左心房と左心室の間の2枚の弁が僧房弁です。僧房弁の変形が起こると、弁がしっかり閉じることができなくなり、本来、左心室から全身循環へ送り出されるべき血液の一部が左心房内に逆流してしまいます。そのため肺のうっ血が起こります。この肺のうっ血が進行すると肺水腫となります。小型犬に非常に多い病気です。初期段階では、軽度の心雑音だけで無症状な場合が多いですが、なるべく症状の軽いステージで発見し、治療が必要になったら内服薬を開始します。
心雑音強度は6段階に分類されています。Levine(レバイン)の分類と呼ばれています。聴診上重要な心音にはI音(僧房弁と三尖弁の閉鎖音)とII音(大動脈弁と肺動脈弁の閉鎖音)があります。
Levineの心雑音強度の分類
第I度/VI度:注意深い聴診のみによって聴き取れる雑音
第II度/VI度:聴診器を当てるとすぐ聴き取れるが弱い雑音、II音が聞こえる
第III度/VI度:II音が聞こえない
IV度/VI度:スリルがある(手で触って感じる心雑音)
第V度/VI度:聴診器で聴こえる最大の雑音で、聴診器を胸壁から離すと聴き取れなくなるもの
第VI度/VI度:聴診器を胸壁から離しても聴こえる強大な雑音
一般的に第III度/VI度以上の雑音があれば、心臓の詳細な検査が推奨されます。僧房弁閉鎖不全症についてはACVIM(アメリカ獣医内科学学会)が以下の様なステージ分類をしています。
ステージA:器質的異常なし(心雑音なし)
今後心疾患となる可能性あり(キャバリア、チワワ、マルチーズ、ダックスフントなど)
ステージB1:心雑音第III度/VI度、心不全の症状なし
心雑音はあるが結構動態に悪影響を与えていない初期の状態
心拡大なし
ステージB2-Mild:心雑音第III度/VI度
血行動態に悪影響を与えている可能性
軽度な心拡大あり
StageステージB2-Treatment:心雑音第III度/VI度
血行動態に悪影響を与えている
心拡大あり
ステージC:心不全兆候の既往あり(肺水腫による呼吸困難など)
現在、心不全(うっ血性心不全、肺水腫)の治療中
治療してもStageBに戻ることはない
ステージD:標準的な治療に反応しない進行した状態
繰り返すコントロール困難な肺水腫
心拡大の判定には以下の3つを測定します
1.LA/Ao ratio(左心房と大動脈径の比)>1.6
2.LIVIDD(拡張末期左心室内径)N>1.7
3.VHS(胸骨心臓サイズ)>10.5
(1.2.は超音波検査で、3.はレントゲン検査で測定)
ACVIMの指針 ではStageB2-Treatmentの段階からは投薬が必要です(他の心臓病の兆候、例えば高血圧や不整脈の有無などによっても異なります)。現在では施設は限られますが外科手術も選択肢となります。
こちらもご覧ください
→No.29 心臓疾患時の兆候1
→No.30 心臓疾患時の兆候2
→No.109 高齢動物の心疾患