No.396 ユリ科の野菜の誤食

玉ねぎ、ネギ、ニラ、にんにくなどのユリ科の野菜を犬や猫に与えてはいけないのは、有機チオ硫酸化物という中毒成分が含まれているからです。この物質は、犬や猫の赤血球の中と膜に影響を与えて赤血球を壊し、溶血性貧血を起こします。ヒトは有機チオ硫酸化物を消化する酵素を持っているのでよほど過剰に摂取しない限り中毒にはなりません。

1.赤血球の中:有機チオ硫酸化物は、赤血球の中のヘモグロビンを酸化させてハインツ小体という物質を赤血球の中に作り、これが脾臓や肝臓や骨髄で捉えられるか、マクロファージという掃除屋さんに食べられて赤血球が減ってしまいます。また、ハインツ小体だけを脾臓や肝臓で取り除いてもらった赤血球も存在しますが、形が維持できなくなり血管内で破裂してしまいます。
2.赤血球の膜:有機チオ硫酸化物が赤血球の膜のタンパク質を酸化し、Eccentrocyteという凹んだ形の赤血球となり、やはり、脾臓や肝臓や骨髄で捉えられるか、マクロファージに食べられて赤血球が減ってしまいます。また、凹んだ形の部分だけを脾臓や肝臓で取り除いてもらった赤血球も存在しますが、形が維持できなくなり血管内で破裂してしまいます。

溶血性貧血とは、血液中の赤血球が破壊されることで全身に酸素が行きわたらなくなり、酸欠状態になってしまうことです。そして、最悪の場合には破壊された赤血球からカリウムが流れ出し、高カリウム血症になって死に至ります。有機チオ硫酸化物は加熱しても効果を失わないため、加熱した食材だからといって安心はできません。また、液体にも溶け出る性質があるので、スープやお味噌汁なども要注意です。

ユリ科の野菜の中毒量はとても個体差が大きいため定められていません。個体によってはごく少量でも中毒症状を起こしてしまう場合があります。また、一般的に中毒が出る量は体重と比例するため、体重が軽い小型犬や猫の場合、大型犬よりも注意が必要です。少量なら症状が出ないこともあります。

中毒症状が出ると、貧血によって元気がなくなったりふらついたりします。貧血は数日間続くこともあります。溶血したヘモグロビンが赤い血色素尿として排出される場合もあります。また、嘔吐や下痢が起こることもあります。これらの症状は食べた後すぐに起こるとは限りません。数時間後~数日後に始まることもあります。無症状でも3~4日間は注意が必要です。食べてすぐの症状では、玉ねぎ、ネギ、ニラ、にんにくなどに対するアレルギー症状が起こっていることもあります。急性の嘔吐・下痢、痒がる、発疹などの症状が出た場合にはアレルギーも疑います。

犬や猫がユリ科の野菜を食べてしまった場合は、なるべく早く病院に連れて行ってください。口の中に残っている分を取り出しガーゼなどの布を水で濡らして、歯や口腔内を拭いて少しでも有機チオ硫酸化物のエキスを取り除くと応急処置になります。

治療は、誤食してから1時間以内であれば吐かせる処置を行います。催吐剤を使う場合と内視鏡で胃洗浄を行う方法があります。また、血液検査を行って溶血が起こっているかどうかも検査します。溶血が起こっていた場合は、抗酸化剤やステロイド剤を投与し赤血球の破壊を止める治療を行います。また、ビタミン剤、強心剤、利尿剤などを投与して対症療法を行う場合もあります。それでも溶血が止まらない場合は輸血が必要になる場合があります。特効薬はありません。


らっきょう、アスパラガス、百合根もユリ科です