No.403 悪性黒色腫 (メラノーマ;Melanoma)

悪性黒色腫(メラノーマ)はメラニンを形成するメラニン細胞が腫瘍化した悪性腫瘍です。犬や猫で比較的よくある癌です。オスに多く、主に高齢(10~14歳)でみられますが、若齢から中齢でも発生します。一般的に口腔内(歯肉や舌、硬口蓋、頬粘膜など)、皮膚、爪床、眼球内が好発部位ですが、その他の部位にも稀に発生します。また、口腔内で最も多く発生する癌が悪性黒色腫になります。口腔内のものは早期なら転移は少ないですが、爪床は転移しやすく、最も多いのがリンパ節と肺転移です。その他、腹腔内の臓器への転移などもみられます。

主な症状には以下のようなものがあります。
口腔内:口臭や口からの出血、食べ辛いなどの症状がみられます。これらの症状は歯周病でもみられるため、歯周病と間違われ、発見が遅れてしまうことも多いです。歯石が酷いと、その下から見つかる場合もあります。
皮膚:特に症状はなく、健康診断の際やご家族が皮膚のできものに気づいて見つかる場合が多いです。自壊して出血していることもあります。
爪床:爪をなめる、歩きにくそう、出血などがみられます。
眼球内:眼球内での悪性黒色腫の場合、ブドウ膜(虹彩、脈絡膜、毛様体)にできる場合が多く、転移率は比較的低いとされていますが、確認が困難なことが多く、確認できたころにはすでに腫瘍は大きくなっていることが多いです。

診断には針生検(FNA:細い針をさして細胞を採取する検査)が有用で、細胞内にメラニン顆粒を含んでいることが多いため診断可能です(眼球内を除く)。また、肉眼的に黒いことも診断の一助となります。しかし、細胞内にメラニン顆粒が認められないものや、肉眼的に黒くない特殊なメラノーマもあります。その場合は、針生検での診断は困難で組織生検が必要となります。また、悪性黒色腫と良性の黒色腫(メラノサイトーマ)は針生検や肉眼では判断できないこともあり、最終的な診断には組織生検が必要です。

悪性黒色腫と診断した場合、大きさや広がり、リンパ節転移、遠隔転移(肺や腹腔内の臓器への転移)の評価を行います。これをステージングといいます。同時に併発疾患がないかどうかも評価します。これらの評価には、針生検に加えて、血液検査、レントゲン検査、超音波検査、状況によってCT検査(とくに口腔内の場合)が必要です。これらの検査を組み合わせて行い評価を基に治療方針を決定します。

犬の悪性黒色腫のステージ分類

治療には主に「根治治療(積極的治療)」と「緩和的治療」があります。根治治療とは癌と闘う治療であり、癌をできるだけ体から取り除くことを目的とした治療です。また、根治治療は長期生存(年単位)が目的ですが、完全に治すこともできる場合もあります。一方、非常に悪性度の高いものでは、根治治療を行ったとしても数週間~数ヶ月程度で亡くなってしまう場合もあります。根治治療では主に3大治療「手術」「放射線治療」「抗癌剤治療・分子標的治療」と「代替医療」を組み合わせて行います。
一方、緩和治療は苦痛を和らげることが目的です。長期生存を目的とした治療ではなく、たとえ短期間(月単位)であってもその期間のQOLを改善するために行う治療です。主に「痛みの治療」「栄養治療」「症状を和らげる治療」を行います。

予後の統計は、
口腔内
ステージ1;根治治療を行うことで比較的予後はよく数年単位の生存が期待できる
ステージ2・3;根治治療を行った場合の生存期間中央値は約1年
ステージ4;予後は悪く、数ヶ月で亡くなってしまう場合が多い
根治治療を行わない場合は予後は悪く2ヶ月程度で亡くなってしまいます。ただし、適切な緩和治療を行うことで動物のQOLを改善させることは可能です。
皮膚・眼球内;転移がない場合、根治治療を行うことで腫瘍を治すことができる場合が多い
爪床;根治治療を行った場合の生存期間中央値は約1年

メラノーマに限らずですが、悪性腫瘍は早期発見・早期治療が大切です。定期的な健康診断が重要です。また、ワクチン開発の研究もされています。

クリックすると、臓器の写真が出ます。苦手な方は見ないで下さい
摘出した口腔粘膜の悪性黒色腫と下顎リンパ節

こちらもご参照ください
No296生検
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No.94 腫瘍3 (Tumor) 悪性腫瘍の進行度