シクロスポリンA(CsA)
シクロスポリンは主としてヘルパーT細胞によるサイトカイン(免疫や炎症に関与する物質)の産生を阻害することにより、強力な免疫抑制作用を示します。もともとは臓器移植の患者さんのために作られた薬です。1ヶ月の間、毎日1回飲んで、状況が改善したら減薬していきます。1ヶ月で約70%の症例で効果が出ます。副作用は、最初に下痢や嘔吐などの消化器症状や食欲減退がみられることがありますが、徐々に消失することが多いです。大きな副作用はありません。猫にはとくに効果的な印象があります。問題点はインターフェロンγほどではありませんが、こちらも導入期のコストが高いことです。大型犬になるほど大変です。
ステロイド剤
T細胞への関与やサイトカインの合成抑制などによって炎症を鎮めます。安価ですぐに効果が発現し、ほとんどの症例で症状が改善する便利な薬ですが、問題は長期投与が必要となったときの副作用です。だんだんと効果が減ってくる(薬が増えてしまう)、肝機能障害、副腎疾患、糖尿病、皮膚が薄くなるなどの問題が生じます。何度も繰り返し起こってしまうアトピーの場合は投与を注意しなければなりません。薬が増えてしまうような状況のときは、別の治療を考慮する必要があります。
アトピーの治療は、シャンプーと前述の3つの薬剤(インターフェロンγ、シクロスポリン、ステロイド剤)が基本となりますが、細菌感染があれば抗生剤、真菌(とくにマラセチア)の感染があれば抗真菌剤、炎症性物質を調整する必須脂肪酸製剤やビタミンEやサプリメント、漢方薬を併用する場合もあります。また、どうしても上手く行かない場合はホメオパシー治療も効果的です。ホメオパシーも上記の全ての薬と併用できます。問題点は時間がかかることが多いことです。
アトピーの治療をまとめると
・まずは症状にあったシャンプーによるスキンケアをしっかり行う。
・除去食試験で食物アレルギーを除外する。
・減感作療法をしたい場合は皮内反応試験を行う。
・コストの問題がクリア出来るなら、若い動物の場合はインターフェロンγを、年配の胴部にはシクロスポリンを始めてみる。
・インターフェロンγやシクロスポリンで症状が改善しない、コストの問題がある、急いで痒みを止めたい、季節性があって暑い時期だけの痒みの場合などは、ステロイド剤を副作用に気をつけて使用していく。
・インターフェロンγやシクロスポリンで症状が改善しない、なるべくならステロイド剤を使いたくない、時間がかかってもよいなどの場合には、ホメオパシーなどの他の治療法を検討する。
といったところでしょうか。
他の項でも同様ですが、獣医学は日進月歩です。どんどん、新しい学説、エビデンス、検査法、治療法、薬が出てきます(もちろん、必ずしも新しいものが良いことばかりじゃありませんが)。半年も経てばこの項の内容もかなり違ったものになると思います。痒いというのは非常に辛いことです。もっと効果的で副作用が少なく安価な治療法が発見されて欲しいですね。