「様子を見る」という対応のことを「経過観察」といいます。「経過観察」は、獣医師が動物に対して行う「医療行為」の選択肢の一つです。
「経過観察」とは、「何もしない」ではなく、「治療介入せずに様子を見てみる」という意味です。病気の中には、初期の段階で、症状や検査結果に軽微な変化しか表れず、診断がつきにくいものがたくさんあります。こういう段階から、効果が期待できるわけでもない中途半端な治療を加えると、症状や検査値が変化し、ますます正確な診断から遠ざかってしまいます。
「様子を見ましょう」は、「治療せずに、数日あるいは数週間、数カ月の一定期間をおいてからもう一度診察や検査をしましょう」「治療をせずに経過を見て、何らかの症状の変化があった段階でもう一度受診をして下さい」という判断です。
大切なことは、この経過観察期間の後、動物の体にどんな変化があったか、あるいは何も変化がなかったかを最も正確に判断できるのは、「経過観察」という方針を選択した獣医師だけだということです。
よく「1週間くらい前から軽い下痢が続いてます。病院に行った方がよいでしょうか?」といった相談のお電話があります。こういう質問をされて「連れて来なくても大丈夫ですよ」と答えることはまずできません。診察せず、飼主さんの語る主観的な情報だけを頼りに「経過観察」という医療行為を行うことが危険だからです。
『様子をみることは全ての病気に対して選択肢の1つであるが、それが1番良い選択であることは少ない』日本一の獣医臨床病理診断医、平田雅彦先生の言葉です。