腎臓はエリスロポエチンという名前のホルモンを分泌しています。このホルモンは骨髄の中にある造血にかかわる細胞に働きかけ、赤血球を作ってくださいという指令を出す重要なホルモンです。慢性腎臓病(CKD)になってしまった動物は、徐々に腎臓の機能が失われていきます。この時、血液から尿を作る働きや血液から老廃物を取り除く働きと一緒に、エリスロポエチンを分泌する働きも少しずつ失われ、体内のエリスロポエチンの量が減り、赤血球がどんどん減っていってしまいます。このように、腎臓の機能低下に伴って引き起こされた貧血を腎性貧血と呼びます。また、腎臓から分泌されるエリスロポエチンの量が減ることが貧血の大きな原因ですが、腎臓の機能が低下していることで体内にとどまっている老廃物の中には、赤血球を壊してしまうものも含まれているため、腎機能低下そのものも貧血の原因になります。
腎性貧血は、慢性腎臓病(CKD)の動物に一般的にみられる合併症ですが、過去の研究では、犬で4~70%、猫で32~65%で認められるといわれています。有病率と重症度はCKDのステージが上がると上昇します。また、腎性貧血は生存期間の短縮とQOLの低下に関連しています。数年前まではヒト用の赤血球造血刺激因子(Erythropoiesis stimulating agents: ESA)製剤が使用されていましたが、現在では猫用のESA製剤ダルベポエチンα(商品名エポベット)が開発され臨床現場で使用されています。
ESA製剤の使用開始は、重度の貧血が認められ、貧血が原因と考えられる臨床症状が現れた場合です。CKDの猫の場合Ht値が20%以下になると、食欲不振、虚弱、疲労、無気力、冷感への不耐性、嘔吐、睡眠時間の増加などの臨床症状が現れるようになります。ケースバイケースですが2週間に1度の投与が推奨されています。注意すべき合併症としては、造血の急速な亢進による鉄欠乏や、Ht値の治療後の上昇により、血液粘稠度が高くなることに伴う血栓塞栓症と高血圧です。とくに高血圧の発生率は40~50%との報告があります。
エポベット
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