No.490 猫のアミロイドーシス

アミロイドーシスとは、アミロイドという不溶性で繊維状のタンパク質が、細胞と細胞の間に沈着して組織を圧迫し機能障害を引き起こす病気の総称です。アミロイドは全身の臓器のどこにでも沈着しますが、動物ではとくに肝臓・腎臓・副腎・脾臓などに沈着しやすく、これらの臓器の障害により症状が出ます。シャム猫(肝アミロイドーシス)、アビシニアン(腎アミロイドーシス)が遺伝性疾患として知られていますがどの品種でも起こります。比較的稀な疾患ですが猫の肝疾患の中では近年増加傾向です。

肝アミロイドーシス
肝臓は軽度なアミロイド沈着であれば機能を損なうことはありません。しかし、沈着が進むと肝臓が脆くなり、肝機能の低下だけでなく、出血や、最悪な場合では破裂の危険性もあります。肝アミロイドーシスでは肝臓の腫大が認められます。これによりお腹が妙に膨らんで見えたり、膨満感による食欲不振や体重減少が症状として現れます。また、肝機能の低下はタンパク質の代謝や消化に影響を与えるため、食欲不振、嘔吐、下痢や腹水の貯留が認められることもあります。さらに、肝臓の組織が脆くなることと、肝機能低下により起こる血液凝固異常により肝破裂のリスクが伴います。肝破裂が起こった場合、お腹の中で大出血が起こることになりショック状態となります。

腎アミロイドーシス
腎臓には、血液を濾過して排泄物を取り除き、尿の素を作る糸球体という構造があります。糸球体は腎臓の中で最もアミロイドが沈着しやすい場所です。糸球体にアミロイドが沈着し構造の障害が始まると元に戻ることはありません。このため、徐々に腎臓の機能が低下していき、慢性腎不全(CKD)を引き起こす原因となります。糸球体にアミロイドが沈着すると糸球体の透過性が亢進し、通常回収しなければいけないタンパク質が尿中に漏れ出るようになります。尿中にタンパク質が出るということは、血液中のタンパク質濃度が薄くなります。漏出が少量の時は、体重減少や疲れやすくなるなど、体に必要なエネルギーが欠けることによる症状がでます。重度になると浮腫や腹水の貯留が認められるようになります。また、腎臓の75%が機能しなくなるまで糸球体の損傷が広範囲に進むと腎不全の状態に陥ります。多飲多尿や食欲不振気持ちが悪く、流涎、嘔吐などの症状が現れます。このほか糸球体の損傷により、ナトリウムの貯留、ひいては高血圧が起こり、慢性腎不全をより悪化させる原因となります。高血圧は、網膜出血や網膜剥離などの原因となることもあります。まれに、タンパク質の漏出により血液の凝固異常が起こり、肺の血栓塞栓症が起こることもあります。

アミロイドーシスの確定診断は、生検(臓器の一部を取って検査をする)による病理検査診断です。しかし、アミロイドにより障害されている臓器の一部を取ることは、大出血など命にかかわるリスクを伴い安易に行える検査ではありません。そのため、診断までたどり着くことが容易ではありません。ヒトではSAA値が病態と相関性がありますが猫では関連性が不明です。

一度沈着したアミロイドを取り除き、障害された組織を元に戻すことはできません。アミロイドーシスには、現在のところ特異的な治療法は無く、症状を緩和させる支持療法を行います。炎症がアミロイド沈着の引き金になるので、炎症の元となっている基礎疾患の治療、抗酸化剤やビタミンKの補充、代替医療、サプリメント、免疫療法なども組み合わせて維持治療をしていくことになりますが長期予後は悪いです。

良い予防法はありませんが、慢性の口内炎や歯肉炎があって慢性の炎症を起こしている場合、その炎症から炎症性のアミロイドを作ってしまい、アミロイド沈着の引き金になることがあります。そのため、歯周病、口内炎を持っている場合は特に注意が必要です。


アミロイドーシスの病理写真

以下もご参照ください
No.356 猫の口内炎
No.300 慢性腎不全(CKD)のステージ分類
No.98 歯周病2 (Periodontal disease)
No.97 歯周病1 (Periodontal disease)
No.56 慢性腎臓病(CKD)2
No.55 慢性腎臓病(CKD)1