リクガメの呼吸器疾患時の症状は、鼻からの分泌物(鼻水)、呼吸の異常、食欲や活動性の低下が見られます。ただし、鼻からの分泌物は鼻汁と嘔吐の鑑別が必要です。嘔吐は消化管の問題で起こります。緑から茶色の唾液が鼻から出てくるので、鼻汁と間違いやすいです。また、爬虫類はもともと呼吸数が少ないので、呼吸の異常は分かりにくいです。
呼吸器の異常の原因は非感染性と感染性に分けられます。それぞれ単独の原因というより、複合して発生することが多いです。非感染性の場合では、脱皮不全、異物、ビタミン A 欠乏症、アンモニア臭などが発生要因となります。鼻の穴の周辺の脱皮した鱗や皮膚が鼻腔を塞いだり、床材や粉塵などの異物が鼻に入りこむこともあります。ビタミンAの欠乏が起こると、鼻腔や肺の粘膜が変性して感染を起こしやすくなります。掃除が足りないと排泄物のアンモニアが呼吸器に刺激を与えます。また、横隔膜で胸とお腹を明確に分けられていない爬虫類では、お腹の炎症や腹水が、胸にある肺に影響を与えて、呼吸の異常が起こる場合があります。食滞や便秘によって拡張した消化管が肺の動きを抑えたり、メスだと卵黄が破裂して腹膜炎を起こし(卵黄性腹膜炎)、炎症が肺にまで及ぶ例があります。
感染性の場合は、細菌、真菌、ウイルスなどが原因で、稀に寄生虫があります。感染は主に免疫低下が引き金で発症します。原因は細菌とマイコプラズマが多いです。特にリクガメではマイコプラズマ感染症が問題で、Mycoplasma agassizii が主な原因と言われています。真菌は環境中に存在しているものが多く、免疫が低下した際に皮膚や甲羅に感染しますが、全身性の感染ならびに鼻炎・肺炎まで引き起こす場合もあります。また、カメは長くて折れたたみこまれた気管のために、肺が閉鎖的になりやすく、真菌性肺炎になりやすい解剖学的な特徴があります。ウイルス性肺炎は、ヘルペスウイルスとラナウイルス(イリドウイルス)が原因となることが多く、結膜炎や鼻炎などの上部気道炎に加えて、気管や口の中に黄色く見える化膿巣ができて肺炎を併発します。他にも神経症状、肝炎や腸炎も引き起こします。ヘルペスウイルスは地中海沿岸に生息するギリシャリクガメやヘルマンリクガメ、ヨツユビリクガメなどで無症状のキャリアになりやすいことが問題とされ、これらのカメでは口内炎の症状くらいしか出ませんが、ヘルペスウイルスは他の種類のカメへも感染することが知られ、ウイルスの種類の多様化も進んでいます。分類上ではそのウイルス名が混乱しており、Chelonivirus(カメウイルス)という新たな分類名も提案されています。ラナウイルスはカエルに大量死をもたらすウイルスとして有名ですが、カメにも肺炎と口内炎などを起こし、全身に蔓延して死亡することもあります。カメのウイルス性肺炎では、マイコプラズマとの重複感染によって、症状がひどくなることもあります。リクガメでは寄生虫であるコクシジウムが全身に蔓延し、その結果肺炎も引き起こして死亡することがありますが稀です。
カメの呼吸器症状は、苦しいために、空気を吸おうとして首と前足の小刻みに出し入れする動作が頻繁に見られます。リクガメでは鼻水が見られ、鼻ちょうちんができることもあります。リクガメの鼻水は、透明だと非感染性が疑え、感染がひどくなると黄色や緑色の膿性に変化し、湿った鼻の呼吸音が「ピーピー」と大きく聞こえてきます。いずれのカメも症状が進行すると深い呼吸をして、口を開けたままになり、目を閉じて活動も低下します。この段階だと食欲もほぼなくなっているはずです。鼻と目、耳は細い管でつながっているので、結膜炎や鼻孔と目の間が腫れたり、鼓膜が赤くなったり、そして中耳炎が併発することもあります。
肺炎はレントゲン検査で診断しますが、軽症例ではレントゲンで明確な肺炎を診断できない場合があります。可能ならCT検査がベストです。
治療は、鼻汁から細菌や真菌が認められれば抗生物質や抗真菌剤を投与します。ウイルスの検査は難しく、例え診断されても特効薬はありません。飼育環境の見直しや点滴、強制給餌、状況によっては食道瘻チューブの設置などが必要です。
鼻水が出ているリクガメ