股関節脱臼は、犬や猫の脱臼の64%を占めていて比較的多いトラブルです。原因は大きな外力による外傷で、交通事故や落下などが多いです。ほとんどが片側性で両側性は10%以下です。35-55%の症例で胸部疾患などの他の外傷がみられます。
股関節は、骨盤と太ももの骨(大腿骨)をつないでいる関節です。骨盤には寛骨臼という「くぼみ」があり、大腿骨には大腿骨頭という「でっぱり」があり、この凹凸(おうとつ)がうまくかみ合うことで後ろ足の付け根がスムーズに動けます。股関節脱臼は、寛骨臼から大腿骨頭が外れてしまった状態です。
股関節脱臼のうちの約70%が前背脱臼で最も多く、大腿部が内転した格好になります。稀に腹側への変位があります。診断は症状と触診、レントゲン検査を行いますが、外傷性の場合は他の障害があることがあるので、血液検査や尿検査などの全身の検査も必要です。また、脱臼に先立つ股関節の基礎疾患(股関節異形成、レッグ・ペルテス病、股関節の関節炎など)の有無も検索します。これらの病態があると、後述の非観血的整復の成功率は激減します。
治療は、非観血的整復と観血的整復(外科手術)があります。
非観血的整復は、全身的な合併症と股関節の基礎疾患がなく、脱臼後3日以内の場合に選択されます。全身麻酔下か鎮静+硬膜外麻酔下で行われます。犬の場合は、股関節を整復した後、前背脱臼の場合はエーマースリング、腹側脱臼の場合はホブル(足かせ)という包帯を10-14日間行いなす。猫は整復のみです。
観血的整復(外科手術)は、非観血的整復が上手く行かなかった場合、脱臼後時間が経っている場合、股関節の基礎疾患がある場合などに選択されます。手術法には、関節包縫合、インプラントを使用した関節包再建術、トグルピン法などがありますが、大腿骨頭切除術(FHO)や人工関節全置換術(THR)が選択される場合もあります。観血的整復の成功率は75%といわれていて、なかなか治療の難しい疾患の1つです。
股関節脱臼の犬のレントゲン