No.358 トレポネーマ (ウサギ梅毒)

ウサギのトレポネーマ症は、ヒト梅毒の原因菌となる梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)の近縁のTreponema paraluiscuniculiによる感染により発症します。外鼻孔(鼻の穴)の周囲、口唇や眼瞼(まぶた)、陰部、肛門周囲の粘膜皮膚移行部から病変を形成し、発赤や丘疹、浮腫、鱗屑(フケ)、痂皮(かさぶた)、皮膚の糜爛、潰瘍、出血などがみられます。体幹部(胴体)には病変がないこと、皮膚病によくみられるような痒みがないことが他の皮膚疾患と異なる特徴です。外鼻孔に症状が出た場合はくしゃみが認められることがあり、スナッフルなどの上部呼吸器感染症と類似した症状がみられます。このくしゃみはトレポネーマ症を治療することによって改善していきます。交尾感染(性感染)が多いと考えられていますが、親から子供への垂直感染(母子感染)でも発症します。

ウサギのトレポネーマ症はヒトでの性感染症の梅毒を引き起こす梅毒トレポネーマの仲間であるために「ウサギ梅毒」という別名がありますが、この病気は人獣共通感染症ではないため、同居のウサギ以外の動物や飼主さんに感染することはありません。

病原菌を保菌していても発症せず、キャリアとなる可能性のある不顕性感染となる場合もあります。こうした症状が見られないウサギにおける抗体検査の陽性率が35%程度あるという報告もあり、ウサギの感染症としては決して珍しいものではありません。トレポネーマ感染後に発症するか否かはウサギの免疫状態や原因菌の病原性の強さによると考えられています。

診断にはヒト用の梅毒検査に用いられるRPR(Rapid Plasma Reagain)テストキットを使用することができます。この検査法は、病気が疑われるうさぎの血清にトレポネーマに対する抗体が存在するかどうかを簡便に調べるものです。しかし、疑わしい症状がみられても陽性とならずに確定診断に至らないケースもあります。また、保菌していても、不顕性感染で症状がない場合にはそもそも検査に至ることがありません。以上の理由から、特徴的な臨床症状によりトレポネーマ症であると疑われる場合には、抗体検査を省いて治療による改善をもって診断とするような治療的診断が行われることが多いです。

治療は抗菌薬としてクロラムフェニコールという抗生剤を第1選択薬として使用します。通常1~2週間で症状が改善していきますが、そこで休薬すると再発することが多いため、病変が消えたあとも最低2週間は治療を継続します。ヒトの梅毒と同様に抗生物質のペニシリン系薬物も有効とされていますが、その副作用によりウサギのデリケートな腸内細菌のバランス、腸内細菌叢が乱れてしまう可能性があるため、多くの場合はクロラムフェニコールを用いて治療が行われます。薬に上手く反応せずに難治性の場合もあります。また、治療後に不顕性感染となり、後に再発するケースもあります。


肛門周囲部の病変