No.18 歯石

犬や猫はあまり虫歯になりません。唾液のPHがアルカリ性で(人は弱酸性)で虫歯菌が繁殖しづらいからです。しかし、唾液がアルカリ性だと歯石は付きやすくなります。人は虫歯になりやすく、犬や猫は虫歯になりやすいということになります。

では、歯石が溜まると何が問題になるのでしょうか?歯石は細菌の塊です。とくに嫌気性菌という種類の細菌が主です。この嫌気性菌がいろいろな悪さをします。主なものは、口臭、歯が抜けやすくなる、歯周病、眼窩下膿瘍、胃腸のトラブル、心臓のトラブル。などです。

口臭は言うまでもありません。人が嫌な臭いと感じているとき、人の何千倍も鼻が利く動物たちはどんな風に感じているのでしょうか(きっと、前回の学習のところでやった馴化してしまっているのでしょう)。嫌気性菌に対して抗生剤を使うと、口臭は減りますが一時的なものです。薬を止めると臭いは戻ってしまいます。

歯と歯茎の間を歯周ポケットと言います。歯石がこの間に入ると歯茎が痩せて、歯根がむき出しになり、抜けやすい歯になります。歯石を取るときは、この歯周ポケットの掃除が重要です。麻酔をかけずにポケットの歯石を取ることは非常に困難です。ブラッシングをするときも、ポケットを意識して行うと良いでしょう。

また、歯茎の炎症がひどくなると歯肉炎が起こり、歯周病となります。歯周病の簡単な定義は『歯を支えている組織の炎症疾患』ですが、いろいろな種類があり、いずれも完治が困難なものが多いです。

眼窩下膿瘍というのは、歯根が嫌気性菌の感染によって腐り、眼の下に穴が開いてしまう状態です。特に、一番大きい臼歯の根がやられている場合が多く、麻酔下での抜歯が必要になります。

胃腸のトラブルで多いのは、口の中が痛くて食欲がなくなったり、咀嚼が上手くいかなくなり、食べ物を食道に引っかけたりするものです。

心臓のトラブルについては、嫌気性菌が血液中に入り、心筋の感染が起こり、弁膜症などの原因となることが昔から言われていましたが、この度、日本大学の上地正実先生(4年前の飼い主様向けセミナーの講師をやっていただきました)の研究室がこれを証明して、近々学会報告されます。

予防としては、やはり、毎日のブラッシングです。ブラッシングは、なるべく軟らかい歯ブラシを使って下さい。歯の一番外側をエナメル質と言いますが、人間と比べて動物は非常にエナメル質が薄いです。硬い歯ブラシだとエナメル質を壊します。歯磨き粉は使っても使わなくてもどちらで構いませんが、使う場合は、動物はうがいが出来ませんので、発泡剤(ブクブクする元)が入っていないもの、キシリトール(低血糖が報告されています)の入っていないものを使用して下さい。

しかし、どんなに一生懸命にブラッシングをしても、いつかは歯石が溜まります。歯石の付きやすさは遺伝の関与が最も大きいと言われています。ある程度の歯石がついてしまったら、麻酔下でスケーリングが必要です。前述したように、麻酔をかけずに表面の歯石をとるだけでポケットの掃除をしないのは、口臭の除去以外に意味がありません(歯の裏側もきれいに出来ませんよね)。いろいろなトラブルの元になってしまう歯石、毎日のブラッシングを頑張りましょう。