前立腺とは、膀胱の真下にあり、尿道を取り囲む様に存在しているオスにのみある生殖器です。主な働きは前立腺液を分泌し、精嚢から分泌された精嚢液を、精巣で作られる精子と混合して精液を作ること、および射精時における収縮や尿の排泄の補助などです。
犬の前立腺疾患は、良性前立腺肥大45.9%、前立腺炎38.5%、化膿性前立腺炎(前立腺膿瘍)7.7%、前立腺嚢胞5.0%、前立腺腫瘍2.6%、扁平上皮化生0.2%と分類されています。未去勢犬の前立腺は1歳から拡大し始め、6歳で80%以上、9歳で95%の犬が過形成を起こします。ヒトとはかなり病態が違います。重度になると便秘や排尿障害、会陰ヘルニア(→No116 会陰ヘルニア)などを起こします。
良性前立腺肥大は前立腺の良性過形成とも呼ばれ、5-6歳が発生のピークです。多くの症例で前立腺炎も合併しています。前立腺嚢胞とは前立腺の中に多数の嚢が作られてしまう状態です。片側だけ大きくなる旁前立腺嚢胞という病態もあります。そして、近年多くなってきているのが 化膿性前立腺炎(前立腺膿瘍)です。
化膿性前立腺炎とは、前立腺が化膿して膿がたまっている状態をいいます。前立腺内で発生した炎症によって膿が発生し、これが尿道を通じて排出されないと前立腺内に膿がどんどん溜まっていきます。この状態が化膿性前立腺炎です。化膿性前立腺炎の多くは、最初は無症状です。しかし放っておいて病態が進行すると、血尿、膿尿、腹膜炎、敗血症を起こしDIC(→No144 播種性血管内凝固)となって死に至ります。この病気のやっかいなところは、末期にならないと、発熱、元気・食欲消失などの症状が出ないことです。治療は外科的な介入が必要ですが、敗血症やDICの状態になると予後は厳しいです。
前立腺腫瘍以外のほとんどの前立腺の病気は若いうちの去勢手術で予防できます。子供を取らないのであれば、5-6ヶ月までの去勢手術がオススメです。