人間の視力には限界があるので、小さなものを見るときは拡大鏡を用います。我々が手術を行なう場合も、肉眼で見難いときには、拡大鏡や手術用双眼顕微鏡を用いています。これを鏡視下手術、顕微外科、英語ではマイクロサージャリーと言います。手術用双眼顕微鏡を用いると立体的に見えるので、顕微鏡を覗きながら組織を剥離したり、微小血管や神経を縫い合わせることが出来ます。通常、10倍から20倍の拡大下に手術を行ないますが、そのためには手術器具や縫合材料も、それに適したデリケートなものでなければなりません。例えば、直径が1.0mmの血管や神経を縫い合わせようとすると、50~100ミクロン(ミクロン=1000分の1ミリ)の針が付いた10~20ミクロンくらいの太さの糸を用います。ちなみに人間の髪の毛が約50~100ミクロンくらいですから、その1/5くらいです。いかに細いものかがお分かりいただけると思います。肉眼ではほとんど見えませんし、鼻息で飛んで行ってしまいます。
手術用顕微鏡を用いる手術は1921年にストックホルムの耳鼻科咽喉科の医師によって用いられたのが最初です。その後、眼科や脳神経外科で用いられるようになり、1960年にアメリカの血管外科医Jacobsonが直径1.0mmの血管を顕微鏡下で縫い合わせて以来、四肢の血管や神経の修復に応用されるようになりました。このような手術をマイクロサージャリーと言います。現在では、脳神経科、心臓血管外科、眼科、耳鼻咽喉科、胸部外科、消化器外科、整形外科、美容整形外科など多くの科で汎用されています。
当院でも、眼や神経、エキゾチックアニマルの手術をはじめ、多くの分野に取り入れています。
手術用顕微鏡