No.504 可愛いものを見ると

可愛いにきちんとした定義はありませんが、子犬や子猫を見ると多くのヒトは可愛いと感じます。広島大学大学院総合科学研究科の入戸野宏准教授らの研究グループは、幼い動物の可愛い写真をみた後には、注意を必要とする作業の成績がよくなることを実験によって示しました。

大学生132名を対象として実験を行い、幼い動物(子犬や子猫)の写真7枚を好きな順番に並び換えるという作業を90秒行ってもらった後では、手先の器用さを必要とする課題や、指定された数字を数列から探して数える課題の成績が、写真を見る前と比べそれぞれ44%、16%向上しました。成体の写真を並び換えた場合は成績向上は生じず、美味しそうな食べ物の写真を並び換えることにも効果はありませんでした。

また、可愛い写真を見ることが注意の範囲に与える効果も検討しました。通常、ヒトの視覚情報は対象の細部よりも全体に注意を向けるので、全体的な特徴の方が素早く脳で処理されます。しかし、可愛い写真を見た後には細部が注目されるようになり、細部と全体の処理に要する時間差がなくなりました。可愛いという感情には対象に接近して詳しく知ろうとする機能があるため、このように細部に注意を集中するという効果が生じた可能性があると考えられます。また、90秒以上見ることは逆効果だという結果も出ています。

本研究は、可愛いものを見ると気分が良くなるだけでなく行動も変化することを示しています。可愛いはキャラクターや商品として生産されるとともに、日本のポップカルチャーを代表するキーワードkawaiiとして世界に拡がっています。しかし、可愛いとは何か、可愛いと何が良いのかについては学術的な説明はなされていません。この実験の知見は可愛いものが普及する心理的背景を説明する1つのヒントとなるかもしれません。


可愛いものを見るのは90秒以内で