血尿や頻尿などの検査で膀胱内に腫瘤(Mass)が見られる場合があります。膀胱内の腫瘤が悪性のものであった場合、ほとんどが移行上皮癌です。移行上皮癌は転移性・浸潤性が強く悪性度の強い癌です。膀胱内部の粘膜表面の細胞である上皮細胞は伸び縮みができる移行上皮と呼ばれる種類のものです。その移行上皮細胞が癌化したものが移行上皮癌です。移行上皮癌は膀胱三角と呼ばれる、膀胱内部の左右にある尿管の穴と尿道の穴を結ぶ三角形の領域に発生しやすいといわれています。また一方で、慢性膀胱炎などが原因でできる良性の膀胱内ポリープもあります。
初期症状はどちらも似ていて、血尿や頻尿といった膀胱炎症状が一般的です。膀胱内に腫瘤をみつけたら、まずはその腫瘤が何者なのかを調べます。診断するためには、カテーテル吸引生検による細胞診を行います。膀胱内病変の位置に、尿道より挿入したカテーテルの先端をキープし注射器で吸って陰圧をかけ細胞を採取します。大型犬であれば、膀胱鏡(内視鏡)で組織を採取可能です。
その後、取れてきた細胞の異型性などを病理専門医によって細胞診を行います。これは、悪性腫瘍が疑わしいのかどうかの検査であって、確定診断はあくまでも組織検査となります。また現在では、細胞のBRAF遺伝子(V595E)の変異の有無を検査することで、完璧ではないもののかなりの確率で移行上皮癌が検出できるようになりました。
治療は、悪性腫瘍の疑いが低ければ内科的に抗生剤や消炎剤で経過観察します。悪性腫瘍が疑われるなら早期の外科手術、疑いが低くても内科的な治療に反応しない場合は外科手術が推奨されます。 移行上皮癌は化学療法(抗癌剤)ではなかなか効果がみられません。獣医界では非ステロイド抗炎症薬(NSAID)のピロキシカムという薬がよく使用されます。また、近年では副作用の少ない分子標的薬も使われだしています。
膀胱内のMass