No.295 ハリネズミの脱髄性麻痺 (Wobbly Hedgehog Syndorome:WHS)

 ハリネズミの脱髄性麻痺は原因不明の脱髄性神経病変により、進行性の運動失調を特徴とするハリネズミ特有の病気です。プルプル症候群とかふらつき症候群などとも呼ばれます。2歳以下での発症が多いですが何歳でもみられます。

神経細胞の一部分が突起状に伸びて、脳の情報を信号のように伝える電線のような働きをするのが軸索です。軸索はミエリン(髄鞘)と呼ばれる電線のカバーのようなものに覆われていて、このミエリンの存在のために脳の情報を正常に伝えることが出来ます。何らかの原因でミエリンが障害され、軸索がむき出しになる状態を脱髄と呼びます。

はっきりとした原因は不明ですが、栄養不良、ビタミン不足(とくにビタミンB1欠乏)、母親の母乳をしっかり飲めなかった、ウイルス、細菌、ストレス、遺伝などが考えられています。

通常、運動失調は後肢から始まり、発症初期は丸まりにくくなったり、つまずく事が多くなったりします。進行すると前肢にも症状が出て、食欲不振や削痩がみられ死にいたります。

診断は、症状や神経学的検査の他、血液検査、レントゲン検査、状況によってCT検査やMRI検査をして、他の脳神経疾患、リンパ腫、白血病、低血糖、低Ca血症、椎間板ヘルニア、変形性脊椎症、事故や外傷などと鑑別しますが、確定診断は、今のところ死後の解剖で脳や脊髄の病理所見を確認するしかありません。また、CTとMRIは、実施できる施設の問題、エキゾチックペットに対する麻酔の問題(→No241エキゾチックペットへの全身麻酔)、金銭的理由もありハードルは高いです。

治療は症状に合わせて、鎮痛剤、ステロイド剤、ビタミン剤、半導体レーザー、代替医療などを組み合わせて行いますが、原因が特定されていないため改善する場合とそうでない場合があります。食欲の低下がみられる場合は皮下点滴や強制給仕なども必要です。飼育環境の整備も重要です。なかなか治療が難しい病気の1つです。

WHSで後肢が麻痺したハリネズミ