犬の分離不安症、前回からの続きです。
治療
安全対策、行動修正、薬物療法、代替医療などを適切に組み合わせて行います。
安全対策:逃亡、破壊時、誤食などに注意し、必要なら動物病院で預かる場合もあります。
行動修正:基本的なものを挙げます。
・飼主さんが出かける前に10-15分ほど犬を無視する。「いってきます」のご挨拶もしない
・時間をかけてごほうびを取り出さなくていけないようなおもちゃ(コングなど)を出かける10分くらい前に与える
・帰宅後も10分ほど犬を無視
・飼主さんの外出時のルーティン行動を変える
・お出かけフェイントをかける
・クレートの変わりに大きめのサークルにする
・拮抗条件づけと脱感作法
・ベルなどを使うトレーニング (計画的留守番トレーニング)
・ケージトレーニング
このようなこと組み合わせて、根気よく行います。
薬剤療法:必要な場合は、抗うつ剤、抗不安剤などを適切に使用します。抗うつ剤は以前は三環係抗うつ剤(TCA)が使用されていましたが、現在では選択性セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)がよく使われています。しかし、抗うつ剤のみで治療はできません。薬剤は行動修正の補助のようなイメージです。また、抗うつ剤は効果が出るまで2ヶ月くらいかかります。そのため即効性のある抗不安剤を併用する場合があります。抗不安剤はベンゾジアゼピンという薬がよく使用されます。作用は、お酒によって酔い気分になって不安を忘れるというイメージです。
代替医療:行動修正の補助として、サプリメントやホメオパシー、漢方などを使用することもあります。抗うつ剤や抗不安薬よりも副作用が少なく、体質や証が合えば非常に効果的です。
予防:ペットショップや動物愛護センターから来たばかりときの最初が肝心です。犬は過剰に甘やかすことで分離不安症を発症することが分かっていますので、過剰に甘やかすことはやめ、いつでも飼い主離れができるようにしておきます。具体的には、生後1年間は別々に寝る、飼主さんが毎日の行動パターンを一定にしないことで何が起きても動じない子にする、社会性を身につけさせ、人や音、物などに慣れさせておく、などが挙げられます。パピークラスやワクチン時に専門家に相談することも大事です。
特殊な分離不安症もあります。
全般性不安症 (Generalized anxiety,GAD)
全般性不安症では、様々な活動や出来事について過剰な不安や心配が生じ、このような状態が通常ほぼ毎日6ヶ月以上続く場合をいいます。明確なきっかけがないにも関わらず、 常にリラックスできず、普通の生活を送る事ができずに、ちょっとした変化にも動揺し、小さな出来事に過剰に反応する場合です。なんでもかんでも不安という、とてもかわいそうな状態です。治療の対応は基本的には同じですが、薬剤の介入が必要なことが多いです。
音に対する恐怖症
音に対する恐怖症は、全般性不安症と診断されることが多いです。電子レンジや冷蔵庫、携帯の着信音など、様々な音が恐怖です。まずは、耳の病気や内分泌疾患がないことを確認します。この疾患も基本は分離不安症と同様の対処をしますが、症状が重篤なので、薬剤を使用することが多いです。