消化管は体の外部であるため外界と触れ合っており、消化・吸収の他に体内と対外のバリアとしても働いています。腸内に生息する腸内細菌やその毒素が,このバリアを超え腸管上皮を通過してリンパ組織中に移行することをバクテリアルトランスロケーションといいます。全身的な栄養不全や種々のストレス、全身性の消耗性疾患、腸管運動障害による腸内細菌の異常増殖、消化管疾患などによる全身性・局所性免疫能低下、腸粘膜萎縮、肝機能低下などが背景となります。
特異的な症状はありませんが、特に感染巣のない菌血症などではバクテリアルトランスロケーション併発の可能性があり、全身状態を重症化させます。
バクテリアルトランスロケーションが疑われた場合、バリアとしての腸管が弱っているから、あるいは腸内細菌叢が乱れているから、腸粘膜の安静を図り腸管を使わずに休ませるというのは間違いです。腸管粘膜は使用しなければさらに弱ります。腸内細菌叢を整えていくためにも経腸栄養を適切に行っていく必要があります。
バクテリアルトランスロケーションは「消化管粘膜のバリア機能」「腸内細菌」「免疫能」のバランスにより生じます。このうち何らかの手が打てるのは、消化管粘膜のバリア機能を整えることと、腸内細菌叢を整えることです。そのため、まずは適切な臓器血流の維持(循環管理)と、できるだけ経腸栄養を使用することが重要です。ヒトではプロバイオティクスと呼ばれる善玉菌を経腸的に投与することにより正常細菌叢の回復をねらう治療方法もとられます(動物では研究がありません)。このようなことからも、経腸栄養が重要だということがわかります。
看護roo! より