No.132 人畜共通伝染病2 (Zoonosis)

前回はウィルスが原因のズーノーシスのお話でした。今回は細菌が原因の代表的なズーノーシスのお話です。

原因が細菌によるもの

レプトスピラ症:ワイル病、秋やみなどとも呼ばれるレプトスピラ症は、病原性レプトスピラ細菌(スピロヘータ)の感染症です。病原性レプトスピラは保菌動物(げっ歯類など)の腎臓に保菌され、尿中に排出されます。ヒトや犬は、保菌動物の尿で汚染された水や土壌から経皮的あるいは経口的に感染します。症状は急性の発熱や黄疸、腎機能低下などが見られ、とくに犬の場合は発症してから2~4日で死亡することもあります。治療は抗生剤と補液などで行いますが、犬の混合ワクチンの中にはレプトスピラ症に有効なものがありますのでワクチンでの予防が重要です。

猫ひっかき病(バルトネラ病):猫ひっかき病は、猫や犬にひっかかれた、もしくは咬まれた部位の炎症、リンパ節の痛み・腫れ、発熱などの症状を来す疾患です。夏から秋にかけて発生頻度が高くなります。原因は、バルトネラ属の菌が感染することによります。この菌は猫や犬などの動物の爪や口腔内、寄生するネコノミなどに存在します。 日本では猫の1割が感染し保菌しており、ヒトへの感染のほとんどは猫によるものと考えられています。とくにネコノミに刺された子ネコからの感染の危険性が指摘されています。バルトネラ菌の感染があっても猫や犬は無症状です。ヒトでも通常は6~12週くらいで改善しますが、稀に重症化するので、引っかかれたり咬まれたあとに、上記のような症状があれば病院を受診してください。

カプノサイトファーガ感染症:カプノサイトファーガ・カニモルサスという細菌を原因とする感染症です。犬猫の口腔内の常在菌で、犬猫は無症状ですが、高齢者や免疫力の落ちているヒトが、咬まれたり、ひっかかれたりして感染すると、発熱、倦怠感、腹痛、重症化すると、敗血症、髄膜炎、DICなどを生じ亡くなることもあります。口移し等の過剰な接触を行わない、動物からの受傷に気をつけることなどにより感染を防止できます。

パスツレラ症:パスツレラ属の菌によって引き起こされる日和見感染症です。日和見感染症とは免疫力が低下したときにだけ症状を示す感染症のことをいいます。パスツレラ菌は犬や猫の口腔内に効率で存在しています。犬や猫はほとんど無症状ですが、ヒトは犬や猫に咬まれたり、ひっかかれたりした場合に激痛を伴う患部の激しい炎症を起こします。また、重症化すると、呼吸器系の疾患、骨髄炎、外耳炎等の局所感染、敗血症、髄膜炎等の全身重症感染症、さらには死亡例も報告されています。やはり、高齢者、糖尿病患者、免疫不全患者等の基礎疾患を持つ人が特に感染しやすいです。パスツレラ症も、口移し等の過剰な接触を行わないこと、動物からの受傷に気をつけることにより、感染を防止できます。

サルモネラ症:サルモネラ症は、サルモネラ属の菌の感染により急性胃腸炎などを起こす病気です。肉や卵の食中毒の原因菌として知られていますが、それ以外にも、爬虫類(ミドリガメ、イグアナ等)が原因となって、小児や高齢者が重篤な感染症にかかる例が報告されています。保菌動物は無症状です。ヒトでは、およそ半日から2日間の潜伏期間を経て、おへそ周辺の激しい腹痛や、嘔吐、発熱、下痢などの食中毒症状を引き起こします。熱は38度から40度近くまで上がり、下痢は水のような便で、血や膿が混ざることもあります。予防は動物に触ったらよく手を洗うことです。

Q熱:コクシエラ・バーネッティという細菌の感染によって起こる感染症です。以前は日本国内にQ熱は存在しないと言われていましたが、近年の調査によって、日本でもヒトや動物が感染していたことがわかりました。主に家畜やペット、野生動物の排泄物やダニなどから感染、発症します。動物が感染しても症状があらわれないことは珍しくありませんが、妊娠中の羊や牛が感染すると流産や死産におちいることがあります(この菌は胎盤で増殖します)。
ヒトでは2~4週間の潜伏期間を経て、頭痛や高熱、筋肉痛、全身の倦怠感、咽頭痛といったインフルエンザに似た症状があらわれます。急性のQ熱の場合、不明熱や肝炎など、様々な症状があらわれますが、ほとんどは肺炎や気管支炎、上気道炎など呼吸器系の症状です。経過は比較的良好ですが、髄膜炎や脳炎などの合併症のリスクは存在します。急性Q熱を発症したうちの一定割合の人は、心内膜炎など治療がむずかしい慢性Q熱に移行します。急性Q熱の場合、死亡率は数パーセントほどで、回復すれば一生涯つづく免疫性をえることができます。慢性Q熱では6ヶ月以上にわたって感染が継続するため、急性Q熱と比較すると症状が重篤化しやすいとされています。病気の経過もよいとは言えず、治療は簡単ではありません。慢性Q熱に移行しやすいのは、免疫力が低下している場合です。ある研究によると慢性期に移行すると、慢性疲労症候群様の症状が見られることがわかっています。これは睡眠障害やアルコール不耐症、寝汗、筋肉痛、関節痛、頭痛、微熱、慢性疲労に加えて、集中力や精神力の欠如、理性のない怒りなどの精神的症状が見られる病気です。

オウム病:オウム病は、クラミジア・シッタシという細菌を保菌している鳥類からヒトに感染を来す人獣共通感染症です。主に鳥類の糞の中に病原体がいて、乾燥するた糞が粉々になって空中に浮遊したものを、ヒトが吸引すると感染すると考えられています。ヒトの症状は、1~2週間の潜伏期間のあと、軽症のインフルエンザ様症状(悪寒を伴う高熱、頭痛、筋肉痛、全身倦怠感など)から多臓器障害を伴う劇症型まで様々です。初発症状として、38℃以上の発熱、咳はほぼ必発で、頭痛も約半数に認められます。時に血痰(けったん)や胸痛を伴うこともあります。 重症例では、チアノーゼや意識障害を来し、さらに血液を介して多臓器へも炎症が及び、髄膜炎や心外膜炎、心筋炎、関節炎、膵炎などの合併症を引き起こすこともあります。ヒトでは30歳未満での発症は少ないと報告されています。発症日を月別にみると、鳥類の繁殖期である4~6月に多いほか、1~3月もやや多いとされています。 肺炎に占めるオウム病の頻度は、世界的にもあまり高いものではなく、日本でも1~2%程度です。
一方、鳥は発症すると、運動量の低下、食欲低下、痩せる、下痢、呼吸困難などの症状を呈し、糞に大量のクラミジアが混じることになります。治療をしないと、1~2週間で死亡します。鳥の体調に異常が見られる場合は、早めに動物病院に相談して下さい。抗生物質による治療ができます。
オウム病の多くは散発例で、これまで集団発生は極めてまれであるとされていましが、日本でも2001年以降、相次いで動物園などで集団発生が確認されています。しかし、鳥類はクラミジアを保有している状態が自然でもあり(20%の鳥が保菌しているといわれています)、菌を排出していても必ずしも感染源とはならないことを理解する必要があります。むやみに感染鳥を危険視すべきではなく、鳥との接触や飼育方法に注意を払うことが重要です。