にあたります。鼠径ヘルニアは、鼠径部の体壁に穴が開き、脂肪や腸管、膀胱などの腹腔内容物が皮膚の下に脱出した状態をいいます。

先天性と後天性があり、片側だけの場合と両側で発症している場合があります。穴が大きくなると腸や膀胱などの臓器が脱出してしまいます。ヘルニアの内容物が自由に動き、押すと元の位置に戻る状態を還納性ヘルニア、内容物が穴の部分で締め付けられて元の位置に戻れなくなった状態を嵌頓(かんとん)ヘルニアといいます。還納性ヘルニアを放置すると嵌頓ヘルニアになる場合があります。

どの犬種、年齢でも起こる可能性があります。かかりやすい犬種はペキニーズ、ゴールデン・レトリーバー、コッカー・スパニエル、ダックスフンド、バセンジーなどです。

先天性:生まれつき穴が開いている状態です。原因は不明ですが、雄に多く、ペキニーズ、ゴールデン・レトリーバー、コッカー・スパニエル、ダックスフンド、バセンジーなどが起きやすいといわれていますが、どの犬種でも起こります。潜在精巣(精巣が陰嚢に下降せずにおなかの中にある状態)の場合なりやすいという報告があることから、遺伝が関与していると考えられています。

後天性:中年齢の雌で多く見られます。交通事故などで体壁が破損したことで起こる外傷性と、高齢によって体壁が弱くなることで起こる非外傷性があります。妊娠やしぶり、肥満はおなかの中の圧を増加させるためヘルニアにつながりやすいです。後天性のヘルニアの場合も、鼠径部に生まれつき異常があるのではないかと考えられています。

脂肪が出ているだけなら無症状ですが、腸が脱出すると元気消失、食欲不振、嘔吐、下腹部痛などが、膀胱が脱出すると排尿困難やそれに伴う食欲不振、嘔吐などがみられます。何らかの理由で子宮が膨れている場合は子宮が飛び出すこともあります。

子犬の場合は成長に伴って自然に穴がふさがることがありますが、治療の基本は外科手術です。とくに、高齢犬や脂肪以外の腹腔内臓器が出ているようなら早期の治療が必要です。


鼠径ヘルニア