水晶体は眼球の中間部に位置しており、網膜にピントをあわせるために必要な重要な組織です。カメラの絞りに例えられる毛様体から連続するチン小帯という組織が360°付着しており、遠くを見たり近くを見る際にチン小帯を通じ、水晶体を伸ばしたり縮めたりすることで網膜に焦点を合わせています。ヒトでは様々な原因によってチン小帯の脆弱化が生じ、チン小帯が断裂することで水晶体の位置が本来の中心の位置からずれることがあります。水晶体の偏位が軽度である場合を水晶体亜脱臼といい、完全に偏位している場合を水晶体脱臼といいます。
動物においても、水晶体亜脱臼や水晶体脱臼が生じます。特にテリア種を中心とした犬種においてチン小帯の断裂が生じやすい遺伝的な素因があるとされ、原発水晶体脱臼(PLL)を生じることが報告されています(他の品種でも起こります)。またぶどう膜炎や緑内障、外傷といった様々な疾患に続発して水晶体脱臼が生じることもあります。
水晶体脱臼では、水晶体は本来の位置から様々な場所に偏位し、それぞれ症状が違います。硝子体側(眼の奥側)へ偏位する水晶体後方脱臼では、後部の眼内組織である網膜に障害を与え、網膜剥離を生じる危険性があります。また前房へ偏位する水晶体前方脱臼は、緑内障や角膜浮腫を引き起こすだけでなく、強い疼痛を生じるため、緊急的な治療(多くは外科手術)が必要です。
犬の水晶体前方脱臼