扁平上皮癌は扁平上皮細胞から発生するため、扁平上皮細胞が存在する場所であれば、どこにでも発生します。多くは、指(爪床)・耳・鼻・まぶた・口腔内などです。通常、単独の病変として発生しますが、多中心性扁平上皮癌(ボーエン病)と呼ばれる、体の複数の箇所に病変が発生するものがあります。多中心性扁平上皮癌は猫では稀です。
環境要因・遺伝的要因などの危険因子が複雑に絡み合って発症していることが多いです。紫外線・日光への曝露、タバコの煙、ノミ除け首輪などは、猫の扁平上皮癌の原因となるといわれています。また、白色および淡色の猫は扁平上皮癌を発症する可能性が高い傾向にあります。一方、シャム・ヒマラヤン・ペルシャ猫では扁平上皮癌の発症リスクが低い事が報告されています。
扁平上皮癌は、瞼・鼻・唇・耳・口腔内など紫外線・日光に曝露されやすい部位に発生します。足の指にも発生することがあります。見た目は、ただれる(潰瘍)、赤みを帯びて盛り上がる、カリフラワー様に増殖するといったものが多いです。また、破裂・自壊して出血することもあります。その場合は痛みを伴います。足の指にできた場合は、腫れ・痛み・爪の喪失・跛行を引き起こします。患部を舐めて噛むなど、自傷行為を起こすことがあります。
診断は針吸引検査(FNA)や生検により行います。FNAは針のついた注射器で病変から細胞のサンプルを採取し顕微鏡で観察します。生検は、腫瘍を外科的に切除し病理検査を行います。また、足指の腫瘍の場合には、扁平上皮癌(原発性)なのか肺癌の転移による腫瘍なのかをレントゲンやCT検査で判断します。猫の場合、足指の腫瘍の90%は肺から足指に転移したものといわれていて、これを肺趾症候群といいます。
局所浸潤性が高い扁平上皮癌ですが、顔面に発生するものは、顎下リンパ節や肺などへの転移する事があります。転移の有無を調べるには、触診、超音波検査・レントゲン検査を行います。リンパ節が腫大している場合には、リンパ節から採材し、転移の有無を確認することもあります。
治療は可能なら外科切除を行います。外科切除の前にはCT検査が望まれます。
その他の治療法としては、
・リン酸トラセニブ:チロシンキナーゼ阻害薬であるリン酸トラセニブは、扁平上皮癌の進行を抑え、寿命の延長を望める分子標的薬です。リン酸トラセニブにて治療した症例は、無治療群と比較して生存期間が3倍延長したとの報告もあります。
・NSAIDS:疼痛の緩和をします。
・ビスホスホネート:骨破壊を併発している扁平上皮癌の症例では、ビスホスホネートを使用することがあります。扁平上皮癌による骨破壊の抑制と疼痛緩和の作用があります。また、最近では腫瘍細胞抑制に寄与する可能性もあると示唆されています。
・食事療法:痛みなどから食事を思うように食べれず、QOLが悪化してしまう事が多いので、胃瘻チューブや食道チューブなどの設置も考慮し、QOL悪化を防ぎます。また、温めた柔らかく食べやすいフードが必要です。脱水を起こしやすくなりますので、積極的な水分の投与や点滴も必要です。
・代替医療:免疫力を上げるために行います。体質に合うと著効する場合もあります。
これらを組み合わせて治療を行います。
猫の扁平上皮癌(とくに口腔内)には、放射線療法が奏功しないケースが多いです。少量分割照射での生存期間中央値は2ヶ月とも言われています。ですが近年、外科切除・化学療法を組み合わせる事で、生存期間を延長できることを示唆する報告もあります。
口腔内に扁平上皮癌ができてしまい、外科治療が困難である場合は予後が悪いことが多く、生存期間は3ヶ月といわれています。しっかりと外科的に扁平上皮癌を取り切れた場合は長期生存が可能な場合もあります。
舌根部の扁平上皮癌
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