皮膚糸状菌は動物の体表に感染する病原体であり、真菌(カビ)の一種です。皮膚糸状菌は数種類存在しますが、その中でも動物に一番罹患率の高いのはMicrosporum.canis(以下M.canis)です。
皮膚糸状菌はヒトにも感染する、いわゆる人獣共通感染症です。犬猫だけでなく、ハムスター、うさぎ、ハリネズミなど多くの哺乳類が感染します。飼っている動物が発症してしまった場合にはヒトに感染するリスクが高まりますので十分な注意が必要です。ヒトには丸く赤い皮膚病が腕に出る場合が多いです。さらに、一緒に飼っている動物にも感染しますので感染動物は他の動物との接触を避ける必要があります。
皮膚糸状菌は、被毛や皮膚の表面に感染し、主な症状は脱毛、赤み、フケなど様々な症状があり、最初は痒みは少ないのが特徴です。
感染しやすい動物は免疫力がまだ十分に備わっていない幼若動物や免疫力の低下を引き起こす病気を持っている高齢動物です。臨床現場では幼若動物で遭遇する機会が多かったのですが、近年は高齢動物に多発しています。また、ステロイド剤や免疫抑制剤などの長期使用も原因となることがあります。ヨークシャーテリアは皮膚糸状菌への感染リスクが高いです。
検査はウッド灯検査、毛検査、皮膚掻爬検査、真菌培養検査があります。ウッド灯検査とは、M.canisが発生する物質に対してライトを当てるとその物質が付着している皮膚や被毛が発色することを利用した検査です。近年、良いウッド灯が作られM.canisの検出が容易になりました。確定診断はその疑わしい被毛を毛検査で採取、または皮膚掻爬検査で周囲の皮膚組織を採取し、顕微鏡で観察することで行います。上記の検査で診断が難しい場合や皮膚糸状菌の種類の特定、治療の経過を判断するために真菌培養検査も実施することがあり、14日ほどの培養期間を要します。
治療は長期に渡ることが多く、最低でも6-8週間ほど完治にかかります。治療内容としては感染被毛およびその周囲被毛への外用薬の塗布、内服薬、シャンプー療法、剃毛、飼育環境の改善があります。病状によってはシャンプー療法のみで完治する場合もありますが、治療が終了し、治ったと思った矢先に再発することもあります。自然界(自宅の環境)で長期にわたり生存する(18ヶ月生存していたとの報告もあります)ことが再発の原因となります。再発を予防するためには飼育環境の改善が重要となり、皮膚糸状菌を除菌し、身近な環境中に皮膚糸状菌を生存させないことが必要です。飼育環境改善は、感染動物が使用していた、食器、トイレ、タオルなどを破棄、消毒します。消毒は塩素系漂白剤などを使用するか、熱湯消毒をします。とくに夏場は室温や湿度の管理も重要です。
ウッド灯に反応しているM.canis