No.222 猫の肥大型心筋症 (HCM; hypertrophic cardiomyopathy)

心臓の主に左心室の筋肉が異常に厚くなってしまう病気を肥大型心筋症といいます。猫の15%が罹患するといわれています。肥大型心筋症で心臓の筋肉が厚くなると、左心室がうまく膨らまなくなり、血液を貯めるスペースが狭くなります。貯めておけなくなった血液は左心房に溜まってしまい、左心房は血液によって風船のように膨らんで、血液が淀んで血栓を作りやすい状況になります。これが猫の肥大型心筋症の基本的な病態です。

血栓ができてしまうと、その血栓は血流に乗りいろいろなところに運ばれ、細い血管をつまらせます。その血管が腎臓であれば急性腎不全になり、後肢の血管であれば激痛を伴う後肢の麻痺がでます。血栓以外にも、心臓のポンプ機能が落ちると心不全となり、胸水や肺水腫が起こる場合があります。

肥大型心筋症には聴診で雑音の出ないタイプがあり、確定診断には超音波検査が重要です。最近はNT-proBNPという血液検査も利用できます。血栓症や心不全にならない限り、多くは無症状ですので、早期に発見することが難しい疾患の1つです。

肥大型心筋症の治療は内科治療のみになります。内科治療を行い血栓症や胸水や肺水腫、心不全といった状態にならないように維持していきます。

肥大型心筋症になる原因は不明です。高血圧症や甲状腺機能亢進症でも同じような心臓になることがありますが、肥大型心筋症とは区別されます。この病気になりやすい猫種は、スコティッシュホールド、メインクーン、ラグドール、スフィンクス、アメリカンショートヘア、ノルウェージャン・フォレスト・キャットなど言われていますが、どの猫種でもかかります。日本では、雑種短毛腫とスコティッシュホールドに多い印象があります。このうちメインクーンとラグドールは遺伝子検査で危険を予見できます。