心臓腫瘍は、犬では血管肉腫や大動脈小体腫瘍が多く、猫では発生自体が稀ですがリンパ腫が多いとされています。いずれの腫瘍でも腫瘍による圧迫や腫瘍細胞の浸潤で正常な組織が減ることで心臓の働きが悪くなりますが、心タンポナーデという状態になり、急に元気や食欲がなくなってしまうことも少なくありません。心臓は心外膜という膜に包まれており、心タンポナーデではこの心外膜と心臓の間に急速に液体(多くの場合は腫瘍から出血した血液)が溜まり、心臓が十分に拡がることができなくなり、結果として血液を十分に送り出すことができなくなります。心タンポナーデは心臓腫瘍だけではなく、僧帽弁閉鎖不全症時の心臓破裂や明らかな原因の認められない特発性心膜液貯留など他の原因によっても起こります。
血管肉腫は、ジャーマンシェパード、ラブラドールレトリバーやゴールデンレトリバーなどの大型犬に多く発生し、心臓での好発部位は右心耳または右心房で、心膜腔側に突出して拡大するのが一般的ですが、右心房内腔へ突出したり、心基部など他の領域を巻き込みながら拡大することもあります。
大動脈小体腫瘍は、ブルドックやフレンチブルドックなどの短頭種での発生が多く、慢性的な低酸素との関連が指摘されています。比較的ゆっくり大きくなるので症状を示さないこともあり、多くは偶発的に発見される腫瘍です。大動脈小体は、大動脈起始部に存在する抹消性化学受容器の一種であり、動脈血液中の酸素分圧をモニタリングしています。その解剖学的特徴から健康診断などでは発見されにくい特性があります。
心臓腫瘍の症状は、心臓腫瘍による心臓への圧迫や腫瘍組織の浸潤で心臓の働きが悪くなると、疲れやすくなったり、むくんだり、お腹や胸に水が溜まったりします。心タンポナーデになると、急に動けなくなり、歯肉や舌などの色が薄く悪くなり、呼吸促迫、不活発、起立困難などがみられます。急速な低血圧で嘔吐する場合もあります。また、循環不全に陥り、失神、虚脱、呼吸困難となり突然死するケースもあります。
心臓腫瘍は完全切除が難しい場合が多く、腫瘍自体にもよりますが、多くの場合化学療法や代替医療の使用で緩和を目指します。また、働きに悪くなった心臓をアシストするための内服薬を使用する場合もあります。
心タンポナーデの状態では心膜を針で刺して心臓の圧迫の原因となっている液体を抜去します。そうすると一時的には心臓は圧迫が解除され働きは改善しますが、心臓腫瘍が原因の場合には繰り返し心タンポナーデを発症する事が多く、その際には手術で心臓を包んでいる心膜を切除することを検討します。心膜切除を実施する際には、腫瘍の一部を生検し、腫瘍の種類を特定することで予後の見通しの確認や治療法の検討に役立てることができます。一部の腫瘍では経過の長いものもありますが、一般的には心臓腫瘍の予後は良くありません。
心臓腫瘍の超音波
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No.179 血管肉腫 (Hemangiosarcoma)