3月の西区の広報をご覧になった方はお気づきかもしれませんが、西区から依頼され、狂犬病予防注射の啓蒙文を書かせていただきました。が、紙面の都合上、かなり、割愛されてしまったので、去年のメルマガの内容とも重複するところもありますが、もともとの全文をご紹介させていただきます。
日本の犬では50年以上狂犬病の発生の報告はありませんが、なぜ、そんなに長い間発生がない病気の予防注射を毎年しなければならないのでしょうか?理由を挙げてみます。
1.海外では、アジアを中心にいまだに毎年多くの死者が出ています。2008年の数字ですが、インドで20000人以上、中国で2000人以上の人たちが狂犬病で亡くなっています。
2.発症すると、神経症状、脳炎症状を呈し、致死率がほぼ100%の病気です。人の場合は、発症する前ならば、狂犬病ワクチン、抗狂犬病免疫グロブリンを用いた暴露後免疫療法を行うことによって救命できる可能性が高いといわれていますが、現在、日本で抗狂犬病免疫グロブリンの入手は困難です。また、犬に限らず、狂犬病が疑われる動物の治療は法律で禁じられています。
3.げっ歯類以外のほとんどすべての恒温動物(哺乳類、鳥類)が感受性を持っています(アメリカではコウモリからの人への感染が問題となっています)。これだけ、海外との交流がさかんな現代社会では、狂犬病に羅患している動物が、いつ、日本国内に入ってくるかわかりません。
4.統計学上、70%以上の犬が抗体を持っていると、ウィルスが国内に侵入しても大流行しないそうです。しかし、日本での狂犬病のワクチンの接種率の実際は50%以下だといわれています。
5.法律だから…
以上が主な理由でしょうか。横浜市では、毎年100件前後の咬傷事故の届けがあります。届けられていないものを含めれば数倍の件数になるでしょう。狂犬病は発症してからだと治療は間に合いませんので、国内に狂犬病ウィルスの常在を許せば、咬傷事故のたびに暴露後免疫療法が必要となります(法的に犬をはじめ動物には治療さえ出来ません)。いうまでもなく病気は予防が1番大切です。集合注射という形態が現代と合わなくなって来ている側面があるということは否めませんが、海外では使用されているような、数年に1度で良い信頼性の高いワクチン、抗狂犬病免疫グロブリンの製造、認可や、なにより、狂犬病の発生の全世界的な衰退が認められるまでは、生後90日以上で健康なワンちゃんには、毎年、狂犬病予防注射を受けさせて下さい。集合注射ででも、かかりつけの病院ででも構いません。
また、病気の治療中、高齢犬、妊娠犬、他のワクチンを接種したばかり、発作を起こしたことがある、注射で副反応を起こしたことがある、というような場合は、必ずかかりつけの病院の獣医さんとご相談下さい。
最後に蛇足ですが、動物を飼っている方々は『世の中には動物嫌いの人もたくさんいらっしゃる』ということを忘れてはいけないと思います。動物嫌いの人たちからすれば、「そんなに危険な病気の可能性が少しでもあるなら、犬なんて飼わないでくれ」などということになりかねません。犬と暮らすためには、狂犬病予防注射接種も社会人として責任の1つだと思います。
以上が、1月の下旬に書いたものの全文です。その後、本当に最近の話ですが、大分大学から狂犬病のウィルスを破壊できるスーパー抗体酵素を開発したという発表がありました。実用化までは、まだまだ、多くのハードルをクリアしなければならないでしょうが、世界中の多くの人や動物が救われると良いですね。本当に、医学は日進月歩です。